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11月23日(土)金子玲介『死んだ木村を上演』

  • 死んだ木村を上演
  • 『死んだ木村を上演』
    金子 玲介
    講談社
    1,925円(税込)
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金子玲介『死んだ木村を上演』(講談社)読了。やばい。凄すぎだ。

8年前に演劇サークルの合宿中に死んだ木村の死の真相を探ろうと同級生がその日を再演するという脚本が作中作的な構造になっているんだが、たいていこの手のものは読者を置いてけぼりにきたりするものだ。ところが夢中になって読んでしまうのだった。

それはなぜか? デビュー作である『死んだ山田の教室』でもその力が存分に発揮されていたけれど、この作者はとにかく会話文が上手い。鉤括弧の"「"「をさらに"「"でかぶせてきたり、会話の流れがめっちゃリアルなのだった。女優となって人気者の咲本がいう「そだよ」なんて声が聴こえてきそうだし、その一言でキャラが立ち上がってくるのだ。

今年の5月に『死んだ山田と教室』で衝撃的デビューを果たして、その3ヶ月後に『死んだ石井の大群』を、さらにまた3ヶ月後にこの『死んだ木村を上演』を刊行する快挙の中、それぞれの作品に趣向が凝らさせる技量にも驚くが、バラバラの作品の根底に金子玲介の確固たる個性が貫かれているのがすごい。この著者は、後悔の向こうに希望があるこ、いや絶望から生が導かれることを伝えたいのだろう。

2024年は金子玲介の年だったのだ。

週末実家介護。晴れてるものの風が強く、父親墓参りと散歩はとりやめ。

持ってきていた著者校のゲラを書き写し作業に没頭する。

11月22日(金)「ぼくとパパ、約束の週末」

代休を取ってさいたま新都心のMOVIXへ娘と映画「ぼくとパパ、約束の週末」を観にいく。自閉症の少年が学校で好きなサッカーチームがないことを揶揄われ、お父さんとドイツ国内54クラブのスタジアムをめぐり試合を観戦する映画なのだった。

その臨場感あふれるゴール裏の様子に私は興奮し、娘は久しぶりに聞くドイツ語に頷いていた。

夜、埼玉スタジアムへ途中中断で延期されていた川崎フロンターレとの後半戦を観に行く。前代未聞の45分だけの試合なのだが、どうやら我ら浦和レッズの選手だけ伝わってなかったようで、エンジンのかからぬまま点を取られ、引き分けに終わってしまう。

観戦仲間みなが消化不良で帰宅の途につく。何もない一年がもうすぐ終わる。

11月21日(木)指定データ

朝から今月の新刊『羊皮紙をめぐる冒険』の初回注文〆作業に勤しむも、日販のBookEntryの指定データのアップロードがどうしてもエラーになってしまう。

電話して問い合わせると担当者不在のためメールを送ってくれという。このデータがアップロードできなければ新刊の発売が頓挫してしまうわけで、そんな悠長にしている場合でなく、メールは送りつつも青土社のエノ氏に電話する。

するとエノ氏もしばらく前に同様のトラブルに見舞われたらしく、解決法を伝授してくれ、エノ氏に言われた通りデータを作りアップロードすると問題なく受付てもらえた。

要するにBookEntryの新システムは中断したものの、指定データはトーハン同様に規定のフォーマットしか受付られなくなるのはそのまま進展していたとのことだ。

そうじゃないかとあれこれしていたのだけれど、その規定のフォーマットをダウンロードするところが私には見つけられなかったのだ。無念。青土社の本を買って帰ろう。

11月20日(水)矢印

書店さん向けDM作りに勤しむ。今回は新刊の案内だけでなく、その新刊がなぜ本の雑誌社から出ることになったのかなど暑苦しく書いた文章も書き添える。

その文章を書きながらまったくの別件で書店員さんとメッセージのやりとりをしていたところ、そこにこんなことが書かれていて目が覚める。

「読者じゃなく書店員に向いてる時点でダメですよね。まずは店頭で売れる努力をしないとダメなんじゃないかな?」

似ているようでそれは全然違う矢印なのだ。内に向いているか、外に向いているか。

11月19日(火)デスクワーク大陸

昼、高野秀行さんとランチ。すずらん通りにできたフォーの店、ベト屋に入ると「懐かしい匂いだ」と高野さんたいそう嬉しそう。雑談しているうちに、止まっている連載「SF音痴が行くSF古典宇宙の旅」の活路を見出す。

やっとデスクワークが片付いたかと思いきや、海底からマグマが噴出し、新たなデスクワーク大陸が築かれる。

夜。八重洲ブックセンターのアルバイト時代の仲間であるMさんとみさち屋で酒。Mさんはバイト卒業後、別の書店に就職し、その後、図書館に転職、今は都内の図書館で館長をしている。図書館の話を伺う。

11月18日(月)撮影

迎えにきた介護施設の車に母親を乗せ、二泊三日の週末介護を終え、東武伊勢崎線からJR、京浜急行に2時間30分揺られ、横須賀へ。本日は『蔵書断捨離風雲録(仮)』の単行本に収録する書庫の写真撮影なのだった。

編集担当の近藤とカメラマンの中村さん、間取り図を描いてもらうイラストレーターの鈴木氏と日下三蔵さんの家に押しかけるが、整理された書庫とはいえこの大人数で入ると身動きが取れなくなる可能性があるため、私は半ば外で待つ。

日下さんのお家を訪ねるのはこれで四度目なのだけれど、これまで想像を絶する蔵書量に恐怖心が湧いてきて、棚をじっくり眺めることができなかったのだが、今回やっと心に余裕ができて一冊一冊を眺めることができる。

目黒さんもそうだったし、例えば新保博久さんや大森望さん、さらに坪内祐三さんなど、書評家、評論家と呼ばれる人たちの蔵書量=知識量は半端ないものがある。

日下さんは「目黒さんが居たからこそ自分がある」と本を読んでそのことを書くという仕事というか生き方を提示した目黒さんへの尊敬の念を語っていたが、私は日下さんはじめ書評家のひとたちへの尊敬の念が絶えない。それと同時にこういう本とともに生きている人たちが満足する「本の雑誌」を作っていけるのだろうかという不安は常にあるのだった。

目黒さんが作っていたときは本人自身が書評家であり、重度の活字中毒者であり、恐るべき蔵書量だったけれど、今、本の雑誌社にいる人間はそこまでではないのだ。書評家でもないし、目黒さんほど本を読んでいないし、蔵書量だってたいしたことはない。それで果たして読者の信頼を得る「本の雑誌」を作ることができるのか。

3時間ほどかけて、自宅と別宅の棚を撮影する。

さらに2時間かけて帰宅。

11月17日(日)散歩

秋晴れ。母親の車椅子を押して1時間半散歩。

半ば空き家のような実家に毎日通勤し、黙々とこなす仕事はないだろうかと考える。誰とも会わず、誰にも振り回されず、口先ではなく手先を使い、しっかり技術が認められる仕事がしたい。

小野寺史宜『日比野豆腐店』(徳間書店)、桂望実『地獄の底で見たものは』(幻冬舎)、『津村記久子『うそコンシェルジュ』(新潮社)、牧野伊三夫『へたな旅』亜紀書房)と読み進む。

本屋か出版社を作る時には、Respirar Booksと名付けることにする。

11月16日(土)クロスワード

週末実家介護。

53歳、実家にて「翠ジンソーダ柚子搾り」を飲みながら晩飯作り、母親とクロスワードをする人生になるなんて想像もしなかった。

なかなか悪くないかもしれない。

11月15日(金)うんざり

やってもやっても湧いてくるデスクワーク。湧いていいのは石油くらいだ。過呼吸で暮らす日々にうんざりしている。

11月14日(木)終わらないデスクワーク

午前中、オンラインで本屋大賞の会議。22回目のスケジュールの調整など。本屋大賞っていつまでやるのだろうか。

午後いっぱい使ってデスクワーク。それでもまったく終わらない。終わる気配すらない。いい加減にしてほしいところだ。

11月13日(水)ちくま文庫

  • 日比野豆腐店
  • 『日比野豆腐店』
    小野寺史宜
    徳間書店
    1,980円(税込)
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    HMV&BOOKS
  • 新版  禁酒宣言 ――上林暁・酒場小説集 (ちくま文庫か-30-2)
  • 『新版  禁酒宣言 ――上林暁・酒場小説集 (ちくま文庫か-30-2)』
    上林 暁,坪内 祐三
    筑摩書房
    990円(税込)
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    HMV&BOOKS
  • ヤンキーと地元 ――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち (ちくま文庫う-49-1)
  • 『ヤンキーと地元 ――解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち (ちくま文庫う-49-1)』
    打越 正行
    筑摩書房
    990円(税込)
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    HMV&BOOKS

湯島の出発点さんに「本の雑誌」10月号を納品。廣岡さんが元気そうでなにより。

ストレス解消で本を買って帰る。

小野寺史宜『日比野豆腐店』(徳間書店)
上林暁著、坪内祐三編『禁酒宣言 上林暁・酒場小説集』(ちくま文庫)
打越正行『ヤンキーと地元 解体屋、風俗経営者』(ちくま文庫)

今年はちくま文庫の購入率がぐんぐん上がっている。

11月12日(火)プロフェッショナル

知人より頼まれごと。しかしそれを解決できるのは私ではなかった。いつも懇意にいしているプロフェッショナルな人にお願いするしかないのだが、たいしてお金になる案件ではなくどうしたものかと思案する。その人は仕事に大変厳しい人なのだ。

知人の役に立ちたいけれど、他の人に迷惑をかけるわけにもいかない。それでも勇気を出して、「金にならないと思うのですが」とメールを入れると折り返しの電話がすぐにかかってきた。

開口一番、「杉江さんの頼みならやるに決まってるじゃん」と言われて、涙があふれる。

子供の頃、父親が話していたこと思い出した。

父親が独立してすぐの頃、やっと手にした仕事をこれは絶対失敗できないと技術力のある職人さんにお願いに行ったらしい。

しかしその職人さんは前払いの仕事しか引き受けない人だった。父親には金がなく、そのことを率直に話、土下座覚悟でお願いしたという。すると職人さんは、杉江さんの頼みならやるよと引き受けてくれたそう。

私はプロフェッショナルというものを誤解していたのかもしれない。

11月11日(月)静かな生活

朝、介護施設の車が母親を迎えにきて、二泊三日の週末実家介護を無事終える。不思議なもので実家で過ごすこの静かな生活が、すっかり待ち遠しくなっている。

11月10日(日)応援

昼過ぎ、妻が実家に来てくれたので、入れ替わりのようにして、春日部からママチャリで埼玉スタジアムへ向かう。

埼スタで浦和レッズを応援している。手を叩き、飛び跳ね、腹の底から声を出し、チャントを歌う。

不思議なことに、歌いながら自分も応援している。

「♪男なら オー浦和 さあ立ち上がれ 浦和ー」

俺も立ち上がれ!と奮い立つ。

「♪ ララーラララーララーララララ 仕掛けろ浦和 オー 浦和レッズ」

人生守ってばかりでなく、攻めろ自分!

「♪ゲットゴール浦和レッズ ラララーラー ラララーラー」

俺の人生もゴールを決めろ!

応援とは、しているつもりがされてもいるのだ。

原口元気のゴールにしびれる。J1残留が決まる。

11月9日(土)ロールキャベツ


神保町ブックフェスティバルや本の産直市など週末にイベント物販が続いていたので、三週間ぶりに介護施設へ母親を迎えにいく。表情はいつもと変わりなく、特に不満をもらすこともなく一安心。

母親が帰ってくるのを待ち受けていたかのように近所の友達が、ロールキャベツをたくさん作ってやってくる。

85歳のおばさんは40年前に旦那を亡くし、3人の子供を必死に育ててきた。とある会社に勤めていたとき、あまりにも評判がいいので、本社からおばさんの仕事ぶりを見にきたらしい。

「私は人のやらない仕事しかしなかった。人の嫌がる仕事しかしなかった。」

私が就職したときに母親に言われたのも、「人の嫌がる仕事をしなさい」だった。

夜、ロールキャベツを温めて食べる。

11月8日(金)劣等感

  • 本の雑誌498号2024年12月号
  • 『本の雑誌498号2024年12月号』
    本の雑誌編集部
    本の雑誌社
    990円(税込)
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    HMV&BOOKS

「本の雑誌」12月号定期購読者さん分が納品となる。助っ人アルバイトの鈴木くん、経理の小林、そして浜田とツメツメに勤しむ。午後2時半終了。早速納品に向かう。

周りの人がみな偉く思えてくる。それだけならいいのだけれど、それに比べて自分はと激しい劣等感に苛まれる。

真っ暗なお墓で月明かりを頼りに、線香に火をつけ、目黒さんに手を合わせる。

11月7日(木)延期

日販さんから、「「BookEntry」事前申込サービス 本稼働延期のお知らせとお詫び」というメールが届く。

質疑応答を受け付けないオンライン説明会から、結局メールでの問い合わせに返信もいただけず、130ページの説明書とともに稼働スタートを掲げたものの、しばし延期となり、さらに今度は、「当面の間、稼働を延期することといたしました。」とのこと。

使い勝手のよくわからないシステムの導入が延期されたのには正直ほっとしたけれど、新刊受注という最も大切な業務でこのような事態になってしまったのは驚かざる得ない。

30年以上出版営業をしているけれど、ここまで杜撰な行いはなかったと思う。心配だ。

夜、池袋で書店員さんと酒。愚痴を聞くはずが、気づけば自分が愚痴をこぼしていた。

11月6日(水)大豊作の売り場

  • 私の最後の羊が死んだ
  • 『私の最後の羊が死んだ』
    河崎 秋子
    小学館
    1,650円(税込)
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    HMV&BOOKS
  • 小さい午餐
  • 『小さい午餐』
    小山田浩子
    twililight
    2,200円(税込)
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    HMV&BOOKS
  • ルポ 京アニ放火殺人事件
  • 『ルポ 京アニ放火殺人事件』
    朝日新聞取材班
    朝日新聞出版
    1,980円(税込)
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    Amazon
    HMV&BOOKS

午後、銀座の教文館さんへ伺う。驚くほど平台や棚に手が入れられており、野菜や果物がたわわに実った畑のような大豊作な売り場。本が輝いて見える。

ストレスが溜まったので本を買って帰る。

河﨑秋子『私の最後の羊が死んだ』(小学館)
小山田浩子『小さい午餐』(twililight)
朝日新聞取材班『ルポ 京アニ放火殺人事件』(朝日新聞出版)

11月5日(火)添付ファイル

「おすすめ文庫王国2025」の刊行予告のゲラができたので、メールを40件くらい送る。それぞれ別のファイルを添付するため、神経がヘトヘトになる。

立石書店の岡島さんが来社されたので、みさち屋でランチする。

11月4日(月)伊野尾書店本の産直市

8時半に会社へ行き、浜田から連絡のあった昨日売り切れてしまった本を持って、中井の伊野尾書店さんへ伺う。

本の産直市は、伊野尾書店さんと対面のお店の軒先に机を並べ、15の出版社が本を売るイベントなのだが、このスペースで開催しましょうと打診するトランスビューの工藤さんもすごいし、了承して机と椅子を借りる手配をする伊野尾さんもすごい。1メートル50センチの幅があれば、本が売れるということだ。

日頃の伊野尾書店さんのブランド力というか、鋭い選書の品揃えの信頼度からか、街ゆく人はもちろん、遠方からもお客さんがやってきて、驚くほど本が売れる。

これは新たな販促イベントの夜明けかもしれないと、道端で本を売りながら考えた。

そしてこのような物販イベントに出店すると、コミニケーション能力の恐ろしく高い版元営業の人が必ずいて、この日はU-NEXTさんがそうだった。机の前をふらりと通る人に気さくに声をかけ、しばらくすると笑顔で話し込み、本を手に取っているのだ。

よく見ていると話しているのではなく、聞いているのだった。ゴルフバックを抱えている人には、「これからゴルフですか?」とか、コンビニの袋持った人には「お休みですか?」みたいな。

そうすると、みんなどこか話したい気持ちがあるから会話が始まり、なんとなくその人の前にある本を買っていってくれたりするわけだ。その会話に本を売ろうというイヤらしさはまったくなく、ただせっかく出会えたのだから会話している感じなのだった。

他のイベントで一緒になり、この人のコミニケーション能力すげえと驚愕したのは、滋賀の能美舎さん。にっこり笑顔でハキハキ話しかけて、いつの間にか相手も笑顔になって、胸に本を抱えている。

たいていそういうコミニケーション能力の高い人は女性が多いのだが、私も負けてはならずと、笑顔を浮かべて話しかけてみる。

本を買ってもらえるとか、もらないとかではなく、笑顔が増えればイベントは楽しくなるのだ。

11月3日(日)柿

あれはどこの書店員さんから聞いたのか、あるいは書店員さんが書いた文章で読んだのか忘れてしまったのだけれど、その書店員さんがイベントで勝間和代さんに会ったとき、「勝間さんが小さな約束を守るのが大切と話していたのを聞いて自分もそうするようにしている」とおっしゃっていたのだ。私もその教えをまた聞きして以来、その言葉がずっと胸に残っていた。

去年の年末、父親の親友で共に町工場を営んでいたおじさんから一緒にメシでも食おうと誘われ、その最後に出てきたのがおじさんの家の庭に植えてある柿の木から採れた柿だった。

聞けば82歳になるおばさんがハシゴをかけてもいでいるというではないか。あぶねえだろそれっと思って、来年は俺がもぎにきますよと申し出たのであった。

それがずっと頭に残っていた。道を歩いていたり、ランニングをしていて柿の木が目に入るとその色づき具合を確認していた。おばさんが覚えてるかどうかわからないけれど、私の中では約束したことになっていた。でも正直めんどくさいといえばめんどくさいし、時間もない。そもそも私は柿が好きじゃなかった。

伊野尾書店さんの本の産直市が雨で日程変更になり、事務の浜田がその初日に行くことになった今日、母親は介護施設に預けたままでぽっかり時間が空いていた。電話をして父親の親友の家に行くと、おばさんはハシゴと枝切り鋏を持って待っていた。

「今年はツグが取ってくれるって言ってたからもがずに待ってたんだよ。ちょうどいいくらいに実ってるよ」

ハシゴに乗って、ときには枝にしがみついて、1時間ほどかけて200個ほどの柿を収穫した。筵に並べた柿が、沈む夕日のように輝いていた。

11月2日(土)THE FOOLS 愚か者たちの歌

  • 愚か者たちの歌<完全版>通常盤
  • 『愚か者たちの歌<完全版>通常盤』
    ザ・フールズ,THE FOOLS
    SOLID
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雨のため伊野尾書店さんで開催される予定だった「本の産直市」が、明日、明後日に順延となる。先週は神保町ブックフェスティバルで土日出勤していたので、あやうく14連勤になるところが12連勤で済んだので、私と事務の浜田にとっては恵みの雨となった。

バイト先に娘を送り、午前中だけパートにいく妻を見送ると、昨日観てすっかり魂を持っていかれた「THE FOOLS 愚か者たちの歌」を最初から観直す。

自分がいつから真面目に生きるようになったのかというと、八重洲ブックセンターでアルバイトを始めたときからだった。それまでの学校生活では遅刻早退欠席繰り返し、先生とは毎日反目し合っていたのだ。

それがアルバイトを始めて一気に真面目になったのは、八重洲ブックセンターの人たちがそれだけ誇りをもって働いていたからだ。何も知らずにバカにしていたサラリーマンと呼ばれる人たちが、こんなにかっこよく生きているとは思いもしなかった。実際の社会に出た私は、レジに立てば膝が震え、お客さんの問い合わせには何も答えられず、使いものにはならなかった。

「THE FOOLS 愚か者たちの歌」は、金の匂いのするメジャーシーンに背を向け、演奏する自分たちと呼応するオーディエンスと、そして爆音を鳴らせる箱(ライブハウス)さえあればいいと、長きに渡ってアンダーグラウンドの帝王と君臨してきたバンドを追ったドキュメント映画だ。

恥ずかしながら告白すると、私はひと月前までTHE FOOLSを知らなかった。映画のことも知らなかった。40年前埼玉の郊外に住んでいた中学生には、この伝説のバンドは届かなかったし、映画を観ない私には異例のロングランとなっている話題も耳に入らなかった。

毎日聴いているロバート・ハリスのラジオ「Otona no Radio Alexandria」に、この映画の監督である高橋慎一氏が出演し、映画の話と一曲だけかかったTHE FOOLSの曲を聴いて、衝動的に予約ボタンを押したのだった。

映画はバンドのボーカリスト、伊藤耕の出所シーンから始まる。伊藤は覚醒剤取締法違反などで何度も捕まっているのだが、画面を通して私は一瞬怖気づいた。

その時は何に怖気づいたのかわからなかったのだけれど、後にインタビューを受ける当時ブルーハーツの甲本ヒロト氏の言葉でその理由がわかった。

甲本ヒロト氏は、対バンとして一緒のライブで出た時、THE FOOLSを見て、こう思ったのだそうだ。

「なんか、ほ、本物?っていうのは変な話ですけど、本物じゃねえなあ、本物というのとはなんか違うな、本当の感じがしたの」

そう、私は「本当」に怖気づいたのだ。

出所後のライブのシーンが映る。

よれよれの伊藤はがなりながら歌う。その歌は上手いとか下手とかの歌ではない。魂の歌だった。

「お前の自由のために時間を使え
お前の自由のために愛を使え
お前の自由のために金をはたけ
俺の自由のために俺が仕事でもしよう」

この伊藤の、いや伊藤だけでなく、ギターの川田良、そのほかTHE FOOLS全メンバー、THE FOOLSに関わったすべての人から伝わる「本当」の姿に怖気づき、引き込まれ、再視聴にも関わらず、2時間固唾を飲んで観た。

ここに映し出されるのは、すべて本当の人間の姿だった。本当の人生だった。本当のロックだった。

普通の人からみたらここに出てくる人みんな、だらしがない人たちに見えるかもしれない。ドラッグもあれば、酒もあり、タバコもあり、経済的に裕福には見えない。

しかし、人生のすべてを音楽に捧げ、その音楽を求める人たちがいて、最後にはたくさんの人たちに見送られてあの世にいくこの人たちを超える人生をあなたは送れるのか。

私は送れるのか。

カヌーイストの野田知佑さんが若い頃、日本中の川を旅していたとき、役人かサラリーマンに「真面目に生きろ」と言われて、「あんたより真面目に生きているよ」と言い返したことがあったという。

真面目に生きるとはそういうことだ。
自分の人生に責任を持つということだ。

THE FOOLSほど真面目に生きてきた人たちはいないと思った。
私ももっと真面目に生きようと思った。

11月1日(金)表紙画像

  • 愚か者たちの歌<完全版>通常盤
  • 『愚か者たちの歌<完全版>通常盤』
    ザ・フールズ,THE FOOLS
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9時半出社。昨日渡さんに取り出してもらったハードディスクを新しいMacBookに繋げ、必要なデータを抜き出していく。

私のパソコンの中で最も変えの効かない大切なデータはなにかというと、表紙の画像なのだった。

思い返せば表紙を画像データにするようになったのは、Amazon等ネット書店ができてすぐではなく、当時は取次店さんの窓口にいくと、その奥で画像をスキャンしていた人がいたように、それらの取次店さんかネット書店さん各々で表紙を取り込み商品ページに掲載していたのだ。

それがいつぞやから版元である我々が商品ページのデータを入力するようになり、そして表紙画像も自らアップロードするようになったのだった。

そうして今では、書籍や雑誌ができあがる度に(実際にはできあがる前)、編集から表紙の表一の帯あり、帯なしのデータが営業である私に届けられる。それはもはや紙に印刷されたカバーをスキャンしたデータではなく、デザイナーさんから届いたデジタル上のデータだ。

でだ。各々編集者からそうして届けられたデータを営業である私はせこせことアップロードした後、「表紙画像」というフォルダーに保存していた。

アップロードしてしまえば必要なさそうなものなのだがこれがまた自社の既刊本のチラシやあるいは雑誌やネット記事などから表紙画像がほしいという依頼がちらほらあったりして、結構使う頻度があるものなのだった。

それぞれ編集者も保存しているかもしれないけれど、すでに担当が退職していたり、あるいはメールを掘り起こすのも大変だろうで、本の雑誌社の表紙画像が一元保存されているのは私のパソコン(ハードディスク)だけなのだ。

だから今回画面が真っ白になったときに、まあもう新しいMacBookが手に入るならデータなんてどうでもいいかと思っていたものの、表紙画像のことを思い出し、私の頭も真っ白になったのだった。

かろうじて生きていたハードディスクから「表紙画像」をコピーする。あっという間に横棒がスライドしていきコピー完了となる。そして昨日渡さんが教えてくれたクラウドにも保存する。

果たして出版点数の多い出版社は、表紙画像をどのように管理しているのだろうか。

帰宅後、届いていたDVD「THE FOOLS 愚か者たちの歌」を観る。カッコ良すぎてノックアウト。

10月31日(木)パソコン修理

半年? いや一年近く待った原稿が大竹聡さんから届き、感無量となる。これでついにすべてが揃い、編集作業を進めるのだった。書けぬものを待つ、ただひたすら待ち続けるのが仕事なのだ。

午後、壊れたMacBookと新たに購入したMacBookと、そして自宅で使っている個人のMacBookを持って、府中の辺境スタジオへ。機材大好きなAISAの小林渡さんに修復と移行をお願いしたのだった。

到着するなりすぐに特殊器具で持って壊れたMacBookを開け、ハードディスクを取り出す。このハードディスクが生きているかどうかで今後の私の身の振り方が変わってくるので、両手を合わせ祈る気持ちで、別のパソコンに繋げる様子を見ていると、おおお、そこにハードディスクがマウントされたではないか。

というわけで移行アシスタントを使って個人のMacBookから新しいMacBookを立ち上げ、飛び出したハードディスクからいくつかのデータを移す。これでどうにか明日から滞りなく仕事ができるようになったので、御礼方々「樽平」で祝杯をあげる。

10月30日(水)健康診断

一年で最も憂鬱な日である健康診断を受ける。受け付け時間が8時40分なので、いつもより1時間以上早く家を出るも京浜東北線が遅れており、会場である出版健保にギリギリの到着となる。

薬のおかげか痛風の原因である尿酸値は6.8と基準以下に下がっており、イエローカードをもらったのは中性脂肪のみだった。

期末テストを終えた高校生のような気分に浸り、神田古本まつりを冷やかす。

田中鈞一『虎を撃つ』(講談社)を購入。「満ソ国境のこの白色地帯を中心とした酷寒の大原始林で幾多の猛獣と対決、大虎七頭、まぼろしの白一頭、巨熊九頭、そして数百頭におよぶ猪に挑み、これをうち斃してきた」とあり、大変面白そう。

夜、Asahi「GINON」を片手に上野まで歩いて帰る。

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