できの悪いコードと同じように、脳をデバッグできたら良いのに、と思いませんか? 自分自身をプログラムし直すのは無理かもしれませんが、デバッグの理屈を応用すれば、より良い習慣を身につけるのに役立ちます。ではさっそく、その方法をお教えしましょう。人間の脳は、バグだらけのどうしようもない代物です。よくあるバグを再現してみましょう。「ジムに行きなさい」という命令を自分に発したとします。たいていの人の脳は、この命令を受けても、Facebookをアップデートしてしまったり、猫の動画を見てしまったりします。これは望ましい行動ではありませんよね。

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でもご安心を。筆者はこの問題を解決する方法を編み出しました。まずは、人間の脳の仕組みについて解説しましょう。

脳のコードはバグだらけ

私たち人間の脳を改めて見てみると、まるで1万匹のサルが適当にキーボードを打ってコードを書いたかのように思えます。

脳の性質はイベント駆動型です。これはつまり、何かが起きるまではほとんど何もせず、ことが起きるとそれに反応するという意味です。熱さを感じれば手を引っ込め、おなかがグーグー鳴れば食べ物を探しに行くという具合です。

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残念ながら、この世にはひっきりなしにイベントが発生します。光る物体が視界に飛び込んできたり、怖いモンスターが襲いかかってきたりといったイベントすべてが脳に刺激を与え、私たち人間の限られた処理能力を奪い合うのです。

というわけで私たちは、開発者がバグに気づくのが遅れてしまったシステムと同様です。レーザーポインターを追いかける猫のように、何か注意を引く物があればそちらのほうに気をとられてしまい、優先リストの上のほうに割り込ませるのです。

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残念ですが、私たち人間の優先順位決定システムはそれほど優秀ではありません。デフォルト状態では、「座って楽をしたい」という気持ちのほうが、「運動しよう」という決意よりも優先度が高いのです。

意志の力が働かないわけ

でも人間は、知性と意識を持つ脳を備えているのですよね? 数学の問題を解き、チェスをたしなみ、友だちの宿題を丸写しするくらいの知恵はあったはずです。

それは事実です。けれども、脳のこの部位も、イベント駆動型なのです。つまり、脳の高度な能力はいつもオンになっているわけではありません。私たちの脳は、エネルギー効率を最適化するように設定されていて、CPU(この場合は「意識処理装置」の略です)がオンになるのは、どうしても必要な時に限られるのです。気がついたら1時間も車を運転していた、というケースでは、あなたの意識はスタンドバイモードに入っていたと言えるでしょう。

本音ではやりたくなくても、エクササイズをしろと命じるのは、あなたの意識です。意識は、短期的な苦痛よりも長い目で見たメリットのほうが大きいことを見通しているので、運動をするよう促します。そして、意識が支配している限りは、あなたもその命令を実行します。しかし、意識を働かせておくには多くのパワーが必要です。心のバッテリー残量が少なくなっている場合には、こうした命令は、デフォルトの優先順位がもっと高い事柄(ゲームをするとか、Twitterをチェックするとか)に負けてしまいます。

脳のバグを修正するには

このバグを修正するには、独自の新しいイベントを追加すれば良いのです。これは「習慣化」とも呼ばれます。

ここで設定される新しいイベントは、「変化」がきっかけとなります。例えば、朝起きることも変化のひとつです。職場のデスクに到着する、これも変化です。一方、帰宅するのも変化ですね。

私たちの脳に常駐している、デフォルト優先度が高いイベントに行動が乗っ取られる可能性が一番高いのが、実はこの「変化」のタイミングなのです。たとえば、帰宅した場合であれば、「もうクタクタだよ」というイベントに乗っ取られ、ソファーに倒れ込んでしまう、というわけです。これを書き換えてしまいましょう。

新たに追加すべきイベントは以下の通りです:

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変化が起こったら、ノーと言い、正しいことを今すぐ始める

あなたが脳のプログラミング言語に詳しくなくても、心配は無用です。覚えるべき単語はたった3つ、「ノー、正しい、今すぐ」です。では、詳しく説明していきましょう。

1.「ノー」とは

まずは、ほかのイベントすべてを中断する必要があります。人の集中力を削ぐ、さまざまな事柄を力尽くで押し切るには、コツがあります。つまり、「自分の意志を、あり得ないほどシンプルな形に集約する」のです。その意味では、「ノー」以上にシンプルな意思表示もまずないでしょう。

ノーとはすなわち、「あらゆる物事を拒否する」ことです。Facebookをチェックしたいと思っても、その答えはノーです。誰かに5分だけ時間をもらえないかと頼まれても、答えはノーです。そう言われて激怒する人もいるかもしれませんが、それでもノーはノーなのです。

例外を設けて、判断のプロセスを複雑化するのはやめましょう。いずれ例外事項は発生するのです。自分の家が火事で燃えているなら、危険を避けるという野生の本能が優先されるでしょう。それでも、現代の快適な生活においては、99.9%のケースで、もはや時代遅れになった衝動的な生存本能に従って生きることこそが、最大のリスク要因なのです。とにかくすべてにノーと言うところから始めてください。

あらゆる人と物事を拒絶していたら、社会生活を営めないロボットになってしまうのでは? と心配する人もいるでしょう。でも、こまごまとしたお付き合いなら、あと回しにしても大丈夫です。周囲の人に、「あとで」と伝えましょう。肝心なのは、「重要な事柄を先に片づけてしまう」ことです。

2. 「正しい」とは

では次に、今やるべき、たった1つの「正しい」事柄は何かと、自分に問いかけてみましょう。「3つ」ではないですよ。1つに絞らないとダメです。

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これについては、考え込む必要もないはずです。あなたの脳の意識をつかさどる部分は、以前から、やるべき事柄を決めているでしょう。これは多くの場合、いつかやりたいと常に思いながら、時間が見つからない事柄のはずです。

ここでクローズアップされるのは、「重要性」と「緊急性」の対立です。人生で一番大切な事柄、例えば健康的な食生活を心がけるといったことが、急を要する場合はほとんどありません。そして、バグだらけの私たちの脳は、緊急性の高い事柄(電話が鳴っているなど)にだけは、即座に反応しようとします。ですから、選択が可能な状況では、重要性を緊急性に優先させるよう心がけましょう。長期的に見ると、この選択が大きな差を生むはずです。

3. 「今すぐ」とは

やるべき正しい事柄を、今すぐ始めなさい。メールをチェックしたあとではなく、「今すぐ」です。考える時間すら設けず、とにかく「始める」のです。どんなことでも、始めるのが一番大変です。動き始めるのがしんどいのは慣性のせいですが、逆に、一度動き始めてしまえば止まらなくなるのも、慣性のおかげです

このシンプルなパッチに効力があるのは、ある場所から別の場所に変化する時に、脳のイベントへの反応が通常以上に高まるからです。脳は、今までの道筋とは違う新たな行動について決断を下す必要がありますが、一度進む道を決めると、それに固執しがちです。

残念ながら、人は変化時に愚かな決断をしてしまいがちですが、これは意識して行動しないからです。

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変化の途中に正しい判断を挿入すると、重要な事柄を実行できる可能性がかなり上がるはずです。

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とにかく「ノー、正しい、今すぐ」だけは覚えてください。この短い3つの単語が、人生を変えるような習慣をプログラムしてくれるはずです

How to debug your brain| Quora

Oliver Emberton(原文/訳:ガリレオ)

Image adapted from Latio (Shutterstock).