がい‐てん〔グワイ‐〕【外典】
げ‐てん【外典】
外典
外典
外典
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/14 04:55 UTC 版)
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外典(がいてん)またはアポクリファ(Apocrypha)とは、ユダヤ教・キリスト教関係の文書の中で、聖書の正典とされる『旧約聖書』39巻、『新約聖書』27巻以外の文書のことで、旧約外典、新約外典がある[1]。
「Apocrypha(アポクリファ)」とはギリシア語のαπόκρυφος(隠されたもの)に由来する言葉である。対義語は「正典」または「カノン(Canon)」。
概念
「外典」とは、聖書におさめる主張もあったが、正典から除外された文書群のことを指している。それに対して同じように使われることがある「偽典」というのは、そもそも聖書として認められたことがない文書のことを指して用いられる。
ユダヤ教での扱い
ユダヤ教の「正典」(キリスト教徒における旧約聖書)は、エルサレム陥落後の1世紀末に行われたイスラエル南西部のヤブネ(ヤムニア)において開かれたヤムニア会議において確認された。ここにおいてファリサイ派のラビたちによってヘブライ語の正典が確認され[注 1]、それ以前に成立していたギリシア語の七十人訳聖書におさめられていた文書の一部が正典ではないとみなされて除外された。
キリスト教での扱い
旧約聖書
キリスト教における旧約聖書の正典・外典の位置づけは諸教派により異なっている。宗教改革以前のキリスト教会には、旧約聖書の正典・外典という区別はなかった。伝統的キリスト教会は、ヤムニア会議以前に成立した古代ギリシア語訳の七十人訳聖書、ないしその翻訳を旧約聖書の正典としていた。
正教会
正教会は、ギリシア語の七十人訳聖書に収められている文書の全てをカノン(正典、英語: Biblical Canon)として受け入れ、奉神礼において使用し尊重している[2]。
ただし、定理(教義)確定の主要な出典としては用いていない[2]。
カトリック教会
カトリック教会においては、使徒伝承によって教会は聖書正典を識別するとされる[3]。
旧約聖書の正典のリストは、トリエント公会議において確定され、この中にプロテスタントにおいて外典(アポクリファ)と分類されたものも含まれることが確認された。ギリシア語の七十人訳聖書に収められているものが基になっている[4]。カトリック教会は、あくまでそれまで使用していた聖書を正典として確認したものとしており、「外典であったものを正典に付け加えた」とは認識していない。
なお、1987年に日本のカトリック教会と(一部の)プロテスタント諸教会による共同事業により発行された新共同訳聖書では、旧約聖書の外典の一部の文書を「旧約聖書続編」として収録しているが、その「序文」において、これらの文書は初期のキリスト教徒らがギリシア語を用いるユダヤ教徒から聖なる書物として受け継いだとしている[5]。
プロテスタント
マルティン・ルターがヘブライ語本文から聖書を訳した際に、ヤムニア会議の定めたテキストと、カトリック教会が使っていたラテン語聖書(ヴルガータ)との異同に気付いた。ルターはこれを外典と位置付けた。
プロテスタントは聖書の内的権威を教会が確認したとする。ヘブライ語聖書正典に外典が付け加えられたのは七十人訳聖書によるが、この時、外典は正典と区別されていた。新約聖書記者も外典からは引用していない[6][注 2][要検証 ]。ローマ・カトリックはヴルガータに含まれたものが聖書だと主張したが、宗教改革者はヘブライ語聖書に含まれているもののみが旧約聖書である、と主張した[7]。
プロテスタントの一部の教派からは、ローマ・カトリックはトリエント公会議で旧約聖書と外典の区別を取り除き[8]、それまでキリスト教会は39巻の旧約聖書を正典としていたのに対し、ローマ・カトリックは聖書に裏づけの無い煉獄等の教理を裏付けるために、同公会議で聖書正典に外典を付け足したと解釈される[9]。
新約聖書
新約聖書の正典の選択は、古代教会の自己規定の確立と連動するかたちで確定していった。一般に正典の基準として以下の4つの基準がよくあげられる。
歴史的には2世紀にマルキオンが独自の視点から旧約聖書を排除し、聖書の「正典」を編纂した。このため、マルキオン派など異端への対抗上、キリスト教正統派における「正典」を決める必要が生じ、教会内での議論を経て、367年にアタナシオスの書簡において、初めて27文書が選択された。この基準は397年のカルタゴ会議において正式に承認されている。
東方教会では10世紀までに事実上正典が確定している[注 3]。東方教会で最後まで扱いが議論されたのは『ヨハネの黙示録』であったが、西方で支持されたこの文書は最終的に東方でも正典と認められた。西方では、ルターの宗教改革の影響で、16世紀から17世紀にかけて、正典の公式な定義が行われた。カトリック教会では1546年のトリエント公会議において聖書の正典・外典の定義が再確認された。プロテスタント教会でも17世紀の中盤に同じ27文書を正典と認めている。
なお、新約聖書外典の中には、『トマスによる福音書』のように異端であるグノーシス主義の思想が見られるものや、『ヤコブ原福音書』、『トマスによるイエスの幼児物語』など四福音書に書かれていないイエス誕生前のマリアやイエスの幼少時を記していて、カトリックの教説に取り入れられたものもある[要出典]。
また、新約聖書に入らなかった文書のうち、内容に問題はなく使徒の著作でないことのみが問題とされた使徒の弟子(使徒教父)による文書は使徒教父文書と呼ばれる。
一覧
旧約外典一覧
- 第三エズラ書
- 第四エズラ書
- トビト記
- ユディト記
- エステル記補遺
- ソロモンの知恵
- シラ書(集会の書、ベン・シラの知恵)
- バルク書
- エレミヤの手紙
- ダニエル書補遺
- スザンナ
- ベルと竜
- アザルヤの祈りと三人の若者の賛歌
- マナセの祈り
- マカバイ記1
- マカバイ記2
- マカバイ記3
- マカバイ記4
- 詩篇151
- ヨブ記補遺
- エノク書
新約外典一覧
- パウロ行伝
- ペトロ行伝
- パウロ・テクラ行伝
- ペトロの黙示録
- パウロの黙示録
- ディダケー(十二使徒の教え)
- バルナバの手紙(バルナバ書)
- クレメントのコリントの信徒への手紙
- イエス・キリストとエデッサ王アブガルスの手紙
- 使徒パウロのラオディキアの信徒とセネカへの手紙
- イグナティオスとポリカルポスの手紙
- エジプト人による福音
- ユダヤ人による福音
- ユダによる福音書
- ニコデモによる福音書 (ピラト行伝)
- ペトロによる福音書(ペテロ福音書)
- 救い主による福音
- ヤコブによる原福音 (ヤコブ原福音)
- トマスによるイエスの幼時物語
- トマスによる福音書
- マタイによるイエスの幼時福音
- マルコによるイエスの幼時福音
- アラビア語によるイエスの幼時福音
- マリアによる福音書(マグダラのマリア福音書)
- フィリポによる福音書
- ヘルマスの牧者
- イエス・キリストの叡智
- シビュラの託宣[10]
脚注
注釈
出典
- ^ 『ビジュアル図解 聖書と名画』中村明子、西東社, 2016. p120
- ^ a b The Old Testament Apocrypha (Excerpt taken from "These Truths We Hold - The Holy Orthodox Church: Her Life and Teachings". Compiled and Edited by A Monk of St. Tikhon's Monastery.)
- ^ (日本カトリック司教協議会教理委員会 2002, p. 38)
- ^ CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Canon of the Old Testament
- ^ 新共同訳聖書 序文 p(Ⅲ) 日本聖書協会
- ^ (尾山 2003, p. 25)
- ^ (マクグラス & 高柳 2000, p. 194)
- ^ (マクグラス & 神代 2002, p. 244)
- ^ (尾山 2003, pp. 26 f)
- ^ キリスト教要素が強い部分について。cf.(荒井 1997, 巻末の「新約聖書外典一覧」)
参考文献
- 荒井献 編『新約聖書外典』(新版)講談社〈講談社文芸文庫〉、1997年12月。ISBN 4-06-197597-8。
- 尾山令仁『聖書の教理』羊群社、1986年3月。
- 尾山令仁『聖書の教理』羊群社、2003年10月。ISBN 4-89702-036-0 。
- 『カトリック教会のカテキズム』日本カトリック司教協議会教理委員会 訳・監修(第3刷版)、カトリック中央協議会、2002年7月。ISBN 4-87750-101-0。 - 原タイトル:Catechismus catholicae ecclesiae.
- アリスター・マクグラス『宗教改革の思想』高柳俊一 訳、教文館、2000年10月。ISBN 4-7642-7194-X。 - 原タイトル:Reformation thought. (3rd ed.)
- アリスター・マクグラス『キリスト教神学入門』神代真砂実 訳、教文館、2002年1月。ISBN 4-7642-7203-2。 - 原タイトル:Christian theology. (3rd ed.)
関連項目
外部リンク
外典
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「Nag Hammadi library」および「New Testament apocrypha」も参照 新約聖書外典には通例2世紀以降とされるキリスト教関連文書がかなり含まれていて、その中のグノーシス主義的な福音書は学者の間で大きな関心を集めている。1945年にナグ・ハマディ文書が発見されて以来、学術的に大きな関心が寄せられ、多くの学者がグノーシス主義的な福音書を研究し、それについて書いてきた。 しかし21世紀の学者の間では、グノーシス主義的な福音書は初期キリスト教信仰の発展に光を当てるかもしれないが、史的イエスの研究にはほとんど貢献しないと認める傾向である。なぜならグノーシス主義的な福音書は通常いわゆるQ文書に似て、説明的ではなく語録で構成されていること、信憑性と著者名に疑問があること、さらに様々な部分が新約聖書の対応箇所に依存していることが挙げられる。 史的イエスに関する現代の研究はグノーシス主義的な文書から離れ、ユダヤ教、古代ギリシャ・ローマ世界、キリスト教の正典という3分野の資料の比較に焦点が向けられている。 例えばバート・アーマン(英語版)は、ナグ・ハマディ文書の一つ『トマスによる福音書』のグノーシス主義的な記述は史的イエス研究にとってほとんど価値がないと述べている。なぜならば『トマスによる福音書』の著者は、例えば十字架刑のようなイエスの身体的な経験あるいは信者の身体的な存在を重視せず、身体的な出来事よりただイエスの教えの秘密に興味があったからである。ナグ・ハマディ文書の一つである『ヨハネのアポクリュフォン(英語版)』は、2世紀の支配的な傾向に関する研究や、『ヨハネの黙示録』第1章19節を参照しているとして『ヨハネの黙示録』の著者に関する研究に役立ったが、地上におけるイエスの生涯についての話ではなく、大部分が昇天後の幻となったイエスの教えについて書かれている。一方でEdward Arnalのように、『トマスによる福音書』はイエスの教えが初期キリスト教徒の間でどのように伝えられたかを理解するのに引き続き有用であり、初期キリスト教の発展に光を当てていると主張する学者もいる。外典の中のイエスの言葉は、キリスト教の正典にあるイエスの言葉と重複しているものもあるが、正典にないものはアグラファと呼ばれる。アグラファは少なくとも225あるが、研究者のほとんどはアグラファの大部分の信憑性について否定的な結論を出していて、史的イエス研究の資料として使うことにほとんど価値がないとみている。Robert Van Voorstは、アグラファのほとんどはまったく信用できないと述べている。学者の間でもアグラファの信用性については見解が分かれていて、200以上あるアグラファの内、イエスの真正の言葉とされるものは最多で18、最少で7であり、その他はまず価値が無いとされている。外典文書の研究は続けられているが、学界の一般的な意見では、起源が不確かなものが多く、ほとんどの場合価値の低い後世の文書であるため、史的イエスの研究にはほとんど役に立たない。
※この「外典」の解説は、「史的イエスの資料」の解説の一部です。
「外典」を含む「史的イエスの資料」の記事については、「史的イエスの資料」の概要を参照ください。
「外典」の例文・使い方・用例・文例
- 聖書外典の、または、聖書外典に属する
- 聖ヨハネ外典に伝統的に起因する第3番目の新約聖書書簡
- エステル記に加えられた文書で成る外典
- ダニエル書に加えられた原文からなる外典書
- ダニエルの本に加えられたテキストから成る聖書外典の本
- ダニエル書に加えられた文書で成る外典書
- ジュディスがどのように彼女の人々を救ったのかを伝える聖書外典の本
- I歴代志、II歴代志、エズラ、およびネヘマイアからの編集から成る外典
- 天使の啓示の外典の本
- 知恵に関する瞑想で主に成る外典の本
- ユダ・マカバイの人生を記述する外典
- ユダ・マカバイの人生について書かれた外典
- 聖書外典の本の1つのユダヤ人のヒロイン
- 外典というキリスト教の蔵書
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