現在まで3シーズンにわたって放送された「ブラタモリ」(NHK総合テレビ、2008年〜2012年)。出演したタモリさんの博識ぶりと独特な"ゆるさ"、そしてNHKのもつ強い取材力によって制作された番組は、放送終了後の今も根強いファンがいることで知られています。その番組を手がけたプロデューサーの「仕事術」とは、どういうものなのでしょうか。局内にて行われたインタビューを、3回にわたってお送りします。
NHKプロデューサー、尾関憲一さんは前回のインタビューで、「ポップ」と「コア」を分ける「ミラクルライン」を見つけることが重要だと語ってくれた。コアな人には「それ、自分にはわかるぜ」と感じさせ、それ以外の人たちには「なんだかよくわからないけど、でもおもしろい」と思わせるギリギリの境界線。
ただ、NHKが組織である以上、まず最初はアイデアを企画会議で通さなければならない。それはそれで難しそうにも思えるのだが、いつもどうやって説得している?
自分が本当におもしろいと思うものだと、人に対しても説得力を持って強く訴えられるじゃないですか。だから自信がある以上は、難しさは少ないように思います。逆に表層的な情報だけをつかんできて「おもしろそうだ」って言ったとしたら、それは受け売りですからインパクトが薄い。
僕の企画だけではなく、人の話を聞いていてもそう感じます。「あっ、この人、本気でこれをおもしろがってるんだ」って思わせる人の言うことって、やっぱりおもしろいんですよ。
ただし、たとえ自信があっても、番組にするときには忘れるべきでないことがあるのだとか。
自分だけの世界として完結させてしまわないということ、そこがポイントなんですね。「その対象のどこがおもしろかったのか」ということをうまく抽出しないと、結果的につまらなくなっちゃうんです。
だから、すごくオタッキーな人が好きなことをやれば、それだけですごくおもしろくなるかっていえば、それは違う。マニアックな感性はすごく重要なんですけど、マニアにしかわからないことに偏りすぎちゃうと、テレビとしてはおもしろくないんです。だから僕、そこのバランスはいつも気をつけてますね。自分が最初におもしろいと思ったときの、"おもしろい要素"がなんだったのか。そこをうまく伝えるようにしなきゃって考えているんです。全部詰め込むと、狭い世界になっちゃいますから。
たとえばいい例が、趣味にのめり込む人を紹介する「熱中時間〜忙中"趣味"あり〜」という番組。
第1回:「ちょっとのところ」を、どれくらい取り入れるかが大切 第3回:いま、テレビでなければできないこと 関連記事:ブラタモリのプロデューサーが重視する企画の本質「ミラクルライン」とは「マニアックな趣味を持ってる一般の人を紹介する番組を作ろう」ということになって作った番組ですが、あれはおもしろかったですね。僕自身が趣味的なことが好きな人間なので、その人たちがどういう理由でそれを好きなのかがわかるんですよ。蜘蛛の巣をきれいに保管して集めてる主婦とか、50年くらい毎日、同じ海岸に打ち上げられた海藻を拾って標本にして集め続けている老夫婦とか、そういう人に共感できちゃう。そういう人って少し昔だと「この人たちの世界はわからない」って思われてたんですけど、いまは紹介の仕方によっては共感してもらえるんですね。オタク文化が成熟したというか。
いまの日本って、ちょっと変わったことをやってる人が認められやすいと思うんです。変な趣味をブログで発信してるような人は他の国にはあまりいないけど、日本ではそれが普通になっている。だからそういう人たちを取り上げながら、『熱中するっていう感覚は、日本人の武器なんじゃないかな?』って思ったんです。
(印南敦史)