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- 2022/06/16 掲載
“21世紀型”カントリー・リスクとは? 「サプライチェーン可視化」は何を生んだか
篠﨑教授のインフォメーション・エコノミー(第147回)
経済安全保障推進法とICT
現政権が看板政策の1つに掲げる「経済安全保障推進法」が2022年5月11日に成立した。同法の柱は、(1)半導体など戦略的に重要な財サービスのサプライチェーン強靭化、(2)基幹インフラ機能の安全性と信頼性の確保、(3)官民による重要技術の研究開発支援、(4)特許や機微な発明の流出防止の4つだ。前回と前々回に解説したとおり、ICTは2つの意味で、経済と安全保障のテーマに深く関わっている。第一に、イノベーションの中核を担うICTは、今や経済成長のエンジンであること、第二に、多目的技術(GPT:General Purpose Technology)として、ICTは民生用と国防用で「区別はあっても境界はない」影響力を有していることだ。
後者について、ICT分野の安全保障=セキュリティと言えば、これまでサイバー・セキュリティが一番の関心事であった。今後は、これに加えて、ナショナル・セキュリティも強く意識する必要があり、企業活動のあらゆる場面で「カントリー・リスク」を認識することが欠かせない。
たとえば、経済安全保障の4本柱の1つである「サプライチェーンの強靭化」を取り上げてみると、自然災害や事故、予期せぬ突然の政策変更、特定企業に過度に依存した交渉力の低下など、ここ数年は「カントリー・リスク」の問題が注目されるようになった。
ここで注意しなければならないのは、「カントリー・リスク」を従来の枠組みで捉えるだけでは不十分なことだ。本格的な情報の時代を迎える中にあっては、21世紀型の新たな視点が欠かせない。
21世紀型のカントリー・リスクとは
カントリー・リスクについて、ウィキペディアでは次のように説明されている。海外投融資や貿易を行う際、対象国の政治・経済・社会環境の変化のために、個別事業相手が持つ商業リスクとは無関係に収益を損なう危険の度合いのこと。 GDP、国際収支、外貨準備高、対外債務、司法制度などの他、当該国の治安、政情、経済政策などといった定性要素を加味して判断される。多くは民間の格付会社によって公表される。(中略)第一次石油危機の際、多くの開発途上国において対外債務が累積し、これまでの商業リスク概念を超えた考え方が必要であるとしてカントリーリスク概念が注目されるようになった。この説明からわかるように、企業が事業活動を行う国や地域で、政治、経済、社会情勢の変化によって被ることが予想される損失の大きさや程度というのが一般的な理解だ。1970年代から1980年代にかけて中東の紛争や中南米の債務危機などで注目されるようになった。
だが、これは20世紀型の認識といえる。今後求められるのは、「情報化のグローバル化」という大奔流における認識だ。すなわち、企業の活動場面で直接的に被る損失のリスクだけでなく、その国や地域からは遠く離れた、直接的には関係のない消費者や投資家の評価に関するリスク(レピュテーション・リスク)だ。
IT時代のカントリー・リスクでは、むしろ、このレピュテーション・リスクこそがより重要だと考えられる。なぜなら、消費者や投資家にサプライチェーンの川上まで可視化される環境が生まれているからだ。
【次ページ】ICTがもたらした消費者サイドの可視化
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