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北欧で感じる相対的に高まる日本の価値。外交・ビジネスのハブになるために必要なこと

握手をするトランプ大統領と習近平国家主席

米中混乱の中、日本のポジションの取り方に欧州では関心が高まっている。

REUTERS/Damir Sagolj

米中が関税による報復合戦を展開し、欧州では先の見えないブレグジットを巡る混迷が続いている。令和の日本の外に目を向けると、なかなか国際情勢は不安定である。

私は今、フィンランドの首都ヘルシンキに在住しているが、欧州の企業、シンクタンク、投資家との会話で昨今、感じるのは日本の「相対的」な注目度の向上である。

ロンドンやブリュッセルでのビジネス、テクノロジー、サイバーセキュリティのカンファレンスでは、ニッチなものになるほど、日本人の参加者は見当たらず、他の参加者から話しかけられても、まずは「ニーハオ」や「中国人ですか?」と聞かれるのが常である。

ただし、「北欧に住む日本人です」と答えると相手は急に関心を持ち、「日本は米中関係の今後をどう思うか?」や「欧州でのファーウエイへの対応をどう思うか?」といった質問へとつながっていく。

私の経験では米国企業、特にシリコンバレーのテクノロジー関連企業は日本への関心は薄く、欧州企業も少し遠い日本には関心を抱くことはなかった。

だが最近では、市場とイノベーションの源泉としての米中が政治的に不安定ななか、欧州の人からは「米中が混乱している中、日本はどういうポジショニングを取るのか?」と相対的に日本の対応への関心が高まっていることを感じる。

安定とミステリアスが混在する大国、日本

京都の竹林を歩く女性の後ろ姿

人口が数百万人の国からすれば日本は『経済的に安定した程よくミステリアスな国」。

Shutterstock

幸か不幸か日本は市場と安全保障において、中国、アメリカと関係が深く、それを前提として両大国の間で国益を保全するためのポジションを取っていく必要がある。日本のポジション取りは欧州の中小の先進諸国には関心が持たれるところである。それらの国も米中を意識せざるを得ないからである。

欧州では米国のNATO(北大西洋条約機構)離れが懸念されるなか、ロシアの影響力も気になり、中国の資金とテクノロジーを利用しながらもバランスを取っていく必要がある。

例えば私の住む北欧諸国からすれば、日本の文化的イメージは極めて良く、日本は自然を大事にする一方でハイテクなイメージがあり、リベラルな民主主義、人権の尊重、法の支配といった価値観を共有できる国として見られている。

そのイメージが日本の実像かは別として、ビジネスにおける法的予見性は高く、一緒にやっていけるまともな国だと考えられている。それが影響力を増す中国や保護主義に傾くアメリカという大国とバランスを取るためのオプションだとしても、日本としては政府、企業共にレバレッジできる材料であり、活用すべきである。

実際には欧州や北欧の人々は日本のことを良く知らない。

日本人が「ムーミンはノルウェーだっけ?フィンランドだっけ?」というのと同じである。人口が数百万人の国からすれば日本は桁外れに大きい国であり、経済的に安定した程よくミステリアスな国に見える。

国連でスピーチをした16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の出身地であるスウェーデンは北欧最大の国だが、人口は約1000万人、日本の10分の1以下である。私が取締役を務めるベンチャーキャピタルは北欧、バルト、日本の混成チームで「ノルディック・ニンジャ」と名乗っているが、そのミステリアスなネーミング効果もあって現地で存在が広まるのは早かった。

現地視察で終わらせない事業創造

スウェーデンのストックホルムの街並み。

スウェーデンのストックホルムの街並み。その政治的スタンスから、北朝鮮側の西側への窓口の役割を果たす。

Shutterstock

ビジネスで言えば、昨今のイノベーションへの関心からフィンランド、エストニアには日本の財界からCEOやCTO(技術トップ)を含む幹部の訪問が相次いでいる。イノベーションと次の事業の一手を探すために、ひと頃ブームであったシリコンバレー、そしてイスラエルの次の訪問場所として、フィンランドやエストニアが候補となっているのだ。

米国シリコンバレーで評判の良くなかった日本企業の表敬訪問を批判することは容易いが、私の感覚では欧州、特に北欧や中東欧の企業の方が、自分達を地球の中心だと考えているシリコンバレー企業よりずっと歓迎してくれる。

それ故に、日本企業の幹部には「どうしてここではイノベーションが起きるのか?」という質問をするだけでなく、現地企業に対し一通りの下調べをした上で、企業幹部から自社の能力と市場へのアクセスを具体的に提案することが事業創造につながると考える。

もちろん、10数年前には起業家も少なかったフィンランドや、多くの女性大臣、女性の企業マネジメント層を擁するスウェーデンの大企業に日本企業の男性スーツ軍団が質問すべきことはたくさんある。

資産を活かし、グローバルにポジションを取る

工事中の新国立競技場前の前の五輪のシンボル

東京オリンピックを控え、日本への注目が高まる今がチャンスでもある。

Shutterstock

米中両大国の摩擦に世界が揺れる今、アフリカや中東に地理的、心理的に近い欧州から日本のグローバルなポジショニングを考えることは意義があるだろう。

例えばスウェーデンは地理的に北朝鮮と遠いが故に中立的に振る舞い、北朝鮮の西側諸国への窓口となっている。また、ノーベル賞の授与を決めているのもスウェーデンの機関であることはよく知られている(平和賞はノルウェー)。小国ながらネットワーク上のハブとなり国際的に存在感をつくる戦略が存在する。

日本はビジネスでも外交でも国家間のハブになれるだろうか。「まあ、日本は大きいですからねぇ」と切り捨てずに中小国のポジショニング戦略から学べることは大きい。

日本ブランドが使える地域もあるものだ。

例えばリトアニアで多くのユダヤ人を救った「命のビザ」で有名な杉原千畝のような資産もある。東京オリンピックを控え、ますます日本への注目は高まるだろう。今はある種のチャンスであり、特に「グローバルに活躍したい」と願う若きビジネスパーソンには、各国に自ら出かけていって尊敬され好かれる存在になることを心から願っている。

(本稿は筆者の個人的見解であり、所属する組織・団体の公式見解ではないことをご了承ください)

塩野誠:経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター、JBIC IG Partners代表取締役 CIO(投資責任者)。国内外の企業や政府機関に対し戦略立案・実行やM&Aの助言を行う。主な著書に『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』、小説『東京ディール協奏曲』等。政府「デジタル市場競争会議」ワーキンググループに参画。フィンランド在住。

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