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新潟から世界を捉え、21世紀の美術を考える
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運営 / 越後妻有の舞台裏から

「雪見御膳」を未来につなぐために

19 February 2021

50年前の越後妻有の冬を想像してみる

町と町を繋ぐトンネルはなく歩いて雪山を超えていた。道路の雪を融かす消雪パイプもなく、車が容易に動ける時代ではなかっただろう。冬になると農作業ができない働き手の男衆は出稼ぎをしに都会へ、家は女衆(おんなしょ)や年寄りが守っていた。行き場のない雪は家をすっぽり包み込む。自宅の玄関から、降り積もった雪を、足で踏み固め隣の家まで道付けをする日々。雪道はどんどん高くなり、気づけば玄関を見下ろしている。移動できる距離は限られていて、山間部に住んでいる人たちは、閉ざされた世界で冬を過ごしていた。高度成長期の最中、こはまだ陸の孤島だった。

そんな厳しい冬を越すために、この土地の女衆は知恵を絞り、独自の食文化を育んできた。また各家で行われていた冠婚葬祭では、集落ごとに少しずつ異なる御膳を振舞っていたという。その、越後妻有の歴史や文化が凝縮した御膳は時代とともに失われつつあった。それを復活させたのが「雪見御膳」である。

越後妻有の冬の代名詞「雪見御膳」

雪見御膳は、2014年の冬にスタートし今年で8回目を迎える。冬のツアーに参加したお客さまに、豪雪地ならではの郷土料理を漆塗りの器に盛り付け、集落のお母さんたちがもつ柔らかい雰囲気の中、食プログラムと雪国体験にておもてなしをする。1週間かけて仕込み、当日は食べきれないほどの料理が用意される。美味しい日本酒とお母さん達とのおしゃべりで食事がすすみ、帰るころには動けなくなるほどお腹がいっぱいになる。

受け継がれてきた漆器が物語ること

食材は、春に採れた山菜や収穫した野菜を干したり塩漬けにした保存食品を使う。各集落のお母さんたちにメニューの考案や調理をしてもらい、この地の知恵や文化がつまった滋味あふれる「ハレ」の日の食事を提供する。また、昔は漆器を各家庭や「マキ」と呼ばれる本家・分家の関係をもつ家同士で用意していた。漆器はとても取り扱いが繊細なので、気温の変化が少なく湿度が適度にある蔵に大切に保管されていた。そして、漆器の準備の工程はたくさんあり、親戚や近所の人たち、子どもから年寄りまでそれぞれの得意分野を生かしながら準備をしてきた。雪見御膳では、都会からきたサポーターのこへび隊が親戚や近所の人に変わり、お母さんたちの昔話を聞きながら和気あいあいと漆器の準備をする。

時代とともにある郷土料理の姿

今年の雪見御膳の開催に向けて、まずは今まで参加してくれていた集落にヒアリングを行った。結果は、13集落中5集落の参加。新型コロナウィルスは高齢者が多く、医療設備も乏しいこの地域では、感染者がでるとあっという間に医療崩壊が起きてしまう。不参加の集落からは「集落行事はほぼ中止、都会に住んでいる身内ですら帰省を遠慮してもらっている、とてもじゃないけど、この状況化で、都会からきた人たちを迎え入れるのは難しい。コロナがなければ喜んでやりたかった。」と返答があった。そして、緊急事態宣言が3月7日まで延長の決定を受け、今年の雪見御膳のすべての中止か決まった。

今の時代では、いつでも車でスーパーに行けるので保存食品はいらないし、結婚式もお葬式も自宅でしないから漆器は必要ない。雪見御膳に関わっているお母さんの一人がこう言っていた。「昔の郷土料理を作れる人はもう70歳以上の人しかいない、蔵でずっと場所を取っていた漆器は、中越大震災をきっかけに壊れたものと一緒に捨てられた。手間がかかる料理や漆器はいつの間にか、この地域からなくなりつつある。でも、郷土料理は時代ごとに変化していくもの。新しい、今の郷土料理があっていい。」と

今年は残念ながらお母さんたちの料理は食べられないけど、里山食堂で2/20(土)~3/14(日)まで「雪見御膳定食」が提供される。これからの越後妻有を担う私たちの世代が作った郷土料理を、ぜひこの機会に食べてもらいたい。

越後まつだい里山食堂

まつだい「農舞台」内にある、作品兼レストラン

顔を知る生産者の育てた新鮮な野菜、越後妻有の生きた自然が育む山菜をたっぷり使って、郷土の味や家庭料理にアレンジを加えた惣菜が並ぶビュッフェです。
越後妻有の滋味豊かな味をお好みでお召し上がりください。

営業時間:10:00~17:00(ランチタイム11:00~14:00)火水休み

 

NPO法人 越後妻有里山協働機構 三輪真弓

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