今夏もタローマンがアツい!「なんだこれは」な入門百科を取材
「ファスト的にメリットを求められる今だからこそ、なにひとつ有益な情報の無いこの本を是非!」。著者自身がそう推すのは、一筋縄ではいかない「タローマンワールド」を、144ページにわたって解説する新刊『タローマンなんだこれは入門』。
1970年代から1990年代初頭に出版されていた「小学館入門百科シリーズ」の装丁を復刻し、6月28日に発売された。
もともとは2022年夏に「大阪中之島美術館」で開催された『展覧会 岡本太郎』のプロモーション用の企画から誕生した「タローマン」。1972年に放送された(というテイの)岡本太郎の「ことば」と「作品」をもとにしてつくられたNHKの番組『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』の主人公で、大阪の風景にすっかりなじんでいる「太陽の塔」と、その兄弟分に例えられる「若い太陽の塔」がモチーフになっている。
確かに、同じ時代の子どもたちを夢中にした「入門百科シリーズ」とは親和性が高い「タローマン」。しかしなぜ今、そしていかにして、この何重にも虚構と事実とが折り重なったデタラメな本ができあがったのか。タローマンをこの世に生み出した、監督・藤井亮さんに訊いた。
■ なんか前より設定増えてない? 藤井監督の答えは
──昭和の子どもたちを夢中にした「入門百科シリーズ」の魂は、タローマンの世界観にこれ以上なくぴったりなように感じました。この本の計画はいつごろ、どのように始まったのでしょうか?
2022年の夏ごろからです。当時の子どもが夢や妄想をふくらませた児童書を、令和の世に復活させようというところからスタートしました。
──見返しのロゴの配置や、全編に通じて漂う「うさんくささ」、二色刷りページの手触り感・・・。1978年に出版されたものと見比べてみても、みごとな復活ぶりで感激しました。
印刷所の方からも、「相当久しぶりに二色刷りで刷った。これが最後になるかもしれない」と言われました。
──貴重な資料になる日が来るかもしれません。ところで発売日にひと通り読みましたが、「でたらめ拳法の使い手」「奇獣のなきごえ」など、今までに聞いた記憶がない名称や設定の解説が見受けられました。今回の制作を通してあらたに見つかった事実でしょうか?
え? そうですか? あくまで僕の記憶で、ですが、元々あった設定のような気もしています。
──「無籍王子」といういわくありげなキャラも、さらっと初登場していませんか?
あくまで僕の記憶で、ですが、無籍王子は月光仮面や七色仮面、ナショナルキッドなどのモノクロ時代の特撮ヒーローのひとりだったかと思います。太郎作品ヒーローのなかでは最古参かもしれません。
■ 「なんだこれは」としか言いようのない本を死ぬ思いで作った
──題字やイラストなど、すべて手書きされたとのこと。完成までの途方もない道筋を感じました。総制作期間はどれくらいかかったのでしょうか。
半年くらいでしょうか。死ぬかと思いましたし、僕の会社がマイナスに飛び込んでしまいました。
──この本では「子ども」というキーワードが多く出てきますが、多くの大人たちも発売を喜んでいます。かつて子どもだった大人たちが「入門百科シリーズ」に胸を踊らせること、どのように感じていらっしゃいますか?
僕自身も子どもの頃、自宅や図書館などで小学館の「入門百科シリーズ」をいくつも読んできました。その頃の自分に向けて、「こんなのあったらびっくりするだろう?」と作った気持ちがあり、そういった意味では同じ気持ちになってくれる大人たちがたくさんいるのはとてもうれしいです。
──昭和を生きた元子どもとして、わたしも同じ気持ちです。発売日を迎えられた今は、どんな心境ですか?
あんなに大変な思いをして作った本なのに、見返してみると「なんだこれは」としか言いようのない、変な本になっていて自分でも心境をまとめきれていません。「小学館入門百科シリーズ」「岡本太郎」という偉大な公式から、二次創作のような本を出してしまうことの恐ろしさもあります。
──感動と称賛の声が相次いでいるようすから、「公式が真剣にでたらめなことをする」面白さを、多くの人が求めていたのかもしれないと感じます。イベントなども期待してしまいますが、出版に合わせて何か動きはあるのでしょうか。
出版と連動してはいないのですが、7月8日から「川崎市岡本太郎美術館」(神奈川県川崎市)で『超凱旋!タローマン』という展覧会が開催されています。あと、8月には特別番組「帰ってくれタローマン」の放送が予定されています。
──2022年は奇祭としか言いようがない『タローマンまつり』が「大阪中之島美術館」で催され盛り上がりましたが、今年はテレビの前で熱い夏が繰り広げられそうですね。
未発表映像を出しきりますので、この夏のタローマンまつりとなりましたら。
◇
タローマンのでたらめさのなかには、味わい深い「余白」が秘められていると筆者は感じている。令和の世をせわしなく生きる私たちに今必要なのは、そんな「余白」なのではないだろうか。
特別番組『帰ってくれタローマン』は8月5日・夜11時からNHK総合で放送予定。7月17日・深夜2時20分からはNHK総合で『おやすみタローマン』も。『タローマンなんだこれは入門』(3300円)は、全国の書店で発売中。
取材・文/脈脈子
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