能登半島地震と能登豪雨では、石川県輪島市の伝統産業「輪島塗」の工房も多く二重被災した。1世紀近く城崎温泉(豊岡市城崎町)の旅館などに漆器を卸している「いち松」もその一つだ。代表で塗師の一松春男さん(79)と長男聡司さん(48)は兵庫からの支援に感謝しつつ、「待っているお客さんがいる」と来春の本格再開を目指す。(丸山桃奈)
いち松は、春男さんの義父が創業し、漆器の企画から生産、販売を一貫して手がける。かつて義父が鍋や茶わんを背負い、汽車で全国の旅館や料亭を回って顧客を開拓。城崎温泉も得意先の一つで、10軒以上の旅館と取引してきた。
漆器は宿泊客の食器として使われ、修繕の依頼が定期的に舞い込む。城崎では旅館のほか、伝統工芸「麦わら細工」にも輪島塗が施された商品がある。春男さんは「塗り直したり模様を変えたりして、新型コロナウイルス禍でも絶えず仕事をもらっていた。城崎のおかげでここまでやってこられた」と語る。