「白ポスト」をご存じだろうか。成人向けの雑誌やコミックを回収するため、駅前などに設置された箱で、その歴史は60年余りに及ぶ。京都にほとんどないが、滋賀ではまだ60基近く残る。デジタル化が進む中で今後の行方はどうなる?
白ポストは1963年、兵庫県尼崎市で誕生した。「青少年に読ませたくない雑誌」を回収する目的で、ドラム缶を白く塗って街角に置いたのが始まりとされる(同市ホームページ)。
貸本マンガや不良雑誌などを対象にした50年代からの「悪書追放運動」にも呼応し、白ポストは各地に広がった。「やぎの箱」「有害図書回収箱」とも呼ばれ、色や形はさまざま。80年代にアダルトビデオ、90年代にはDVDが登場し、回収されるようになった。
青少年の育成に関わる団体などでつくる滋賀県青少年育成県民会議の50年誌には、66年10月に「県下の主要駅頭に白ポスト(10基)設置」との記述がある。同会議によると、現在は9市に58基あり、地域の青少年育成団体が管理している。
自治体別で最多は甲賀市の20基で、駅や国道1号沿いのバス停にたたずむ。同市青少年育成市民会議の前田武広会長は「かつては通学路などに成人雑誌がよく捨てられていた。子どもの目に触れて問題になったのが設置の始まりでは」と指摘。2004年の旧5町合併で市域が広がり、白ポストはさらに増えていった。
回収は年3~4回で、作業は仕分けや処分まで。回収量は県全体と同様に減少傾向だが、担当する青少年育成推進員の中西洋子さんは「一度に数十枚のDVDや大きな写真集が入っていてびっくりする時も。近年は描かれる内容が低年齢化している印象です」と案じる。
トラブルも少なくない。食べ物のかすなどごみ箱代わりにされたり、誤って郵便物や年賀状が入っていたり。いたずらで投入口や扉が壊され、内部を撮影しようとしたのか「携帯電話が落ちた」と連絡を受けたこともある。ポストを固定し、鍵を付けるなど対策に取り組んできた。
前田会長は「成人図書のぽい捨て防止だけでなく、家庭に持ち帰らせないためにも効果はあると思う。非行の引き金になる恐れもあり、中身がゼロになるまで根気よく続けたい」と語る。
湖国で白ポストが多く残る背景について、県民会議の田邉政治事務局長は「有害図書やビデオの自販機の撤去運動に熱心だったことが関係あるのでは」と推察する。ポルノ自販機はピークの1980年には県内で247台あったが、県を含む関係団体の活動によって2011年に姿を消した。
一方で、インターネットの普及や管理の負担などで、白ポストは全国的には一部地域を除いて珍しい存在になっているという。京都府に尋ねると「ないのでは」との回答だったが、西舞鶴駅に「有害図書追放箱」が1基あることが確認できた。
田邉事務局長が「残念」と言うように、滋賀でも白ポストの数は近年減っており、彦根市内では今年2~3月に全14基が撤去された。維持管理を委託していた同市によると、回収量は一定あったが、新型コロナウイルス禍での業務の見直しで議論を重ね、役目を終えたと判断したという。担当者は「ネットが当たり前になり、青少年の健全育成を巡る状況も変わっている。関係機関とも連携し、ネットの使い方の啓発などにより力を入れたい」とする。
湖南市内にも1基あったが、中身がゼロの状況が続き、老朽化もしていたことから今年6月に廃止した。
白ポストの今後について、富山大の神山智美教授(行政法)は「ネットの影響で存在感が薄れ、管理者の負担やコストの問題もある。ただ、見つけたものを入れたり、家に持ち帰らずに済んだりと、一般市民が主体的に行動できる仕組みとして残していくことも大事ではないか」と話す。