みごとな水遁の術。
中央アメリカのコスタリカにしかいないアノールトカゲ属の一種(Anolis aquaticus)は、まるで忍術のようなスゴ技を隠し持っていることがわかりました。
ふだんは渓流や滝のそばで暮らしているれっきとした陸生動物なのですが、敵に襲われそうになると水中に逃げこんで川底に身をひそめ、最長16分間も潜水し続けるそうです。
銀色がキレイな世界初の映像
ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の生態学者、リンゼイ・スワークさんが水中カメラでその驚くべき姿を激写。これが世界で初めて映像に収められたアノールトカゲの水中呼吸です。
川底でじっとしているアノールトカゲは平然と呼吸し続けていますね。まるで皮膚の上にもう一枚うすい銀色の膜があって、その中に空気を溜めているようにも見えます。天然の酸素ボンベみたいなもの?と思いきや、じつは空気を溜めるための特別な器官は持っていないよう。
よく見ると、息を吐くと同時に鼻の穴から出た空気が銀色の泡となってふくらみ、次の瞬間にはシュッとしぼんでいます。どうやら吐いた息をもう一度吸って空気をリサイクルしているようなのですが、その実態はよくわかっていません。
知りたいのは「空気がくっつく」仕組み
このスゴ技を発見したスワークさん自身もまだわからないそうですが、「おそらくアノールトカゲの頭部と喉の部分に気泡が溜まるしくみになっていて、息を吐いて吸うあいだに気泡内で新鮮な空気が交換されているのではと考えられます。もしくは、気泡を使って二酸化炭素を取り除いているのかもしれません」とのこと。
今後は、なぜ気泡がアノールトカゲの体に「くっつく」のかを解明したいそうです。秘密はもしかしたらアノールトカゲの頭の形にあるのかもしれないのだとか。同時に、気泡の酸素レベルが潜水時間の経過とともにどのように変化していくのかも調べたいそうです。
16分どころじゃないかも?
スワークさんがアノールトカゲを研究し始めたのは2015年。危険を感じたアノールトカゲが水に飛びこんだっきりなかなか出てこないので、潜水している時間を計ってみたそうです。そのとき計った最長タイムが16分でした。
「16分も潜っていたことはよく覚えています。その日計測する最後のアノールトカゲだったのですが、研究チームのメンバー3人が捕まえようと近づいたとたん、近くの浅い川底に潜っていきました」とスワークさんは米Gizmodoに語っています。
「結局16分待ったところでトカゲにまたちょっかいを出してしまったので、どのぐらい長い間潜っていられるかは分からずじまいでした」とも。ということは、16分以上潜水し続けられる可能性もあるんですね。
小さいころトカゲを捕まえようとしたら、しっぽがちぎれた!というビックリ経験はよくありましたし、2017年にはまるで忍術のように逃げるときに自分のうろこを脱ぎ捨てる驚きの新種のヤモリが発見されています。動物たちが進化の過程で身につけたスゴ技の数々に、ただ圧倒されるばかりです。