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目指すは「唯一無二の存在」 パナソニック新人女性マネジャー古本萌夏さん 社会人野球NOW vol.46
11月9日に閉幕した社会人野球の第49回日本選手権。会場となった京セラドーム大阪では、大会を支えるため、各チームから派遣された多くのマネジャーが奮闘していました。その一人、パナソニックの新人マネジャー、古本萌夏さん(23)。日本大理工学部出身で、社会人野球の企業チームでは珍しい「女性マネジャー」です。支える立場を志した理由、マネジャーのやりがいやチームの魅力などについて話を聞きました。【聞き手 毎日新聞社野球委員会・中村有花】
=パナソニックの古本萌夏マネジャー
中高はソフトボール部、大学からマネジャーに転向
――日本選手権ではどのような仕事をしていましたか。
◆古本マネジャー ウエブ速報の対応や、応援団への合図出しなどさまざまです。覚えることも多くすごく大変ですが、他チームのマネジャーの動きも見ることができるのでとても勉強になっています。今年、パナソニックは出場できませんでしたが、過去の大会ではいろいろな方の協力があって試合ができていたと思うので、自分も積極的に動いていくことを心掛けていました。
――これまで、日本選手権や都市対抗を見に行ったことはありましたか。
◆去年、両大会でパナソニックの応援に行かせてもらいました。スタンドにはチームのために来てくれる人がたくさんいて、企業愛、地域愛のようなものを感じました。高校野球には関わったことがないのですが、大学野球ともまた違った雰囲気の応援でした。
――マネジャーを志したきっかけは。
◆小学校の時にはバレーボール、中学、高校ではソフトボールをやっていました。もともとは大学でも選手を続けようと思っていたのですが、高校時代にマネジャーをやっていた友人から話を聞き、新しいことをしたい、違う立場の経験を積んで、別の視点で物事を考えるきっかけを作りたいと考えるようになりました。
――ソフトボールの経験はいまどう生きていますか。
◆周囲の支えや応援の大きさを実感しました。もちろん、レギュラーがとれずに悔しい思いをしたり、練習がきつかったり、大変なこともたくさんありました。それでも、応援してくれる家族や試合を見に来てくれるクラスメートがいたからこそ、最後までやり続けることが恩返しだと思って頑張ることができました。
――プレーヤーから支える立場に転向し、葛藤のようなものはなかったのですか。
◆まだ自分でもやりたいなと思った時もありましたし、プレーヤーと別の視点でやってみたいと思っていたものの、いざマネジャーになると相手のことを考えて、とか、先回りして動くとか、そういうことを想像よりもやらなければいけなくて大変でした。ただ、もともと人を喜ばせることは小さい頃から好きで、例えば、学校の先生の誕生日にクラス全員を巻き込んでサプライズのお祝いをしたりしていました。「ありがとう」と言われたらそれだけで頑張れる性格。人のためには動くのは全然、苦ではありませんし、みんなが喜んでくれることが嬉しいです。
――大学野球という世界はいかがでしたか。
◆選手の頑張っている姿を身近で見ることができたことがすごく良かったです。中高と女子校で、すぐに悩みを相談できるような環境がありましたが、大学では同級生の女性マネジャーがいなかったので、初めは少し相談しにくくて。どうやって仲良くなればいいんだろうと悩みもありました。そんな時に力になってくれたのはやはり、高校の友人でした。試合を見にきてくれたり、本当に辛かったときには野球部の練習場の最寄り駅まで来て、「ご飯食べに行こう」と誘ってくれて親身になって話を聞いてくれました。それに、時間が経つにつれて野球部の同期ともとても仲が良くなり、最後のお別れ会には私のおかげで「みんなが仲良くなれた」とチームメートからお礼を言ってもらいました。それがすごくうれしかったですし、チームの一員として頑張れたことが自分の成長にもつながったと思います。
=スタンドで応援団への連絡を担当するパナソニックの古本萌夏マネジャー
日本選手権では裏方で奮闘、先輩マネジャーに「取材」も
――そんな中で、パナソニックを就職先として決めました。その理由は。
◆パナソニックがずっと大学のマネージャーを探しているというのは聞いていて、大学の監督から「もしやりたいなら、話を聞かせてもらったらどうか」と声を掛けてもらいました。当時は理工学部で勉強しプログラミング教室に通ったりして、将来はエンジニアを目指してIT系やコンサルティング会社を念頭に就職活動もしていました。ただ、その話を聞いた時にめったにないチャンスですし、社会人野球は後からやろうと思ってもできない。女性マネジャーを採用するチームもないので、自分が新しい道を切り開いてみたいと思うようになりました。
――チームに見学に行ってみて感じたことはありましたか。
◆選手、スタッフ皆さんが温かくて、ジロジロ見たりするわけではなく、「どこの大学?入社するの?」と積極的に声を掛けてくださったのがうれしかったです。大学よりもずっと高いレベルの練習をしていて、やはりここでやりたいと心を決めました。
――中に入って感じる、パナソニックの良いところはどこですか。
◆とにかく皆さん、明るくて優しい。1人で動いていると、すぐに声を掛けてくれます。試合中に盛り上がっている輪に入れなかった時も、外から見守っていたら向こうからハイタッチをしにきてくれたり、みんながみんなのことを思ってくれる雰囲気があります。だからこそ、今年、都市対抗も日本選手権にも出場できなかったことが悔しいです。みなさん、たくさん助けてくれたのに何も恩返しできなかった。来年こそは、という思いは強いです。
――実際に入社してみて会社としての魅力は。
◆今は人事の部署に所属していますが、大学で学んだことを生かせそうです。そうしたチャンスをいただけたことが大変うれしく思っています。
――東京都出身。新天地で働くことに不安はありませんでしたか。
◆一人暮らしは初めて。両親はとても心配していました。社宅を見に来たときに、父は「ここに住むのか……」と言ってさみしがって泣いていました。自分でも「やっていけるかな」と少し不安もありましたが、実際に働き始めたらパナソニック周りの方たちに助けられて乗り越えることができました。意外にあっという間の1年で、寂しがってる暇もなかったぐらいでした。
――将来、どんなマネジャーになりたいですか。
◆視野が広く、先回りできるようなマネジャーになりたいです。その上で、自分はプログラミングなどの技術も学んできたので、データを分析して選手に伝えたり、作業の効率化を進めたり。そのような付加価値をチームにもたらすことができる唯一無二の存在になりたいです。
――日本選手権で他チームのマネジャーと交流の機会があります。勉強になったことはありますか。
◆他チームのマネジャーさんに「どんなマネジャーになりたいですか、そのためにどんなことをしていますか」などと、いろいろ「取材」しました。共通しているのはどの方も、ずっとチームのことが頭にあるということ。休みの日も携帯電話を常に持ち歩いて、何かあったときにすぐに着替えられるようにスーツを持ち歩いていたり、そういう小さなことも考えながら日々過ごしていると聞きました。その中で、「選手のことを考えるなら、選手の動きを見た方がいい」とアドバイスもいただきました。とてもすごく刺激になる日々でしたし、私も頑張らなければいけないなと改めて感じています。