[go: up one dir, main page]
More Web Proxy on the site http://driver.im/

軟甲とは? わかりやすく解説

甲 (頭足類)

(軟甲 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/28 08:01 UTC 版)

ヨーロッパコウイカ Sepia officinalisの貝殻(背面)。
カミナリイカ Sepia lycidasの貝殻(腹面)。
ヨーロッパコウイカ

(イカの)(こう、: sepion, cuttlebone)は、頭足類(とくにコウイカ類)が持つ、外套膜背面の中にある内在性の殻である[1]貝殻 (shell)とも呼ばれる[2]。動物の餌などでは英語読みのカトルボーン(カットルボーン)とも呼ばれる[3]

ヤリイカアオリイカスルメイカなどのツツイカ目では殻はさらに退化して石灰質を失い、殻皮質 (コンキオリン、conchiolin)のみとなり軟甲 (gladius)とよばれている[4]。軟甲は俗に「イカの骨」と呼ばれることもある[5]

概要

貝殻の痕跡器官であるため主に炭酸カルシウムから構成されている。もともとの形は巻き貝状、あるいはツノガイ状で、アンモナイトオウムガイのように内部に規則正しく隔壁が存在し、細かくガスの詰まった部屋に分けられていたと考えられているが、現生種ではトグロコウイカのみがその形状を持ち、他の種はそのような部屋の形を残してはいない。矢石として出土するベレムナイトの化石も、元は貝殻である。

コウイカの場合、それに当たる部分は現在の甲の端っこに当たる部分(写真では向かって左端、尖った部分が巻き部)であり、本体の気体の詰まった小部屋に分かれて、浮力の調節に使われる部分は、新たに浮きとして発達したものと考えられる。顕微的特徴を見ると薄い層が縦の柱状構造により結合している。このようなイカの骨は種によっては200 - 600 mの水深で内部へ破裂してしまう。従ってコウイカの殆どは浅瀬の海底、通常は大陸棚に生息する[6]

構造

最大気孔率93 vol%の多孔質な構造となっている[7]。高い多孔性を持ちながら、高い曲げ剛性、圧縮強さなどの多機能特性を有する自然物である[8]

起源

現生の鞘形類 Coleoideaの起源はジュラ紀初期のPhragmoteuthidaに置かれると考えられている[9]。ある系統は房錐 (phragmocone)をまだ保持しているうちに8本の腕と2本の触腕の配置を急速に獲得し十腕類になったとみられる[9]。そのうちPlesioteuthisなどのグループは、遅くとも上部ジュラ系までには房錐を失い、例えばアカイカ属 Ommastrephesなどの現生のイカとほぼ見分けがつかない軟甲を発達させた[9]。このグループは現生の開眼類になった[9]。もう一つのグループでは、房錐は甲に特殊化し、現在のコウイカ類につながる[9]。上部ジュラ系から知られている、前甲 (pro-ostracum)の側方の「翼」を保持しているTrachyteuthisの甲が典型的である[9]コウイカ目では、連室細管から腹側の部分が消失して後端の太い石灰質の棘状となった[4]

用途

その昔、イカの骨は磨き粉の材料となっていた。この磨き粉は歯磨き粉制酸剤、吸収剤に用いられた。今では飼い鳥カメシマリスなどに与えるカルシウム・ミネラルサプリメントに使われる[10][3][11]

イカの骨は高温に耐え、彫刻が容易であることから、小さな金属細工の鋳型にうってつけであり、速く安価に作品を作成できる。

イカの骨は「烏賊骨」という名で漢方薬としても使われる。内服する場合は煎じるか、砕いて丸剤・散剤とし、制酸剤・止血剤として胃潰瘍などに効用があるとされる。外用する場合は止血剤として、粉末状にしたものを患部に散布するか、海綿に塗って用いる[12]

西洋でインクのにじみを止めるために紙に振りかけたにじみ止め粉英語版に使用された[13]

脚注

  1. ^ 瀧巖『動物系統分類学5(上)』中山書店、1999年、366頁。 
  2. ^ 奥谷喬司、田川勝、堀川博史『日本陸棚周辺の頭足類 大陸棚斜面未利用資源精密調査』社団法人 日本水産資源保護協会、1987年。 
  3. ^ a b 手乗り鳥の医・食・住 著:石森礼子 年:2005。p.123
  4. ^ a b 瀧巖『動物系統分類学5(上)』中山書店、1999年、333頁。 
  5. ^ 奥谷喬司『イカはしゃべるし、空も飛ぶ』講談社ブルーバックス〉、2009年、37頁。ISBN 978-4-06-257650-5 
  6. ^ Norman, M.D. 2000. Cephalopods: A World Guide. ConchBooks.
  7. ^ Yang, Ting; Jia, Zian; Chen, Hongshun; Deng, Zhifei; Liu, Wenkun; Chen, Liuni; Li, Ling (2020-09-22). “Mechanical design of the highly porous cuttlebone: A bioceramic hard buoyancy tank for cuttlefish” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 117 (38): 23450–23459. doi:10.1073/pnas.2009531117. ISSN 0027-8424. PMC 7519314. PMID 32913055. https://pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2009531117. 
  8. ^ Cadman, Joseph、Shiwei, Zhou、Yuhang, Chen、Wei, Li、Appleyard, Richard、Qing, Li「セル状構造の生物模倣設計のためのイカの甲のキャラクタリゼーション」『Acta Mechanica Sinica』第26巻第1号、2010年、27–35頁、ISSN 0567-7718 
  9. ^ a b c d e f Donovan, D. T. (1977). “Evolution of the Dibranchiate Cephalopoda”. Symp. zool. Soc. Lond. (38): 15-48. 
  10. ^ Norman, M.D. & A. Reid 2000. A Guide to Squid, Cuttlefish and Octopuses of Australasia. CSIRO Publishing.
  11. ^ シマリス完全飼育:飼育管理の基本、生態・接し方・病気がよくわかる 著:大野瑞絵、三輪恭嗣 年:2022 p.89
  12. ^ 『改訂版 汎用生薬便覧』日本大衆薬工業協会 生薬製品委員会 生薬文献調査部会、2004年、72-75頁。 
  13. ^ pounce コリンズ英語辞典

関連項目


軟甲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 20:28 UTC 版)

頭足類の体」の記事における「軟甲」の解説

軟甲(なんこうgladius, pen)はツツイカ類の甲で、さらに退化して石灰質失い殻皮質 (コンキオリンconchiolin)のみとなったもの。

※この「軟甲」の解説は、「頭足類の体」の解説の一部です。
「軟甲」を含む「頭足類の体」の記事については、「頭足類の体」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「軟甲」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「軟甲」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

「軟甲」の関連用語

軟甲のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



軟甲のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの甲 (頭足類) (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの頭足類の体 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS