話題事業用トラックに装着が義務付けられているタコグラフ。その記録を読み取り、手書きで運転日報をつくるのはかなりの負担だ。軽減手段としてデジタルタコグラフ(デジタコ)があるものの、操作の複雑さや価格の高さがネックとなり、いまだアナログ対応している事業者も多い。
2018年に創業したCENTLESS(セントレス、鳥取県米子市)のデジタコ「OCTLINK」(オクトリンク)はシンプルさを追求し、操作ボタンをわずか5個に凝縮。導入コストとなる本体価格も10万円前後に抑えている。「シンプルかつリーズナブル」なデジタコはいかにして生まれたのか、同社社長の村竹昌人氏に開発秘話などを聞いた。
ボタン5つのシンプルさ
CENTLESSは、自動車ガラスの修理・交換などを行うダックスホールディングス(同)を親会社としている。自動車ガラスのビジネスで顧客から出てきた話題の一つが、中小企業におけるデジタコ導入の難しさだった。デジタコにすれば負担が減ることは分かっているが、高価なため中小企業はなかなか導入できない。操作の複雑さも導入を阻む一因になっているという。そうした現場の声を受け、ダックスホールディングスからスピンオフとして誕生したのがCENTLESSだ。
物流業界に切り込んでいった当初は、アナログな現場の実態に驚くことも多かったという。導入ハードルを下げなければ、デジタコの普及はあり得ないことを肌で感じた。村竹氏は「デジタコの話をすると『導入してもドライバーが使えない』『ボタンを押すのにも抵抗がある従業員がいる』という事業所が多いのは衝撃だった。操作のハードルをいかに下げるかがキーだと確信した」と述懐する。
OCTLINKのボタンは1-5までの連番が振られた5つだけ。ディスプレイに表示する文字も「帰庫」「荷積」「荷待」「荷卸」「休憩」など、直感的に理解できるものに絞った。操作性を高めるために、本当に必要な機能だけを厳選した結果だ。「既存のデジタコは良い意味でいえば非常に多機能。しかし、一方で今どの機能が必要なのか、どう操作すればその機能を呼び出せるのか分かりづらいことも多い」(村竹氏)
村竹氏によれば、「機能を盛り込むのはむしろ簡単。ユーザーに求められるままに機能を拡張していった結果、扱いにくくなってしまったデジタコも多い」という。そのためOCTLINKには今後もむやみに新機能を搭載しない方針だ。
スタートアップならではの提供価格
低価格を実現できた理由は、CENTLESSのビジネスモデルにある。従来のデジタコはあくまで本体を売ることで売上を立てていた。しかし、同社はOCTLINKをサブスクリプションとして展開。月々の使用料から利益を得る仕組みをとる。本体を売った際の利益はほとんど度外視しているため、10万円という価格で提供できる。2000-2500円程度と、月額料金も他社と大差がない。
サブスプリクションのデジタコは「スタートアップだからできたこと」と村竹氏は語る。大手企業ではこうはいかない。本体の販売価格を下げると、一時的に売上高が落ちるため、株主や金融機関から反発を受ける恐れがある。また、大手ほど代理店を通じて機器を販売することが多く、マージンを確保するためにはどうしても本体価格を高めに設定する必要がある。スタートアップのCENTLESSにはそのようなしがらみがなく、機器も直販できるため、安く本体を販売することができる。タコグラフを扱う大企業の幹部からは「できるなら自分たちがやりたかった」と言われたという。
地方発、脱中央集権の開発体制
CENTLESSの社名には「Central+Less」、つまり中央に依存しないという意味が込められている。「“ビジネスの中心だから何でも東京で”という風潮に反発を感じていた」と村竹氏。同氏はIT業界出身で、リモートワークの最先端を経験してきた。それでも“東京でしかできないから”と言われ、関西から関東に引っ越したこともあったという。
中央集権的なビジネスに疑問を抱いていた村竹氏は、CENTLESS設立を機に「地方でもできることを証明したい」と米子への移住を決めた。実際、東京でも米子でも、システム開発の能率は変わらないという。むしろ地方の方が静かでゆったりとした雰囲気があり、オフィス環境や住環境は良い。
一部の従業員にはリモートワークを推奨しているが、互いに離れて作業をするため相互コミュニケーションは欠かせない。かといって、中央からの指示がなければ誰も動けないような組織にはしたくない。そんな村竹氏が目指すのは「サッカー型組織」だ。互いに声をかけ合いつつ、必要に応じて自発的に機能する組織づくりを心掛けてきた。従業員には新しいことに挑戦する「攻め」のときと、ポジションに関係なく防御に回る「守り」のときを、自主的に判断してもらいたいと思っている。中央依存を嫌う、独立独歩な村竹氏らしいリーダーシップのとり方だ。
半歩ずつの前進で人の意識をDX
シンプルさにとことんこだわったおかげで、「『分かりやすい』『使いやすい』という声をよくいただく」と村竹氏。努力の甲斐あってか、発売開始から1年でOCTLINKは200社、2500台以上の販売を行った。
今後は運送事業者が同じ規模の事業者のデータを閲覧したり、ほかのシステムと連携したりといった機能拡張を考えているという。OCTLINKをより自由でオープンな商品に仕上げていく考えだ。
「データを本部や管理システムに流すことで活用の幅が広がる。事業者が見たいデータにアクセスし、配送計画に役立てられるようなサービスに進化していけたらと考えている」(村竹氏)
ただし、ユーザーを置いてけぼりにしないよう、こうした機能は段階を経て実装していく予定だ。「システムを半歩新しくしたら、ユーザーが使いこなせるようになるまで待つ、その繰り返しで少しずつ機能を拡張していきたい。できることが増えれば、ユーザー側からもきっと新しい工夫が生まれる」と、村竹氏はあくまで現場に伴走する姿勢を崩さない。
同社は、デジタコの国内シェアで業界の3本指に入ることを目指している。またシンプル・低価格という強みを生かしつつ、将来的にはトラック以外の車両・機械の分野にも進出したい考えだ。
一問一答
Q.スタートアップとして、貴社はどのステージにあるとお考えですか?
A. 投資ラウンドで言えばシリーズBからCへ向かう途上、ベースを確立して個性あるサービスを提供する段階であり、顧客数も急拡大期に入っています。
Q. 貴社の“出口戦略”、“将来像”についてお聞かせください。
A. 具体的な時期やマーケットは未定ですが、いずれはIPO(新規上場)を目指しています。