キャッチーさと自分の好きを詰め込んだ。pixiv高校生イラコン2022最優秀賞・不井さんインタビュー
インタビュー/原田イチボ
目指せ、高校生イラストの最高峰! ピクシブ主催の高校生向けイラストコンテスト「pixiv高校生イラコン2023」が8月27日(日)23時59分(日本時間)まで作品を募集中。今年のテーマは、「結(むすぶ)/connect」です。
同コンテストは2018年にスタートし、多数の若手クリエイターを輩出してきました。昨年の「pixiv高校生イラコン2022」で最優秀賞に輝いた不井さんは、受賞後に企業案件のオファーが来て、めでたくプロへの第一歩を踏み出したそうです。作品応募にあたって意識したことや、受賞後の反響などについてインタビューしました。
フォロワーが1日で3000人増えた
── 昨年の「pixiv高校生イラコン2022」では最優秀賞おめでとうございました! 応募のきっかけは何だったんでしょうか?
── 最優秀賞に選ばれたという連絡を受けたとき、どんな気持ちでしたか?
審査員賞や企業賞のどれかをとれたらいいなとは思っていましたが、まさか最優秀賞になるとは思っていなかったので、驚きすぎて体調を崩しました(笑)。
── 受賞後の反響を教えてください。
Twitterのフォロワーが1日で3000人くらい増えました。あとは初めて企業案件の依頼をいただいて、「にじさんじ」所属のVTuberの緑仙さんによる「歌ってみた」動画のイラストを担当しました。いきなり大きな案件で生きた心地がしませんでした……! ちょうど制作期間と受験の時期と重なっていたのもあって、人生で一番大変な時期を過ごしました(笑)。
── pixiv高校生イラコンが美大合格に役立ったかもしれないんですね。受賞によって、ご自身の絵に対する姿勢に変化はありましたか?
自分の絵に自信が持てるようになりました。
── それは何よりですね!
「好きなものへの情熱が伝わる作品か」は大事
── 受賞作でこだわったポイントを教えてください。
ぱっと見て、「いいな」で終わるのではなく、そこから想像が広がっていくような絵になるように意識しました。なので、作品の題名もこだわりました。「これはこういう絵だ」と提示するようなタイトルにしたい一方で、あまり説明的すぎると逆に絵を台無しにしてしまうので結構悩んだ部分です。
ほかにもサムネで目立つように、普段描く絵よりも彩度とコントラストを上げています。
あとは以前、イラストレーターの吉田誠治先生のライブペイントを見学したとき、「注目してほしい部分に影の境目をつける」という視線誘導のやり方を教わり、そんな方法もあるのかと驚いたので、取り入れることができてよかったです。
── 「想像が広がっていくような絵」を意識したとのことですが、たしかに男の子の左腕の傷など、意味深長な描写が盛り込まれていますね。
ちょっと恥ずかしいんですが、それは母にアドバイスされて、最後の最後に付け加えた要素です。母が「手に傷とかつけてみたら?」って(笑)。
── そんな的確に色っぽい提案をお母様が……! しかし、受賞のためにかなりの分析をされたんですね。
そうですね。「どのような作品が評価されやすいのか」は自分なりに分析しました。やっぱり、まずぱっと目を引く絵であることが大事で、そのためには彩度とコントラストで目立つのが一番です。タイトルとキャプションも、作品の世界観がより広がるものであったほうがいい。さらに「好きなものへの情熱が伝わる作品か」という点もとても重要だと思います。
── 不井さんの作品は審査員の方々のあいだで、「どんなものが好きか伝わる」という点が高く評価されていました。あらためてお聞きしますが、どんなものを描くのが好きですか?
手や花や服のシワ、あとは黒髪の男の子も好きですね。笑顔よりも、涙を流していたり笑っていない表情のほうが描いていて楽しいです。
── 講評で「男の子が耳にマスクをかけているのが時代を反映している」という指摘もありました。
コロナ禍というのも頭にありましたが、単純に耳にマスクをかけている姿が好きなんですよね(笑)。「旅」というテーマからカメラやリュックを連想したあとは、手が描きたい、男の子が描きたい、アヒルを描いてみたいなど、自分の好きなものを1枚に詰め込みました。
── ストーリーや設定をしっかり固めて絵を描くというよりは、「どんなモチーフやキャラクターが描きたいか」からスタートして、まず手を動かしてみるタイプでしょうか?
そうですね。後付と言ったら言葉が悪いかもしれませんが、ある程度描いてからストーリーのようなものを考え始めることが多いです。
講座参加や改善ノートなど…デジタルに慣れるために努力したこと
── 現在の作業環境を教えてください。
iPad Airとアイビスペイントを使っています。もともとiPadを使っていましたが、pixiv高校生イラコンの賞金20万円で買い替えました。出先などいろんな場所で気軽に描きたいので、iPad Airが合っているんですよね。ソフトはクリスタに一度移行しようとしましたが、機能の多さでくじけてしまって……。ただ、最近は大学生活のためにパソコンを買ったのもあり、アイビスペイントだと物足りないときはAdobe Photoshop も使うようになってきました。
── いつからデジタル作画ですか?
── ということは、pixiv高校生イラコン2022で最優秀賞を獲得した時点でデジタル歴2年足らずだったんですね……!
デジタル作画になれば自然と絵が上手くなってSNSのフォロワーも増えると思い込んでいましたが、現実は厳しくて……。だからデジタルに慣れるまでは結構頑張りました。高校生向けのイラスト講座に積極的に参加したり、絵を描いていて疑問に思ったことや発見したことなどを書き込む「改善ノート」を作りました。改善ノートは結局すぐに飽きてやめてしまいましたが……(笑)。
── 影響を受けたクリエイターさんを教えてください。
一番影響を受けているのは、イラストレーターのRAIDさん。キャラクターのスタイルから服のシワまで、全てが理想です。あとはマンガ『ホリミヤ』(原作・HERO/作画・萩原ダイスケ)をきっかけに服のシワが好きになり、シワをずっと模写していた時期もありました。
── どんなものから創作のインスピレーションが湧くことが多いですか?
アニメやマンガも好きですが、創作のインスピレーションが湧くとなると音楽ですね。歌詞を気に入ったりすると、「こういう雰囲気の絵が描いてみたい」と感じます。エド・シーランとクイーンの曲をよく聴いています。
「絵の幅を広げたい」と思うようになった
── 昨年の最優秀賞受賞者として、今年の「高校生イラコン2023」のメインビジュアルを担当されました。こだわった点を教えてください。
キャラクターをふたり並べて描く機会があまりなかったので頑張りました。不規則な自然現象などを描くのが好きなので、波やそこに反射する光、風船に映った光など、やっぱり自分の好きなものを詰め込んでいます。「高校生イラコン2022」でアヒルを描いたので、今回も生き物を入れたくてメンダコがいます。
── それだけ好きなものを詰め込んでも、まとまりのある仕上がりになるコツはありますか?
── 今回のメインビジュアルを担当した感想はいかがですか?
すごく悩んで、1日6時間くらい描いて、完成した後は燃え尽き症候群のようになりました。この仕事を経て、絵に対する考え方が変わりました。
── どんなふうに変わりましたか?
「絵の幅を広げたい」と思うようになりました。Twitterに投稿する場合、細部まで描き込んだイラストよりも、キャラクターの顔をメインで見せるイラストのほうが良い反応をいただきやすいんですよね。自分としても気軽に描けるので、普段は白い背景にキャラクターのバストアップにすることが多かったんですが、このままでいいのかなと感じるようになって……。たぶん今の時点で私の作品をまとめて公開するとなると、似たような絵がずっと続いてしまうと思うんです。今後のためには、背景やキャラの全身も上手く描けるようになったほうがいい。キャラの手と顔さえ描ければいいやと考えていた自分から変わりました。
── なるほど。プロへの道を踏み出したからこそ生まれた考えの変化というか、苦しさというか……。
だから最近は結構悩みがちです……!
── その葛藤がスキルアップに繋がっていくんでしょうね。仕事のやりとりで気をつけていることはありますか?
そもそも人と話すのが得意なほうではないので、せめてメールの文面はちゃんとしようと注意しています。家族や大学の教授にビジネスマナーや作家活動について、いろいろ質問や相談をしています。
美大で学んだことは全部イラストに活かしていく
── 「気を抜くと絵柄が可愛くなってしまうので気が抜けない」とツイートしていたのが印象的でした。可愛い絵柄というのは、不井さん個人の求めるものとは違うのでしょうか?
自分としては、かっこいい絵柄を目指しています。RAIDさんやWOOMAさんのような、キャラクターの顔に無駄な要素が一切なくてスタイルも良く、全部のパーツが正しい位置にある洗練された絵が理想です。そのイメージに比べると、私はまだ全然思うように描けていません。一度完成したと思った絵でも、翌日見返して「こんなの全然かっこよくない」と何時間もかけて修正することもあります。特に顔は完璧にしたいので、いろんな角度から見たり、左右反転したり、比率を調整してみたりして、「これは本当に『顔がいい』のか?」を追求します。
── 自分の中で「これはうまく描けた」と手応えのあった作品はありますか?
── ピクシブも連携している京都芸術大学 通信教育部イラストレーションコースにもご興味を持ってくださったそうですが、最終的には受験で合格された美大に進学されています。大学ではどんな絵を描いているのでしょうか?
大学では主に油絵です。テレビとかタイヤとか人体模型とか動物標本とか、いろんなものが詰まった倉庫みたいなところがあって、そこから借りてきたモチーフを山のように組んで描く……みたいなことをひたすらやっています。
── pixivに投稿しているようなイラストではなく、かっちりしたファインアートを学ばれているんですね。それはなぜでしょうか?
大学でデッサンや油絵を学んではいますが、私の中で一番強いのは「イラストを描くのが好き」という気持ちです。油絵やデッサンが上手くなりたいから学んでいるというよりは、イラストの画力向上のために油絵などの要素を学び取り入れています。pixiv高校生イラコンに応募した作品も、美術予備校で油絵を学んでいなければ描けませんでした。ファインアートで身につけたことは全部イラストに活かしていくつもりです。
── 全てはより良いイラストを描くためなんですね! 今後手がけてみたい仕事を教えてください。
MVのイラストを担当したいです。あとは読書が好きなので、書籍の装画もやってみたいです。
── 最後に、「pixiv高校生イラコン2023」への応募を検討している学生さんに向けてメッセージをお願いします。
受賞作の傾向を掴むことも大事ではありますが、自分が好きなものを素直に表現すれば、その思いは審査員にも伝わるはずです。私も参加してみなければ最優秀賞はとれなかったし、お仕事もいただけませんでした。思わぬ結果に繋がるかもしれないので、とにかく挑戦してみるのがいいと思います。頑張ってください!
8月27日(日)まで!「pixiv高校生イラコン2023」開催中
「pixiv高校生イラコン」は、次世代で活躍するクリエイターの創出を目的とした、ピクシブ主催の高校生向けのイラストコンテストです。さいとうなおきさんや荻poteさんら有名イラストレーターと、企画趣旨に賛同いただいた協賛企業が審査員となり、応募イラストをプロの視点で審査します。
受賞者には賞金や各協賛企業からの特別賞品が授与されるほか、ピクシブ主催の企画への参加や、ビジュアル制作などのチャンスがあります。
応募締め切りは、2023年8月27日(日)23:59まで。
ぜひ夏休みの間に挑戦してみてください!