「動画編集に興味があるけれど、いろいろ大変そうだし、なかなかはじめる気になれない…」そんな人も多いかもしれません。
でも実は、動画編集はAIのおかげでかなり楽になってきているのです。
今回、Appleのイベントで「iPhoneとMacを使った動画の撮影・編集」のレクチャーを受けてきましたので、制作の流れをご紹介します。
4台のiPhoneでマルチカム撮影
今回はブレイキン(ダンス)などの映像を実際に撮影し、それらの素材を組み合わせ、エフェクトを盛り込んで動画を仕上げていきます。
まずは、4台のiPhoneを使った「マルチカム撮影」を行ないました。
使うアプリは、「iPad用Final Cut Pro」と「Final Cut Camera」。
これらを使うことで、iPadに複数のデバイスを接続し、いわゆるマルチアングルで撮影することが可能に。今回はiPadに4台のiPhoneをつなぎ、4つの異なる視点から同時に撮影しました。
ダンス動画の切り抜きもAIなら簡単!
編集に使うのは、Mac用の動画編集アプリ「Final Cut Pro」。最新バージョンのFinal Cut Pro 11では、AIを活用して編集を楽にする機能が新たに複数搭載されました。
まず、マルチカム撮影したブレイキンの動画を編集していきます。とはいっても難しいことはなく、画面上で4つのアングルの映像が同時に再生されるので、視点を切り替えたいタイミングで、そのカメラの映像をクリックするだけ。
各アングルの動画の経過時間は自動で同期されているので、切り替えのタイミングも違和感なくつながります。音声は任意のものを1つ選んで使えるので、自分で細かい編集をする必要はまったくありません。
続いて、この動画からダンサーの映像だけを切り抜いていきます。
ただでさえ動きの激しいブレイキンの動画を切り抜くなんて大変そうに聞こえますが、ここはAIの出番。
最新版のFinal Cut Proには、AIで簡単に被写体を認識して処理できる機能「マグネティックマスク」が用意されています。
エフェクトの一覧から「マグネティックマスク」を選んで、エフェクトを追加したあと、ビュアーに表示される映像で切り抜きたい被写体をクリックするだけで、人物だけを自動で認識。
この時点では動画の特定のフレーム(コマ)で被写体を選択しているだけですが、「解析」ボタンをクリックすればそのクリップ(動画のパーツ)全体に拡張されます。
ダンサーの激しい動きもしっかり追尾して、正確に切り抜けました。細かい作業も難しい操作もしていないのに、ここまでできるのは驚きです。
映像を重ねて幻想的な雰囲気に仕上げる
続いて、切り抜いたダンサーの動画のうしろに、背景用に撮影した別の動画を重ねていきます。
今回はシャボン玉が大量に飛ぶ動画を撮影したのでそれを使いたいと思いますが、ここで1つ問題が。ダンサーの動画に対して背景動画の時間が短いため、尺が合いません。
背景動画の再生速度を落とすことで引き伸ばすことはできますが、そうすると今度は若干カクカクした映像になってしまいます。
そんなときに役立つのが、映像の質を落とさずスムーズなスローモーション映像を作成できる「スローモーションをスムージング」機能です。
利用できるのはAppleシリコン搭載のMacに限られますが、今回のように尺を伸ばしたい場合だけでなく、映像の効果としてスローモーションを美しく見せたいときにも重宝しそうです。
さらに、より幻想的な雰囲気にするために、背景をもう1つ追加します。今回は、シャボン玉の後ろにカラーのスモークを撮影した動画を重ねました。
両方の背景動画のクリップを選択した状態で、「カラーインスペクタ」の「ブレンドモード」の項目で「加算」を選択すると、2つの映像が溶け合ったような感じに。
さらに、もう1つの被写体であるモデルの映像も追加します。ダンサーの時と同様にマグネティックマスクで切り抜きを行い、ちょうどいいタイミングでダンサーと重なるように調整しました。
仕上げに、動画の色味などをAIで一括調整できる「ライトとカラーの補正」を適用して動画全体を鮮やかにすれば、ひとまず完成です。
この動画は横長で撮影して編集していますが、スマホでも見やすさを考えて、ここで縦長の動画にしたいと思います。
「プロジェクトを別名で複製」のウィンドウで「縦」を選んだ後、「スマート適合」にチェックを入れておけば、AIがちょうどよく縦長に書き出してくれます。
最後に、縦長になった動画を書き出せば完了。幻想的なエフェクトをバックに、ダンサーとモデルが同じ画面内で動く、不思議な雰囲気の動画に仕上がりました。
After Effectを使えばユニークな効果も追加できる
すでに十分かっこいい動画になっていますが、さらにおもしくしたいときは、映像に特集効果を追加できる「Adobe After Effects」の出番。
今回は、テキストが粉々になって散る効果と、動画のラストで画面が割れるように穴があく効果を加えました。
さらに、動画全体に光っているようなエフェクトをかけ、キラキラ感を増しています。
2025年は動画編集にチャレンジしてみては?
動画編集を快適に進めるにはPCにある程度のスペックが必要になりますが、環境さえあれば、その先のハードルはそれほど高くないかもしれません。
今回つくった映像も、被写体の切り抜きや色味の調整、動画の縦横比の変換といった、手間のかかりそうな印象のあった作業はすべてAIがやってくれたので、初心者でもスムーズに進められました。
iPhoneで撮影してMacで編集するフローの場合、撮影した動画はiCloud経由で「写真」アプリに自動同期されるので、データ転送の手間が不要なのも便利なところです。
Mac用のFinal Cut Proは50,000円の買い切りで、90日間の無料体験がついているので購入前にじっくり試すことが可能です。なお、最初に紹介したマルチカム撮影には、月額700円(または年額7,000円)のiPad用Final Cut Proが別途必要になります。
クリスマスや初詣、親戚や友人との集まりなど、動画を撮る機会が増えるこれからの季節。せっかくなら、撮影した動画を単なる「記録」ではなく「作品」に仕上げてみると楽しいかもしれません。
人によっては長い休みになる今年の年末年始。せっかくなら、じっくりと動画撮影にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
Screenshot&Movie: 酒井麻里子/Source: Apple(1, 2), App Store, Adobe