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出川哲朗氏に賠償責任はある? コインチェックのCM出演で 弁護士が解説「STORIA法律事務所」ブログ(1/2 ページ)

» 2018年01月30日 17時00分 公開
[杉浦健二ITmedia]

この記事は「STORIA法律事務所」のブログに掲載された「出川哲朗氏はコインチェック被害者に対して賠償責任を負うのか」(2018年1月30日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

 不正アクセスにより約580億円分の仮想通貨NEM(ネム)が外部に送信される事故を起こした仮想通貨取引所のコインチェックに対して、1月29日、金融庁は業務改善命令を発出しました。コインチェックについては以下の論点が山盛りです。

  • 不正送金されたNEMの補償はするとのアナウンスだが、実際に補償がされる時期は不明
  • さらに補償価格は暴落時の価格(88.549円)を基準としており十分とはいえない
  • 以上からコインチェック社に対する損害賠償請求の是非
  • さらにコインチェック社の役員ら個人に対する損害賠償請求の是非(会社法429条に基づく第三者責任)

 今回あえて注目するのは、「コインチェックのCMに出演した出川哲朗氏が、コインチェック被害者に対して賠償責任を負う可能性はあるのか」という点。

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 「出川哲郎氏は無関係」「完全にもらい事故」「むしろ被害者」という擁護の声も少なくないですが、出川氏が何らかの法的責任を負う可能性はあるのでしょうか。広告出演した芸能人が法的責任を負うケースを、過去の裁判例をもとに検討します。

詐欺的商法を行っていた金融商品販売会社のテレビCMに出演した元大関の責任は否定された

 金融商品の詐欺的商法(抵当証券の多重売り)を行っていた販売会社の新聞折込広告やテレビCM等に出演していた元大関に対して、被害者らが、元大関の出演した宣伝広告は、これを見た者に対して親近感と信頼感を与え、購入への心理的抵抗を弱らせたものであり、元大関は抵当証券販売会社による詐欺行為を故意又は過失によりほう助した等として不法行為責任を追及した裁判例があります。

 この事案について,東京地裁平成6年7月25日判決(判例時報1509号31頁)は以下のように判示して元大関の責任を否定しました。

 まず以下の通り、テレビCMの内容が販売会社や取扱商品への信頼を高める結果になったこと自体は否定できないとしました。

本件テレビコマーシャルフィルムの内容は必ずしも明らかでないが,(証拠省略)によれば、元大関が胸をたたいて、大丈夫という趣旨のせりふを述べるものであって、元大関はけがで苦労しながらも大関まで昇進した力士として人気があったことは前記認定の通りであり、このような元大関の知名度及び経歴を併せ勘案すると、本件テレビコマーシャルフィルムの内容は、販売会社及びその取り扱う商品に対する信頼を高める結果になったことは否定できない。

 そのうえで、テレビCMに出演する者は一定の場合には出演を回避すべき義務を負うとしました。

テレビ広告は、その視聴者が多数、広範、不特定であり、広告された商品等に対する購買動機の形成に多大な影響を与え得るのであり、このようなテレビ広告の特性に鑑みれば、本件のようにテレビ放映することを前提とした広告に出演する者は、当該広告の視聴者が当該出演者の知名度、経歴等を信用しその推奨する業者、商品であるということを1つの動機として取引した場合に損害を被る危険があることを予見し得る場合には、当該広告に出演することを回避すべき義務を負うというべきである。

そして、右予見義務及びこれを前提とする出演回避義務の程度・範囲については、個別具体的に、広告主の事業の種類、広告対象となる商品等の種類、広告の内容、出演者の知名度、経歴、広告作成過程において出演者の果たし得る主体性の程度、出演者が広告によって得る利益の多寡などを総合して決すべきものと解するのが相当である。

 そして本事案においては、

本件テレビコマーシャルフィルムは元大関がその信念、経験に照らして個人として具体的に販売会社ないしその取り扱う抵当証券を推奨する内容のものではないこと

けがで苦労しながら大関まで昇進した力士として人気があったという元大関の経歴及び知名度、元大関は本件テレビコマーシャルフィルムへの出演条件等の交渉について専ら音楽出版社やプロダクションの担当者に委ね何ら主体的役割を果たさず、本件テレビコマーシャルフィルムでの演技内容についてもプロダクションの立案した内容をいわれるままに演じていたにすぎないこと

 などを認定したうえで、

出演者たる元大関が広告の対象となった…抵当証券の販売につき違法な点がないかということまで自ら調査して、本件テレビコマーシャル視聴した顧客が販売会社と取引することにより損害を被る危険があることを予見すべきであったとはいい難い。

 として元大関の責任を否定しました。

円天(L&G)の広告に関与した芸能人についても判決は責任を否定した

 次に疑似通貨「円天」を巡る事件においても、広告塔となっていた芸能人に対する訴訟が提起されていますが、その責任は否定されています。

 「円天」を発行するL&G社に出資した原告らが、L&Gの商法は大規模な組織的詐欺であり不法行為を構成するところ、L&Gの全国大会などでコンサートを行ったりDVDに出演するなどしていた著名な演歌歌手Yに対して不法行為に基づき損害賠償の支払を求めた訴訟(円天事件)です。

 この訴えについて東京地裁平成22年11月25日判決(判例タイムズ1357号178頁)は、

L&Gの商法は、何ら収益性のある事業を行っていないにもかかわらず、健康商品の販売等が多大な収益を上げているかのように装うもので、あたかも安心確実な投資対象であるかのように顧客を誤信させるものであって、上記L&Gの行為が、出資者らとの関係で不法行為を構成することは明らかである。

 とL&G社の行為が不法行為にあたることを認定したうえで、

L&Gに対する出資と広告に対する信頼が全く無関係とまではいえないのも事実であり、出資者らの広告に対する信頼を保護する必要性からすれば、L&Gを事実上広告することになるコンサート等に出演する被告としては、L&Gの商法に疑念を抱くべき特別の事情があり、出資者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し、又は予見し得た場合には、L&Gの事業実態や経済活動等について調査・確認をすべき義務があるというべきであり、かかる調査・確認を怠った場合には過失があるというべきである。

 との判断基準を示し、本件では演歌歌手Yがコンサートに出演した時点で、L&Gが詐欺商法のような違法行為を行う悪質な業者であることを認識することができず、商法に疑念を抱くべき特別の事情があったとまではいえない等として、演歌歌手Yの故意または過失を否定しました。

企業広告に推薦文を掲載した俳優の損害賠償責任を認めた例もある

 これに対し、詐欺商法の企業広告に推薦文を掲載した俳優に対する損害賠償請求が認容された裁判例もあります。大阪地裁昭和62年3月30日判決(判例タイムズ638号85頁)は、いわゆる原野商法のパンフレットに推薦文を載せた俳優Yの責任について、

パンフレットについては、俳優Yがその中で、被告会社役員と個人的なつながりがある旨記載し、…俳優Y個人の立場で被告会社を推薦しているのであり、…俳優Y個人が自己のメッセージとして被告会社を紹介・推薦するものであることが明らかである。

 そして、被告会社の不法行為が詐欺を内容とするものであることに鑑みれば、被告会社及びその扱う商品を紹介・推薦し、これに対する信頼を高めることは、とりもなおさず被告会社の不法行為を容易ならしめることに外ならないから、俳優Yの右行為が客観的に被告会社の不法行為に対するほう助になることは明らかである。

 としたうえで、俳優Y個人の立場から、被告会社あるいはその取り扱う商品の推薦を行う場合には、その推薦内容を裏付けるに足りる調査を行うべき義務があるにもかかわらず、被告会社の事業内容を調査することをまったくしなかったとして、被告Yの注意義務違反(過失)を認めました。

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