7年8カ月の長期政権を担った佐藤栄作元首相は田中角栄、福田赳夫の両氏による後継者争いを危惧していた。自民党総裁選直前の『佐藤栄作日記』(1972年6月19日)にこんな記述がある。
「福田赳夫、田中角栄両君を総裁室に招集して君子の争いを説く。二人とも自信過剰と見受ける」
結果は田中氏の勝利に終わるが、後にこの総裁選は「角福戦争」として戦後政治史に刻まれる。以後、田中氏の退陣を受けて2年ごとに三木武夫、福田、大平正芳の3氏による政権交代が続く。そして角福の確執は田中氏の支援を受けた大平氏が現職首相として落命する事態にまで行きついた。
「君子の争い」について論語はこう教える。礼儀礼節を以(もっ)てお互いのことを敬いながら争うことが、立派な人の争いである。だが総裁選のたびに「君子の争い」の言葉が飛び交うが、...
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