船の甲板を模した木目調タイルが覆う真新しいホームを、多くの人が行き交う。9月の平日、北陸新幹線敦賀駅(福井県敦賀市)は、キャリーケースを引く外国人観光客やサラリーマンの姿が目立ち、在来線への乗り換え口は特に混雑していた。地域に生まれたかつてない光景に、県の担当者は手応えを口にする。「日本地図が変わった。物価高騰の中でもしっかりと効果が出ている」
2024年3月の金沢-敦賀延伸により、東京駅から福井駅までの最短所要時間は2時間51分と開業前と比べて36分短くなり、県によると、開業から8カ月間の県内来訪者は前年同期比で20%増えた。関東圏からは40%増、信越(長野、新潟)からは80%増と大幅に伸びた。
にぎわいを呼び込む新幹線の最大の強みは「速達性」だ。運行主体のJR西日本は敦賀-新大阪間でも速達性を担保しようと、新京都駅の位置にこだわる。新京都駅の位置は現京都駅大深度地下の「東西案」、京都駅南側地下の「南北案」、桂川駅北西地下の「桂川案」の3案に絞り込まれているが、4日の与党整備委員会で長谷川一明社長は「京都駅を経由し、新大阪まで乗り換えなく全線がつながることが重要」と要望。現京都駅付近の新駅設置を求めた。
京都府内では京都駅に加え、松井山手駅(京田辺市)北西地下にも新駅ができる予定で、市担当者は「環境面など懸念もあるが、新駅ができる効果は大きい」とまちの発展に期待を寄せる。
北陸新幹線の延伸効果は速達性だけではない。大雨や地震など災害が頻発する中、国や与党整備委は交通ネットワークを増やすことで災害時に補い合う機能を「リダンダンシー」と呼び、必要性の根拠としている。
2024年8月30日、敦賀駅はいつも以上に混み合っていた。台風に伴う大雨の影響で東海道新幹線の東京-名古屋間が終日運休となり、東京方面に向かう北陸新幹線の利用者と、大阪や名古屋方面への在来線の利用者が殺到。JR西は北陸新幹線と、大阪方面と敦賀駅を結ぶ特急をそれぞれ2便増やして対応した。
関西経済連合会などの試算によると、東海道新幹線(東京-名古屋間)などが使えなくなった場合、鉄道による移動が困難な人は1日当たり約20万人、1日当たりの経済損失額は約50億円に上るが、北陸新幹線が全線開業すれば移動困難者は約10万人、経済損失額は約26億円まで抑えることができるという。
国土交通省は北陸新幹線を災害時の代替ルートに位置づける。東海道新幹線が大きなダメージを受ける恐れがある南海トラフ地震の30年以内の発生率は70~80%。国交省は早期延伸が必要と強調するが、2024年8月には小浜ルートの工期が8年前に試算した「15年」から「最長28年」に伸びる見通しを発表した。