『起業で成功する人、失敗する人』(金原隆之 著、フォレスト出版)の著者は、これまでに1000件以上の企業相談を受け、400件以上の企業サポートを行なってきたという起業コンサルタント。
「起業後2年間の生存率は20%を下回る」という話はよく聞きますが、そんななかにあって、著者の支援を受けたクライアントは2年後の生存率80%を継続しているのだそうです。
にわかには信じがたいような話ですが、なぜ、そんなことが可能になったのでしょうか?
そのポイントは、「起業についての考え方」にあるようです。
つまり起業をゴールにするのではなく、起業前から起業後2年までをサポートするコンサルティングにシフトしたからこそ、そのような実績を打ち立てることができたということなのです。
加えて著者は、「起業を成功させるためには、“起業するまでの準備期間”“起業から2年間の生存競争”“起業後5年間の事業継続”という3つのフェイスを超えなければならない」と考えているのだとか。
そこで本書では、それぞれのフェイズにおいてなにをすれば成功するのか、あるいは失敗するのかを解説しているわけです。
きょうは「フェイズ1 起業準備 起業=ゴールではない」内の1「起業家にとって『行動力』や『決断力』よりもっと大切なこととは?」に焦点を当て、スタートの段階で意識しておくべきことをピックアップしてみたいと思います。
起業家に勢いは必要ない
起業のための準備期間といえば、すぐに思いつくのはその「事業内容」や、必要な資金を集める「資金調達」、社員やアルバイトなどの従業員を集める「人材確保」など。
それらの準備が不足していては、起業することなどできないわけです。
しかし、その際に最も大切になるのは「行動力」と「決断力」ではない。著者はそう断言しています。
むしろ、石橋を叩いて渡るくらいの慎重さと、常に「もしものとき」を想定するような臆病さのほうが必要だというのです。
「起業には勢いが必要だ」と主張する人は多く、そういった「大きな声」に影響されてしまう人も少なくはありません。
しかし忘れるべきでないのは、そうした主張をしている人の多くは、長く経営を続けている社長や経営コンサルタントであるということ。
つまり、彼らはすでに事業を成功させているか、事業を成功させている社長を相手に仕事をしている人であるわけです。
長期経営をしているような社長と、これから企業しようとしている人とで、事業に必要な考え方、あるいは準備するものが異なるのは当たり前の話。
たしかに“成功する社長”“成功した社長”に、「行動力」や「決断力」は必須です。
経営を安定させていくためには立ち止まれず、常に決断に迫られているからです。
とはいえ彼らも、最初から輝いていたわけではありません。
起業当初は現在と違う考え方や行動をしていたはずで、やがてその先に現在の成功を手にしたことです。
だからこそ、これから起業を考えている人は、とりあえず憧れの存在は頭の隅に置いておくべきだt著者は主張しているのです。(18ページより)
起業後に失敗する人の典型例
著者によれば、「行動力」や「決断力」によって熱くなった人は、起業で失敗する典型的なタイプなのだそうです。
なぜなら彼らには、自身のやりたい仕事(業種)と、それに必要な資金の調達にだけ注力するという特徴があるから。
しかし、それよりも必要なのは、志や理念に基づいた計画だといいます。
「なぜ自分はこの仕事をしたいのか?」「この仕事でどこを目指すのか?」「どういうお客様に来ていただきたいのか?」「社会にどのように貢献できるか?」といったことを突きつめたうえで、起業後も継続するための事業や資金繰りの計画を念入りに練る必要があるわけです。
見切り発車で起業できたとしても、あとから「思っていたのいと違う」「やりがいが感じられない」というようなことに気づいたのであれば、もはや遅すぎるということ。
なお、このことについて、著者は実際に受けた相談を例にして説明しています。
店舗経営のビジネスで起業したいという人が資金調達の件で相談に来ました。
その人はすでに開業したい場所(店舗)も決めていて、採用予定の従業員の目処も立っている状況であると説明してきました。
後は資金調達さえできれば店をオープンでき、事業は成功するはずとのこと。そして、すでに次のビジネスに挑戦したいという考えを持っていました。(20ページより)
著者はこの相談を受けながら、「この人はオーナー業として起業したいのだ」と感じたといいます。
自ら店舗のなかには入らず、オープン後は従業員に任せておけば店は勝手に繁盛すると考えていたわけです。
もちろん、すでに経験と実績を残している起業家であれば、独自のノウハウを使って成功させることは不可能ではないかもしれません。
ところがその人は、初めての起業。本来であれば、最初の1店舗目を軌道に乗せるだけでも相当な労力がかかるはずです。
しかしその口ぶりからは、自分が始めようとするビジネスへのこだわりが感じられなかったといいます。
つまりこれが、「起業はできても起業後に失敗する可能性が高い人」の典型。
一見、「行動力」「決断力」があり、やる手のように見えるかもしれません。しかし思い入れが浅いため、仮に起業できたとしても事業継続に必要な粘り強さはないと感じるというのです。
起業までの時間の短さを競うことよりも、起業後の事業継続のほうがずっと大切だということ。
そして、そのために必要なのが、自分のビジネスへの強いこだわり、起業家としてのマインドセット、「勝つべくして勝つ」くらいの計画を練り込むことのできる周到さなのだそうです。
もしも事業の安定した継続を視野に入れるのならば、先に挙げた「起業の3つのフェイズ」のうち、「起業準備」の重要度は全体の60%を超える。
著者はそう考えているのだといいます。いいかえれば、半分以上の割合で「起業準備」に力を費やさなければならないということ。
「戦いの勝敗は、戦う前の準備で決まる」のです。(22ページより)
起業を目指す人にとって、これはとても重要な考え方なのではないでしょうか?(19ページより)
当然のことながら、起業家には強靭なメンタルが要求されます。しかし同様に、現実的なリスクや実務的な作業を知ることも重要。
そこで本書では、メンタルや知識、そして実務の各面から過不足なく解説しているのだそうです。
「本書を通じ、起業家のみなさんには“5年間の事業継続”を必ず成功させ、ビジネス界に生き残る経営者になってほしいーー」
そう訴えかける著者のメソッドは、参考にしてみる価値がありそうです。
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Photo: 印南敦史
Source: フォレスト出版