こんにちは、長山一石 (ながやま・かずし) と申します。今年はじめに米国の Google LLC を退職し、最近は JADE という会社を立ち上げて活動しています。今回は、Google Discover について少しお話しようと思います。
0. Discover はいいぞ
Google Discover というプロダクトを知っていますか。昨年ひっそりと旧名 Google Feeds から名前を変えてローンチした、個人に最適化したニュースを届けるサービスです。 Pixel ならばホーム画面から左にスワイプすれば、スムーズに記事のレコメンデーションが始まるような仕組みになっているし、他のスマートフォンでもChrome や Google アプリを利用していれば、いたるところにおすすめ記事の一覧が出るように改変が進んでいます。
あまり目立たないプロダクトではありますが、実は Discover は Google 検索の正統進化系であり、検索を中心としてきたこの会社の未来を担うプロダクトであるとわたしは見ています。また、記事を配信するフィードという性格上、情報を発信するメディアにとって非常に重要な、無視できないユーザー流入元になってきていることは間違いありません。
1. Discover は Google 検索の正統進化系である
Discover はあくまで Google の検索チームが主導して開発しているプロダクトです。Discover 発表のブログポストもあくまで「Google 検索」のブログとして出しており、ヘルプ記事も Search Console ヘルプセンターの中にあります。流入に関するデータも、Search Console 上で提供されています。
なぜでしょうか。検索クエリに対してURL群を返す検索エンジンと、勝手にニュースを配信するサービスでは、全く異なるプロダクトなのではないか、そう考える方もいるかもしれません。
しかし、あくまで Discover は Google 検索の正統進化系なのです。Google の創業者たちは、はやい段階から「将来の検索エンジンは、ユーザーがクエリを放つ前に検索結果を返すようになる」と考えてきました。ユーザーの興味に基づいて次々と記事をレコメンドする Discover は、まさしくそのビジョンを忠実に再現したものです。
もちろん、初期の Google はクエリのデータしか持っていなかったため、ユーザーの文脈を理解することは不可能でした。「10本の青いリンク (10 blue links)」と呼ばれる検索結果のリストは、誰が・いつ・どこでクエリを発したとしても、同じインデックスを参照している限り変わりません。この時 Google が持っているデータは、インデックスに格納されている文書のコンテンツと、それらの文書間のリンク構造のグラフのみでした。
しかし、ユーザー側のデータが徐々に集まってくるにつれて、状況は変化してきました。ログイン情報が集積され、モバイルへのシフトが始まって、Google は「パーソナライゼーション」と「ローカライゼーション」という二つの軸で、ユーザーの文脈を理解した上で検索結果を生成するということができるようになりました。単純に検索クエリだけではなく、誰が・いつ・どこで、というユーザーの文脈をしっかりと理解することで、10本の青いリンクのランキング改善だけでなく、様々なボックスや機能を検索結果ページに表示することができるようになります。単純に [ラーメン] と検索した際に、渋谷にいるのか枚方にいるのか、それとも帯広にいるのかで、検索結果がガラリと変わる世界がもたらされました。
そしてそこから一歩進めて、「クエリ」と「文脈」両方を参照し URL のリストを吐き出す機械から、「文脈」のみを参照して URL のリストを吐き出す機械への進化は、とても自然なものです。
クエリから、クエリ+ユーザー文脈へ、そしてユーザー文脈のみへ。それが過去20年間で Google が辿ってきた進化であるということができるでしょう。もちろん Discover が完全に検索エンジンを置き換えることはありえませんが、ふたつのプロダクトはお互いを補完しつつ進化していくことは間違いありません。
2. Discover は読者に新たな世界をもたらす
Google はユーザーから様々なデータを取得しています。最近新しくなった safety.google のサイトでは、Google があなたに関してどのような情報を取得しているか、それをどのように保護しているかが明示されています。検索履歴や広告のクリック履歴は言うまでもなく、ブラウズ履歴 (Chrome)、移動履歴 (Maps)、利用しているアプリ (Play)、閲覧した動画 (YouTube)、メール (Gmail)、購買履歴 (Shopping)...。My Activityを見ればわかることですが、Google が収集する情報は多様かつ膨大です。
Disover は、こういったアカウントに紐付いたデータを利用しながら、あなたが何に興味があり、どのような生活をしているのか、膨大なデータに基づいてモデル化します。世界にどのようなトピックがあり、ある記事がどんなトピックと関連しているのかを理解するということは Google の得意とするところですから、それとユーザーの興味を紐づけるのはそう難しいことではありません。
すでにDiscover を通じて、ユーザーが実際に興味があるトピックに関して特にフレッシュな情報をピンポイントで紹介する、ということができるようになっています。それはユーザーにとっては、まさしく「世界中の情報が、使いやすくアクセスできる」状況に一歩近づく世界、ということになるのです。
わたしが Discover を開くと、そこにはまずわたしが興味のあるトピックの新しい記事がずらっと表示されます。OnePlus 7 Pro の新しい詳細レビュー、Civilization VI の新しいアップデートが出た、人工知能の最先端はアフリカにある、ニンテンドースイッチミニが出るかもしれない…わたしが普段から追っているトピックや、最近調べた携帯の機種、最近遊んでいるゲームに関する情報などがそこにはあります。それに加えて、”In case you missed it…” と言って、少し昔の、最近の分析哲学に関する記事なども出てくることがあり、どれも、わたしがたしかに読みたいと思うであろうものばかりです。
もちろんこういった記事のリストは、今までなかったわけではありません。しかし以前であれば、パーソナライズされたフィードは、RSS リーダーやアンテナを利用して自分でキュレートしていくものでしたし、登録していないものは、すでにバズっていて、人気の記事になっていない限り気づくことは難しかったと言えます。パーソナライズされたフィードを流し込んでくれるようなアプリは、多くの場合、記事が選択される先が限定的で、ウェブの全てをカバーしているわけではありませんでした。
Discover は、いくつかの点において、他の記事フィードアプリとは異なる性格を有しています。
・配信対象とされる記事が全ウェブから取られてきており、個人ブログやニュースサイト、ニュース記事や固定ページといった垣根がないこと。
・フィードのキュレーションのために、ユーザーの側で取らなければならない行動がほとんどないこと。
・あくまでパーソナライズされたフィードであり、ユーザーが興味があると推定される、あるいは主張したトピックについての情報が出てくること。
・Android の場合は OS そのものに、Chrome の場合はウェブブラウザに、シームレスに統合されており、ユーザーが配信されている情報に対してアクセスする際のステップが少ないこと。
この結果としてユーザーは、ほとんどストレスなく、ウェブ上に存在する自分の興味のある情報をどんどん受け取ることが可能になっています。それは、たしかにユーザーにとって新しい世界を開くものであるということができるのです。
3. Discover は実際に流入の多くを占めるようになってきた
Discover は、不思議なことにそれ自体があまり大きな話題になっているわけではありませんが、実際にサイトに対する流入の大きな部分を占めるようになってきました。すでに昨年からは「Google砲」という呼ばれ方で話題になって来ています。Google Chrome の「おすすめ記事」- Discover の配信先の一つです - に載ったことによって一気に記事の閲覧者が増えた、というサイト運営者が多くいます。
実際に、ある個人運営ブログでは、サイト全体に対する Discover からの流入が7割を占めるところもあります。大きなニュースサイトではなく個人で運営しているブログであったとしても、ある程度そのトピックに関して専門家という地位を築いてしまえば、あとは記事を追加するだけで、そのトピックに関する固定のファンに、毎回 Discover が通知を送ってくれる、という状態が実現できるのです。
あなたの記事が Discover 上で配信された場合、Search Console でその数を見ることができます。以前弊社のブログで発表した、Google Maps 上のスパムについて注意喚起を行う記事も、短期間 Discover 上で配信され、流入元の一つになりました(図)。大きなサイトになってくると、 Discover からの流入のみで1日10万クリックを稼ぐことも可能になります。
4. Discover で配信されやすいページを作るには
では、Discover で配信されやすいページを作るには、どのようにしたら良いのでしょうか。最終的には、「ユーザーと検索エンジンにしっかり価値が伝わるコンテンツを作っていく」ほかありません。その上で、サイト設計や記事作成の上で頭の何処かにおいておくべきことがあるとすれば、次の3つだと自分は考えています。
・URLが Google にとって処理しやすいこと
・トピックが Google にとって抽出しやすいこと
・ユーザーの興味をしっかりとひくこと
それぞれ詳細を見ていきましょう。
URL が Google にとって処理しやすいこと
当たり前のことですが、ページが Google にとって処理可能なものでなければ、Discover で配信されることはありません。Google 検索や Google ニュースに表示させることを前提としたサイト設計を行いましょう。具体的には、以下のようなことが重要です。
・クロールが robots.txt などでブロックされていないこと
・記事の URL がユニークでかつ永続的で、パラメータなども極力廃した形であること
・コンテンツが Google 側でレンダリングせずとも存在していること
・技術面でも品質面でも、Google 検索および Google ニュースのガイドラインに従っていること
レンダリングに関しては、最近ますます質問されることが増えてきたので、また機会を改めて詳しく書くつもりです (※本記事の公開後、レンダリングに関する記事も株式会社JADE公式ブログで公開しました)。覚えておくべきことは、「レンダリングは、Google 側に追加的処理を強いる」ということです。本来であればクロールしてそのままインデックスに移れるところを、レンダーステップが入ることによってどうしても処理の速度が遅くなってしまいます。記事の新しさが重要になってくるこのような場合では、その余計なステップを排除することで得られるものは多くあります。
トピックが Google にとって抽出しやすいこと
Google はトピックのデータベースを持っており、ユーザーがどのようなトピックに興味関心を持っているか、ある記事が何のトピックについて書かれているかを理解した上で、それらの二つをマッチングさせようとしています。当然ながら、Google の技術をもってしても、現段階では構造化されていない全てのコンテンツの意味・トピックを機械で自動的に理解できるわけではありません。そのため、サイトや記事からトピックが抽出しやすいことが重要になってきます。
・記事のタイトルの中で、Google に理解できる粒度でトピックを明示すること
・記事と関連性の強い語句や概念を、コンテンツの中で比較的早期に紹介すること
・いつ書かれた記事なのかを明示すること
・サイトにおけるトピックがある程度集中していること
こうしたことを意識的にすることで、このサイトの記事が何について語っているものなのかを機械にもきちんと理解させることができるようになります。
ユーザーの興味をしっかりとひくこと
Discover はいま人気を集めている記事が、より表示されやすい仕様になっています。しっかりとユーザーに読まれる記事を書くことが非常に重要です。ライティングの手法についてはわたしは専門家ではないので一旦置くとして、「ユーザー側に表示された際に、うまく興味を引く手法」はいくつかあると思います。
・タイトルの中でトピックを明示すること
・初訪問の読者に対してもわかりやすいコンテンツを生産すること
・AMP を利用し、大きな画像を使うこと
・AMP Story を使うこと
Discover で配信された記事がクリックされる確率は通常の検索結果と比べてかなり高いですが、それでもタイトルとリード文、画像によって、ユーザーの行動はかなり変わってきます。
画像については、Google は Discover に関する特殊なガイドラインを用意しています。具体的には、「幅 1200 ピクセル以上の画像を用意し、AMP を利用するか、オプトイン用フォームを記入する」というものです。それに従うことで、Discover フィード内部で大きな面積を占有することができるようになります。また、AMP Storyも、大きな面積を占有するタイプのカードとして配信されるので、おすすめです。
まとめ
Discover は、検索の次の形として Google が力を入れている重要なプラットフォームであって、さまざまなサイトにおいて実際に重要な流入源となってきています。最初からここで配信されることを前提とした記事・サイト作成を行うことで、フィードに表示され、ユーザーにクリックされる確率を上げることができます。うまく活用して、価値のある記事がユーザーにすばやく届く世界を実現していきましょう。
著者紹介
株式会社JADE 代表取締役社長 (Chief Executive Officer)。
京都生まれ。同志社大学法学部卒、ロンドン大学 London School of Economics and Political Science, MSc Social Anthropology 修了。グーグル株式会社東京オフィスで3年働いた後、米国マウンテン・ビューの Google LLC へ転籍。
Google では、検索と Play における Trust & Safety 領域にプロダクト分析の視点から深く関わる。また、Webmaster Trends Analyst として日本のウェブマスターに向けてオフィスアワーを開き、検索エンジンに関わる知識とベスト・プラクティスの啓蒙、日本のウェブマスターの動向調査を通じた Google サービスの改善などを行った。
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本記事は筆者と編集部の独自の取材に基づく内容です。スマートニュースの公式見解ではありません。