特殊詐欺などの「闇バイト」に手をそめる若者が後を絶たない。犯罪社会学者の廣末登さん(53)は当事者に直接取材し、その実態を「闇バイト―凶悪化する若者のリアル」(祥伝社新書)に著した。「自業自得」と彼らを突き放すのではなく、更生を支援し、犯罪集団に戻さないことが大切で「寛容な社会こそが犯罪の拡大再生産の防波堤になる」と訴える。(安東義隆)
最近まで福岡県の大学で教えていた。授業で闇バイトに関わらないよう強く訴えてきたつもりだが、どこか手応えを感じられない自分がいた。「自分の言葉は届いているだろうか、学生の心に刺さっているだろうか」。
「ルフィ」を名乗る人物を指示役とする連続強盗事件が連日報道され、闇バイトが社会問題化していた。しかし、学生は新聞を読んでいない、テレビのニュースも見ていない。「闇バイトの犯罪性を深く理解し、逮捕された後の過酷な将来を想像できていないのではないだろうか。無知、無関心が犯罪のハードルを下げている」。
闇バイトのきっかけは交流サイト(SNS)を通じての募集や地元の先輩、友人からの紹介だ。「高収入」「即金」という甘言にだまされる。「楽してもうけたい」という若者のニーズにうまくはまる。採用時、身分証明書のコピーをとられ、緊急連絡先として実家や勤務先の住所や電話番号を書かされる。「辞めたい」と言うと、実家や勤務先に「押しかけるぞ」、ネットに名前、顔写真を「さらすぞ」と脅されたらやり続けるしかない。
著書では暴走族OBや元組員にインタビューして詳細に勧誘の手口を明らかにした。当事者の証言だけに副題の「リアル」そのものだが、ページの多くをさき、強調したのは逮捕後のほうだ。特殊詐欺は初犯でも実刑が免れず、刑事施設に収容される。厳罰性が高いとされる理由を元検察官は「受け子(お金を受け取る役)、出し子(お金を引き出す役)、かけ子(電話をかける役)は末端で利用される存在とはいえ、彼らがいるからこそ犯罪が敢行される。役割の重要性は否定できず、厳罰の必要性は末端でも変わらない」と説明する。
廣末さんは初犯者への厳罰化には違和感を抱いている。「歴史をふりかえれば、厳罰化で犯罪は抑制されただろうか」。刑期を終えて社会に出ても銀行口座が開けない、携帯電話が持てないことが多々ある。「就職、結婚が妨げられ、希望を失い自暴自棄になり、再犯に至る。新たな被害者を生む危険性は否定できない」。
闇バイトに手を染めた若者たちを「自業自得」とか「自己責任」という言葉で片づけてはいけないと訴える。「地域や学校で(職業観、勤労観を身に着ける)キャリア教育、(知識、情報を活用する力を身に着ける)リテラシー教育を行うべきだ。過ちを償い、更生を志すものには再チャレンジの機会を与え、制度を整えてほしい」。
熱く語るには理由がある。父親との関係が最悪で学校に通わせてもらえなかった。居場所がなく非行に走った。警察のお世話にもなったこともある。補導された警察署で、手錠に腰縄で連行される被疑者を目の前で見たときに目が覚め、不良は卒業した。研究者としての仕事のかたわら、福岡市で中央保護区保護司会で保護司を務める。保護司とは罪を犯した人の社会復帰を地域で支え、安心・安全な地域社会をつくるために活動しているボランティアで、法務大臣が委嘱する非常勤の国家公務員だ。
支援活動を通じてよくわかった。現行の法制度で十分とはいえない。それを前提に若者たちに言っておきたいことがある。「人は裏切ることもあるが、学問は裏切らない。手に職をつけたなら、泥棒だろうが、権力者だろうが、誰もそれを奪えない。人生のうちでほんの数年間でいい、一生懸命に何かにうちこんでほしい」。
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ひろすえ・のぼる 昭和45年、福岡市生まれ。龍谷大犯罪学研究センター嘱託研究員。専門は犯罪社会学。福岡市で保護司も務める。北九州市立大大学院社会システム研究科博士後期課程修了。国会議員政策担当秘書、熊本大イノベーション推進機構助教、久留米大非常勤講師などを経て現職。主な著書は「ヤクザになる理由」「ヤクザと介護」「ヤクザの幹部をやめて、うどん店はじめました。」