4. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
近藤誠先生の主張
1. がんは、「がんもどき」と「本物のがん」に分類される
• がんもどきは、転移しないので治療する必要はない。
• 本物のがんは、転移がんで、必ず死ぬ。治療しても無駄。
2. 抗がん剤は効かない。これまでの抗がん剤のデータ
は皆ねつ造。
3. ゆえにがんになったら放置療法を勧める!
5. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
抗がん剤のデータはねつ造された?
乳がんのトラスツズマブ
この曲線が上に凸になっている
のでインチキ??
胃がん術後のS1
N Engl J Med 2007;357:1810
腎臓がんのソラフェニブ
N Engl J Med 2007;356:125
• がん患者の生存曲線は下に凸にな
るのが絶対Cancer 1986;57:925
• 抗がん剤群の生存曲線の形が上に
凸であり、ねつ造された可能性あり
New Engle J Med 2001; 344: 783
6. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
医学的・科学的にはどうなのか?
1. 近藤先生の主張は一部は正しいが、医学
的・科学的な間違いがたくさんある。
2. 抗がん剤は効く人もいれば効かない人も
いる。抗がん剤のデータがねつ造というの
は嘘。
3. がんの治療法をするなとか、しなさいとか
患者さんに押し付けるのは乱暴。患者さん
と一緒によく話し合うことが大切。
7. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
乳がんトラスツズマブ(ハーセプチン)のデータは
ねつ造された!?
化学療法+トラスツズマブ
化学療法単独
Slamon et al. New Engle J Med 344: 783, 2001
• がん患者の生存曲線は下に凸にな
るのが絶対Cancer 1986;57:925
• トラスツズマブ群の生存曲線の形が
上に凸であり、ねつ造された可能性
あり
• この臨床試験は、米国を中心に行わ
れた治験でFDAで承認(1998)後、全
世界で承認。
• ねつ造だったとしたら、世界的スキャ
ンダルだが本当か?
17. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
近藤先生の間違った論文の読み方
生存率曲線が急落している。
たくさんの患者が命を落としたので
はないか?
卵巣がんの臨床試験
N Engl J Med 1996;334:1
近藤誠
週刊文春平成10年11月7日号
文春文庫抗がん剤だけはやめなさい95P
パクリタキセル+ シスプラチン
エンドキサン+ シスプラチン
19. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
悪性黒色腫に対するベムラフェニブの生存曲線
の推移
フォローアップ期間中央値:3.8ヶ月フォローアップ期間中央値:12.5ヶ月
曲線はまだ上に凸
曲線は上に凸
生存率曲線が急落? 急落するように見えた線は消失
たくさんの患者が亡くなった?
NEJM 364;26, 2011
Lancet Oncol; 15: 323, 2014
フォローアップ期間が長くなると生存曲線の形が変わる。
20. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
Moving Beyond the Hazard Ratio in Quantifying the
Between-Group Difference in Survival Analysis
HR=0.87 (95%CI, 0.6-1.27)
log-rank P = 0.47
ハザード比は一定でなく、比例
ハザード性が成り立たない!
Uno et al. J Clin Oncol. 2014;32(22):2380-5.
21. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
近藤問題から我々は何を学ぶべきか?
22. 2014/11/7 Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
がん治療医にとって必要なものは?
ブラックジャックによろしく漫画on Webより
23. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
EBM:Evidence-based Medicine:
エビデンス・ベースド・メディシン(根拠に基づく医療)の3要素
医療者の専門性科学的データ
患者の
希望・価値観
(エビデンス)
手術
診察法
コミュニケーション能力
チーム医療
科学文献のデータ
学会発表
個人の尊重
価値観・生活の質
最善の医療
Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM (2nd ed.)
by Sackett DL; Churchill Livingstone. 2000.
24. EBMの3要素
~早期がんの場合~
科学的データ
医療者の専門性
確立したエビデンス
パターン化しやすい
患者の希望・価値観
と選択肢
治癒を目指す点で
比較的均一
再発を減らし
治癒を目指す
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
25. EBMの3要素
~進行・再発がんの場合~
科学的データ
医療者の専門性
限定されている
適切なコミュニケーション
全身状態・予後の評価
患者の希望・価値観
個人個人異なる。
時間・環境・
情報などにより変化
Narrative-based Medicineの要素
がんとより良い
共存を目指す
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
26. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
「プロ」の腫瘍内科医になるには?
Research Evidence
エビデンスをしっかり理解・実践する
Clinical Expertise
自分の限界を知り、チーム医療をしていく
Patient Value
患者さんを大切にする
27. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
Provisional clinical opinion: the integration of
palliative care into standard oncology care.
米国臨床腫瘍学会(ASCO) 2012
1. 進行がんと診断された時から、標準的抗がん剤治療と同時
に緩和ケアを行っていくことは、患者・家族のQOLを向上さ
せ、無駄な抗がん剤治療を避け、延命にも寄与する可能性
がある
2. 治療医は、化学療法ができなくなってきてからでなく、進行
がんと診断された時から、ホスピスケアについての情報提供、
治療の目的(治癒でなくより良い共存)、(余命告知でなく)予
後について話し合うべきである
J Clin Oncol. 2012 10;30(8):880-7
29. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
あなたはいつまで抗がん剤をやりますか?
30. 最後の最後まで抗がん剤をやると……
• QOLが低下する
• 在宅・ホスピスで亡くなる率が低下する
• ICUで亡くなる率が高くなる
• 最後に心肺蘇生をされてしまう
• 生存期間が短くなる
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.
NEJM 2010;363:8
31. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
標準治療終了後の化学療法が死亡場所に及ぼ
す影響
化学療法あり
N=216 (56%)
全米8つのがんセンターでのコホート研究
化学療法なし
N=170 (44%)
P value
ICU 11% 2% 0.02
病院25% 15% 0.4
在宅47% 66% 0.03
ホスピス13% 11% 0.6
ナーシングホーム3% 5% 0.6
希望した場所で亡く
65% 80% 0.03
なったか?
BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.
32. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
日本のがん患者の死亡場所
一般人に対するアンケート調査結果(平成16年) 実際の死亡場所(平成14年)
がんセン
ターなど
3.2%
自宅
58.8%
一般病院
9.5%
その他
5.6%
緩和ケア
病棟
49.6%
自宅
6.2%
緩和ケア
病棟
3.4%
老人福祉
施設0.8%
一般病院
87.3%
診療所
1.4%
厚生労働省終末期医療に関する調査検討会厚生労働省人口動態調査
33. 緩和ケアという「第4の治療」
化学療法
+ 緩和ケアチーム(緩和ケア医、専門看護
師)による月1度以上のサポート
化学療法のみ
手術適応のない肺がん患者n=151
結果:
• QOL (FACT-L)の向上(P=0.03)
• うつ症状の軽減(38% vs. 16%, P=0.01)
• 末期状態での積極治療(死亡の4日以内の化学療
法、ホスピスケアなし、3日以内のホスピス入院)の
減少(54%vs.33%, P=0.05)
• 生存期間の向上(8.9 vs. 11.6 mos. P=0.02)
NEJM 2010;363:8
Early Palliative Care
34. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
亡くなる2ヶ月以内に化学療法していた患者の割合
早期緩和ケア群(n=32) 対照群(n=25)
P=0.02
亡くなる2ヶ月以内の化学療法
亡くなる2ヶ月以内に化学療法なし
J Clin Oncol 29:2319-2326: 2011
35. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
亡くなる3ヶ月以内に化学療法していた患者の割合
(国立がん研究センター中央病院)
n=255
P<0.01
53 % 47%
医師A(n=22)
41% 51%
医師B(n=24)
亡くなる3ヶ月以内の化学療法
亡くなる3ヶ月以内に化学療法なし
医師C(n=123)
医師D(n=68)
医師E(n=12)
医師F(n=6)
50% 50%
33%
67%
60%
40%
83%
17%
50% 50%
Hashimoto, Katsumata et al. The Oncologist 2009;14:752–759
36. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
亡くなる3ヶ月以内に化学療法をすることに影響した因子
~多変量解析の結果~
OR 95% C.I P value
緩和ケアの話し合いをしなかった
(緩和ケアへの紹介なし)
10.3 4.3-24.4 <.0001
身体症状を伴っていた2.23 1.15-4.3 0.018
45歳以下2.73 1.26-5.70 0.0008
男性2.26 0.81-6.34 0.11
Hashimoto, Katsumata et al. The Oncologist 2009;14:752–759
37. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
どうやって抗がん剤を止めることを伝えるか?
39. インフォームド・コンセントの理念
• 医療者と患者の相互の尊重と参加に基づいた意思決定を
協力して行う過程
1982 米国大統領委員会報告書(A report on ethical and legal
implications of informed consent in the patient-practitioner
relationship 1-3.1982)より
インフォームド・コンセントとは、
「医師と患者の共同作業」であり、
「医療者と患者の意思決定の共有」が大切!
40. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
Shared Decision Making (意思決定の共有)
適切なインフォームド・コンセントとは?
に基づくインフォームド・コンセント
医師が情報を持ち、
医師が決める
オレが決める型
医師と患者が情報を
共有し、決定も
共有する
共有型
患者が情報をもら
い、患者が決定
する
患者が決めな型
41. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
Shared Decision Makingの実際
情報を提供する
目的・内容・リスク・利益他
治療との比較
質問・自分の希望を
伝える
提案する、意見を調
整する
納得する
→満足する
双方向のコミュニケーション
42. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
患者とのコミュニケーション技術
(わが国における患者の意向を基に作成)
悪いニュースを伝える方法-SHARE-Supportive
environment (支持的な場の設定)
How to deliver the bad news (悪い知らせの伝え方)
Additional information (付加的な情報)
Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的
サポート)
Fujimori et al. (2007) Psychoncology 16:573-81
内富庸介, がん医療におけるコミュニケーション・スキル悪い知らせをどう伝えるか. 医学書院, 2007
44. 2014/11/7 Department of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
早期の緩和ケアを実践するために
転移・再発した時点で以下の、話し合いを繰り返しすること
1. がんを治すことは困難であること
2. 大切にしたいことは?楽しみにしていることは?(生活の質について)
3. 緩和ケア・緩和療法という治療オプションがあること(治療選択肢)
4. 身の回りのことができなくなってきた場合、どこで(在宅・入院・ホスピス)ど
のように過ごしたいか?(End of Life Discussion)
5. 余命宣告をしない(Hope the Best, Prepare the Worst)
6. どんな状況になっても見放さないこと(孤独にさせないこと、将来の約束)
45. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
余命告知でなく、予後について話し合うこと
Telling prognosis(余命告知)
• 医師から患者への一方通行
• 「あなたの余命は○ヶ月です」
End of life discussion(予後に
ついて話し合う)
• 医師患者のコミュニケーション
• 緩和ケアの重要性
• 「身の回りのことができなくなった
場合に、どこでどのように過ごし
たいですか?」
46. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
先生、私の余命はどれくらいなんです
か?
余命告知は実際にはどう行
われているのでしょうか?
47. このような患者さんにはどのように対応したら
よいのでしょうか?
1. 「あなたの余命は○ヶ月」です、と本当のことを言ってあげる
NO!
2. 「そんなことは考えない方がよいですよ」とごまかす
3. 「誰にもわからないんですよ」と言う
4. 何とも答えられないので、その場から逃げる
5. その他??
Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
48. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
SHAREプログラムがすすめるコミュニケーション
「もう死んでしまうのですか?」
「あとどのくらい生きられますか?」
などの言葉への対処方法
Reassurance and Emotional support (安心感と情緒的サポート)
言葉の背景にある感情を探索し、共感すること
ほとんどの場合、不安な気持ちの表れであることが多い。
• 「今後のことで、何か気がかりなことがありますか?」
• 「どなたでも不安な気持ちになると思います」
50. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
がん患者が医師から言われる最も傷つく言葉
• もう何も治療法がない
• 可能性・範囲を言わない断定的な余命告知
• 感情への配慮がない
全国19施設ホスピスへ入院した630名の家族へのアンケート調査より
Morita et al. Ann Oncol 15:1551, 2004
51. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
Hope the Best, and Prepare the Worst
(最善を期待し、最悪に備えましょう)
患者
私は少しでも長く生きたいんです。
治療がうまくいってほしいんです。
最悪を考えるということは、あきらめて
しまうような気がするのです。
今後は、妻や子供のことが心配なので
す。
Ann Intern Med. 2003;138:439-443.
医師
私もそう期待したいです。○○さんにとって一番大切
なことは何でしょうか?
私も治療がうまくいってほしいと思います。もし治療
がうまくいったら何を大切にしたいですか?また、治
療がうまくいかなかったらどうするかということにつ
いて話したいのです。
○○さんの心配するお気持ちは理解できます。準備
をする、ということはあきらめてしまう、ということでは
ありませんよ。
大切なことを話してくださってありがとうございます。
奥様や子供さんのことについて、一緒に考えていき
ましょう。
52. Division of Medical Oncology, Nippon Medical School Musashikosugi Hospital
末期がん患者のQOLに影響する要素
~末期がんで亡くなった396名の患者をプロスペクティブに調査~
マイナスの要素
Arch Intern Med. 2012;172(15):1133
• ICUに入院していた
• 病院で亡くなった
• 不安が強かった
• 栄養チューブを入れていた
• 最期の週まで化学療法をやっていた
プラスの要素
• 宗教をもっていた
• 心のケアを受けていた
• 治療医(オンコロジスト)との良好なコミュニケーションがあった