その研究の第一人者であり、国内外から注目を浴びるロボット工学者石黒浩先生。先日もヒト型ケータイ端末「ジェミノイド携帯」の開発を発表し、全世界に衝撃を与えました。
大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授であり、ATR知能ロボティクス研究所客員室長。世界的メディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」ではアーティストとしてジェミノイドを出展されたこともあります。2007年7月、CNNの「世界を変える8人の天才」に選出され、同年10月には英国コンサルティング会社SYNECTICSの「生きている天才100人」調査で日本人最高位の26位に選出されたこともある、世界が注目する天才クリエーターです。ブルースウィリス主演の映画『サロゲート』の冒頭では、ご自身のジェミノイドと共に石黒先生の映像が流れます。
ジェミノイドFや...テレノイドの開発者ということで御存知の方も多いかと思います。パンチの効いたロボットを次々に発表する石黒先生。
でも、石黒先生のつくる、人間に似ていて、でも人間とは何かが異なる独特な容姿のアンドロイドは、よく「不気味だ」と言われます。また、「エロ目的の開発か?」などと誤解されてしまうこともあります。では何故、それでも石黒先生はこのようなヒト型ロボットをつくり、そして世界から高い評価を受けているのでしょうか? 実はこの研究には物凄く深いテーマがあるからなのです。
TEDxSeeds2009会議における石黒先生のプレゼンテーションです。と、いうことでザックリ言えば「人間をつくるために人間を知る」「人間を知るために人間をつくる」ということがこれらの研究の大きなテーマなんですね。「人間とは何か?」という大きな問題を、人間とそっくりなロボットをつくることによって研究しておられます。僕にはまるで悟りを得るために仏像を彫っているかのようにも見えます。
そして石黒先生は一番最初の動画にあるように、人間に代わる俳優や介護者としてアンドロイドが身近な存在となる未来をつくろうとされています。人間に人間の感情や存在感といった、非言語情報を伝達するには、ヒト型である方が自然だからだそうです。次世代メディアとしてのアンドロイドの活用です。「心」を表現出来るメディアというわけですね。
僕は、仮に映画『アンドリュー NDR114』の主人公アンドリュー並に、見かけ上は人間と何ら変らないふるまいをするロボが開発されたら、素直にそのロボットにも心を感じてしまうと思います。そんなことはSFで、現実にそんなロボが登場することはありえないだろうと思われるかも知れませんが、案外現実になるかもしれないのでは、と僕は最近感じています。と、言うのは、先日『フェスティバル/トーキョー』という演劇フェスで上演された、アンドロイド演劇『さようなら』を観て物凄く可能性を感じたからです。
『さようなら』は石黒先生と劇作家・演出家の平田オリザさんが組んでつくられた短編演劇です。主演はジェミノイドF。写真左側がジェミのイドで、右側は人間の俳優さんですよ。
全体を通してみれば、やはりジェミノイドFは本物の人間と比べてまだまだ違和感がありました。でも、本当にジェミノイドFの「顔芸」は秀逸です。表情による感情の表現が実に上手い。石黒先生の著書『ロボットとは何か』によると、以前、平田オリザさんは「役者に心は必要ない」とおっしゃていたとのことですが、『さようなら』を観てなるほどなと感じました。ジェミノイドFが、共演している人間の俳優さんよりも心を感じさせる表情をしてしまう一瞬が度々あるからです。ほんとドキッとさせられます。かなり衝撃的だったもので、一度観たあとにソッコーでもう一枚チケット買って2回連続で観ましたよ。
ジェミノイド携帯が流行るかはわかりませんが(僕は欲しい!)、わりと近い将来に映画『サロゲート』のようなコンセプトのテレプレゼンス端末が実用化される可能性は大いにあるのではないでしょうか。
ってなわけで、石黒先生やアンドロイド研究には今後とも要注目なのです。最後に石黒先生のプレゼン動画の続きを貼っておきますね。興味を持たれた方は是非御覧くださいませ。非常~に面白いですよ。
ジェミノイド[IRC 知能ロボティクス研究所]
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(鉄太郎)