2014年7月20日、小学校の夏休み開始と同時に、家族4人(妻、長男7歳、次男3歳、私)で旅に出ました。行き先は八重山諸島。最初の1週間は、妻も一緒に石垣・竹富・鳩間を回りました。7月26日、仕事のため妻が単身で帰京。そこからは男子3人で、黒島・波照間・西表・与那国・小浜と回り、定期船で行ける八重山諸島を全制覇。8月13日に帰京しました。全部で23泊24日の行程。息子たちと全力で遊び、たくさん笑いあった、夢のような毎日でした。

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八重山諸島の位置と距離感

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波照間島は有人島で日本最南端、与那国島は日本最西端。与那国から台湾はわずか111kmの距離

Image from Google Map

仕事をしながら子連れで旅はできるのか

筆者はフリーランス翻訳者。昔はサラリーマンをしていたのですが、長男が生まれた2007年に2年間の育休を取得。その後、妻の米国転勤などが重なり、退職して今の形になりました(詳細は著書『子育て主夫青春物語』を参照)。今は、子育ての第一責任者として育児をしながら、在宅で仕事をする、いわば"ワーキングファーザー"をしています。

仕事の性質上、パソコンとネット回線さえあれば、どこでも仕事はできます。そこで、ふと思い立って旅に出たのが2012年のことでした。その年は30泊31日で、沖縄本島とその周辺を旅しました。出発当時、次男はまだ0歳。1歳の誕生日は宮古島で迎えました。次男が生まれてから赤ちゃん返りがひどかった長男の自立という大義名分を掲げて旅立ったのですが、そんなことどうでもよくなるくらい、その旅が本当に素晴らしくて。長いこと忘れていた旅に出たときの気持ちを、思い出させてくれたのです。

それからというもの、子連れの長旅に目覚め、毎年夏の恒例行事になりました。昨年は奄美大島や屋久島など、鹿児島の島々を転々としました。そして、3年目となる今年は、八重山に向かったわけです。

もともと旅は好きでした。学生時代はバックパックをかついで世界を旅したものです。ちょうど猿岩石ブームもありましたし、いま親になっている世代は、そういう人が少なくないのではないでしょうか。

「でも、子どもができてからはさすがにね」

そんな声が聞こえてきそうです。実は私もそうでした。「本当は旅が好きなんだけど、子どもがいるから行けなくて」

と、誰が決めたわけでもないのに、自分で勝手に扉を閉ざしていたのです。

その扉を開くきっかけとなったのが、長男の保育園時代のお友達でした。1カ月ほどその子を見ないなと思ったら、なんと母子2人で、タイやカンボジアを1カ月旅してきたというのです。子どもができてからは、いわゆる「旅行」はできても、「旅」はできないと思っていた私にとって、目からうろこの出来事でした。子どもがいるから旅に行けないなんて、誰が決めたのでしょう。ただ、行けばいいだけだったのです!

直感に身を委ね、トラブルを楽しむ

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フィリピン沖で発生した黒潮が最初にぶつかる八重山の海は、限りなく透明。

毎日のように、息子たちと八重山ブルーを堪能した

この旅では、何にも予定を決めません。その日の気分で行先を決め、それから宿を探します(今年の行先はほとんど小2の長男が決めました)。あらかじめ行程が決まっているのを「旅行」と定義するなら、風まかせのこのスタイルは、まさに「旅」。学生時代、ひとり旅をしていたあの頃と、変わらないスタイルです。

子連れでそんなことできるのかと不安に思う人もいるでしょう。でも、大丈夫。何とかなると思っていれば、何とかなるものです。ただ、「流れに身を任せる」、これが我が家のスタイルです。

旅にはトラブルが付きもの。今年の旅も、例外ではありませんでした。鳩間島では次男が熱射病になり発熱。おう吐を繰り返しましたが、何とか回復しました。黒島では長男が自転車で有刺鉄線に突っ込み出血、島人の優しさに助けられました。そのほかにも、与那国島に行くフェリーがお盆で欠航して(ホームページにもそんなことは書いてないのに)、急きょ飛行機に変更したこともありました。3週間の滞在中3回も台風が来て、波照間島から出られずに1週間滞在したこともありました。

でも、命にかかわらないのであれば、トラブルだって楽しいもの。

直感に身を委ね、トラブルを楽しむべし

これこそ、私が考える子連れ旅の秘訣です。

旅は、若いうちに行け。

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バスに乗り込む子どもたち。島の旅では、飛行機、船、バス、レンタサイクルなど、あらゆる交通手段を駆使して移動する。

長旅にはお金がかかります。そこでこの旅では、できるだけ自給自足を目指しています。自給自足とは、その日に稼いだ分のお金をその日に使うということ。「日銭暮らし」と呼んでもいいかもしれません。

一昨年は、長男がまだ小学校に入っていなかったため、オフシーズン(6月)に旅立つことができました。おかげでどこに行ってもガラガラで、すべてが安く済みました。ところが、子どもが小学校に入学してしまうと、学校の夏休みに合わせて旅立つ必要があります。おかげで昨年からは、宿泊費やレンタカーなど、すべてが高くなってしまいました。今年は次男が3歳になり、飛行機の席が必要に。年々、旅の費用は上がり続けています。

体力面でもそうですが、金銭面から見ても、旅は(子どもが)若いうちに出た方がいいようです。

旅に見る我が子の成長

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海は遊びの宝庫。泳ぎ疲れたら、カニやヤドカリを捕まえるのも楽しい。

そうしているうちに、あっという間に1日が過ぎていく

旅は人を成長させます。それは子どもであっても大人であっても同じこと。チーム男子3人も、毎年旅から帰るたびに、大きく成長しています。

今年は何よりも、兄弟仲が深まりました。7歳と3歳、普段は学童と保育園に通っているので、平日一緒に過ごす時間はほんの数時間。週末こそ一緒にいる時間が長いものの、ケンカを繰り返す毎日でした。でもこの旅では、24日×24時間=576時間を一緒に過ごしたわけです。

するとどうでしょう。最初の数日で、2人が協力していろいろなことをするようになりました。階段を上るときには兄が弟の手を取り、兄が何かに困っていれば、3歳の弟が「おにいちゃん、どうしたの?」なんて声をかける姿が見られるようになったのです。親として、こんなに嬉しいことはありません。仕事をしながらの子連れ旅は体力的にものすごく厳しいのですが、こんな成長を見ていると、やはり旅はやめられないものです。

小学生にもなると、これまでにインプットされたさまざまな知識と島での体験がリンクして、化学反応を起こします。例えば小2の長男は、カヤックを漕ぎながら、どういうわけか小惑星探査機「はやぶさ」について語り始めました。大人にはわからない何かが頭の中で起こり、刺激を受けていろいろな情報がつながっていったようなのです。このように、理屈ではないところで知識と体験が一致したとき、初めて人は物事を深く学ぶことができると私は信じています。

"非日常"のその先へ

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鳩間島の朝日。毎日海から上り、沈んでいく太陽を見ていると、何もかもが些細なことに感じられる

いつもの生活から長期間離れることにも意味があると思っています。通常の旅行というのは、"非日常"を体験しに行くものかもしれません。でも、2週間も旅を続けていると、だんだん"非日常"が"日常"に変わってきます。ぜいたくな話ですが、日本一美しい海を目の前にしても、何も感じなくなるのです。同時に、「こんなとこで何やってるんだろう」という気持ちが芽生えてきます。私はこれを「中だるみ」と呼んでいます。世間では、ホームシックと呼ばれるものかもしれません。

でも、その中だるみにこそ、重要な意味があるのです。非日常が日常に姿を変えたとき、かつての日常(=私の場合、退屈に感じられていた東京での生活)を、客観的に見ることができようになります。「あの件についてはこだわりすぎてたな」「あの仕事、もう少しこうした方がいいかも」「きっとあの人にも事情があるんだろうな」「先送りしていたあの作業、帰ったら着手しよう」などなど。東京を離れているのに、東京での生活があれこれと頭をよぎります。息子らもきっと同じでしょう。日本最南端の島にいながら、小学校や保育園のこと、お友達のこと、お勉強のことなどを思い出していたに違いありません。

中だるみを乗り越えると、旅の喜びが戻ってきます。その域に達したら、長旅に出たかいがあったというもの。短期の場合はたいてい、現実の世界に引き戻されるのがいやで、旅の終わりには寂しさが付きまといます。でも、長旅の終わりに訪れるのは、さわやかな気持ちだけ。むしろ、現実の世界に戻ることが楽しみですらあるのです。おかげで毎年、新鮮な気持ちで日常生活に戻ることができています。

「子連れだからできない」ではなく、「子連れだからこそできる旅」を!

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西表島のマングローブのジャングルにて。旅の間に、3人とも大きく成長した

長々と書きましたが、子育て中のパパやママにいちばん伝えたいことはこれです。いきなり長旅に出る必要はありません。「10分電車に乗るだけでもたいへんなのに、飛行機なんてありえない」と思うのなら、近所でもいいのです。ちょっと勇気を出して、一歩を踏み出してみませんか?きっと、自分の中で何かが変わるはず。

これは旅に限ったことではありません。かつての私がそうであったように、いろいろなことに「子連れだからできない」と扉を閉ざしている人は多いと思います。それでは、大きな可能性を逃しているかもしれません。「子連れだからできない」のではなく、「子連れだからこそできること」に目を向けてみてはいかがでしょう。そんな視点を持つことで、人生はガラッと変わります。

父親や母親になったからと言って、自由が奪われるわけではありません。自由の種類が、ちょっと変わっただけ。"子連れという自由"を、楽しもうじゃありませんか!

男子3人夏物語は、まさに"子連れだからこそできる旅"。息子が「もうパパとは行きたくない」と言うまで、続けていけたらなと思っています。「パパと行きたくない」と言われたら、そのときは"センチメンタル・ジャーニー"と称して、ひとり旅にでも出ますかね。さみしいけれど、それはそれでけっこう楽しみだったりもします。

(堀込泰三)

Photo by Mayu Morimoto.

堀込泰三

1977年生まれ。東大大学院を経て大手自動車メーカーでエンジン開発に携わる。2007年長男誕生時に2年間の育休を取得。その後、子どもと過ごす大切な時間を増やすため「子育て主夫」に転身。家族でアメリカ生活を送った後、現在は日本で翻訳やライターをしながら2児を育てている。著書に『子育て主夫青春物語:「東大卒」より家族が大事』(言視舎)

ブログ「在宅翻訳家の兼業主夫的生活

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