優先順位の低い作業をできるだけ外注化し、自分たちの強みにだけ特化した働き方に振り切ったら、何が起きるだろうか?
ソーシャルメディア事業の運営やシェアリングエコノミー協会の代表理事を務める株式会社ガイアックス。その中でも、企業のSNSマーケティングを支援するソーシャルメディアマーケティング事業部、事業部長の管大輔さんの外注をフル活用した仕事術が注目を集めている。
ガイアックスのソーシャルマーケティング事業部長、管大輔さん。管さんの部署では、社員一人で月5万円以上の外注費を使うことをルール化した。
ガイアックス提供
もともとガイアックスには「社員一人あたり月5万円まで外注費用を使っていい」というルールがあるのだが、ソーシャルメディアマーケティング事業部ではさらに踏み込んで、「社員一人で月5万円以上の外注費を使うことをルールにしている」と、管さんは話す。
現在、ソーシャルメディアマーケティング事業部には正社員を中心に33人が働いており、 外注先フリーランスは、日々、変動があるとはいえ20〜30人という配分だ。
「自分たちの強みではないことは極力外注化し、優先順位の低い作業を社員にやらせないことを徹底しています。お客さんがSNSで成功するための戦略を考えること、そちらに振り切ってほしい。結果的に、社員が自分たちの強みとは何かを考える機会にも繋がりました」
外注先を下請け扱いしない
外注戦略の秘訣は、「外注先を下請け扱いせずに、仲間として扱うこと」。
「ガイアックスでは、すべての人が満たされた状態にあるべき、というウェルビーイングの考え方を大事にし、外注先を含めた関係者がみな対等に議論できることが、結果的に生産性の向上につながると考えています。ですので、外注先がミスをしても、いきなり契約を切るという発想にはなりません」
「新しく入った社員と同じく、手間をかけてフィードバックをしたり、よりスムーズに進める方法を話し合ったりすることで、長期的に希望するレベルの仕事ができるようになってもらうことを目指しています」
管さんによると、こうした戦略が奏功した結果、社員一人当たりの売上が2年間で1.6倍に向上しているという。
チーム制でリスクを最小化
外注先としては、オンラインのアシスタントサービスやクラウドソーシングを使っている。とくにメーンで使っているオンラインのアシスタントサービスは「チーム制」で、自社専任ディレクターが品質や納期を管理してくれる。納品物のクオリティが低かったり、納期が遅れたりなどのリスクがほぼないのがポイントとのこと。
優先順位の低い作業をとことん外注することで「何が強みか」と言う思考が生まれた。
Kohei Hara/GettyImages
「最適なスキルを持ったフリーランスを探すための作業も、オンラインサービスに依頼する」(管さん)など、頼む内容は多岐にわたっている。
本来のミッションである顧客のSNS戦略を考えること「以外」の部分を徹底して、外注しているからだ。
具体的な、外注の中身を見てみよう。
①提案資料パワーポイントの「デザイン部分」
SNS戦略の骨子作成は社員の仕事。一方で、「パワーポイントのデザインを整える」などは、戦略立案とはまったく異なるデザインスキルが必要となる。より得意な人に外注すべき部分。
② クライアント企業のSNS投稿に使えそうなネタ集め
発信内容をまとめるのは社員だが、どんな発信ネタがあるかの情報収集は外注先に依頼。
③SNSアップ前の校閲
投稿内容の文章校閲や、企業ブランディングとして問題ないかなどのチェックを依頼。
④議事録の作成
社員全員がディスカッションに参加したい場合、外注先に会議に同席・議事録作成をお願いすることも。
根付くまでに3年
今となっては外注先と協業して仕事を進めるのは当たり前になっている。
しかし、その文化が根付くまでには3年ほどかかったという。
- 1年目は、外注自体に慣れてもらうこと。
- 2年目は、正しい依頼の仕方、フリーランスにもっと良い仕事をしてもらうための依頼方法を身につけること。
- 3年目は、各メンバーが自発的にフリーランスと関係性を構築できるようになること。
外注先やフリーランス側からフィードバックをもらい、お互い気持ちよく仕事をするにはどうしたらいいのかをすり合わせたり、社員同士で依頼方法のノウハウを共有したり、さまざまな試行錯誤があった。
結果としてフリーランスを仲間として迎え入れながら仕事をする文化が定着したそうだ。
「フリーランスを雑に扱う社員を評価しない」(写真はイメージです)。
Kohei Hara/GettyImages
フリーランスを雑に扱う社員は評価しない
「外注先と良い関係性を構築しよう」という組織の方針は、社員に対する評価にも反映されている。
管さんは言う。
「中途入社して間もない人で、外注先に『明日までにお願い』などの短納期を求めたり、依頼要件が不足した発注をしても悪気がなかったりするようなケースがかなりありました。本人の性格の問題ではなく、前職で学んだやり方を引きずっていることが問題です」
マネジメントの立場からは、社員とフリーランスの力関係やバランスに心を砕いている。
「フリーランスからクレームの来るような社員を、評価しないようにしています。フリーランス側は立場上、不満を言いにくいので、事業部長である私が、社員のフリーランスとの関係性構築について把握するようにしています」
ギブし合う関係を作るには
優先順位低いものは外注を義務化するのと同時に、フリーランスとの関係性の丁寧な構築と言う、徹底した外注戦略によって、社員の生産性を向上させたガイアックス。こうした働き方改革を、今後もさらに先に進めていくという。
「細かな時間管理に捉われずに働ける環境を整えています」
実際に長期の休暇を取る社員も増えてきているといい、今では部署内の平均有休消化率は100%に達している。
「ここには、『休みたいだけ休もう』と自分の得だけを考える人はいません。リファラル採用(社員紹介採用)で信用できる人のみ採用をすることで、このようなルールを維持できるようにしています。採用基準は、仲間への貢献意欲のある人です」
そんな貢献意欲の高いメンバーに、外注戦略はじめ会社からも積極的に「多様で効率的で働きやすい環境」というGIVEを続けることで、会社と社員が相互にGIVEし合う好循環につながっているという。
加藤こういち:シェアリングエコノミー研究家。シェアリングエコノミーを500回以上使ってミレニアル世代のライフスタイルにどう入れていくべきかを研究中。4年前に上京してからシェアエコで孤独を解消したことをキッカケにその魅力にはまる。シェアエコ事業者、ホスト、ゲスト視点でバランスよく、業界情報を整理して発信することで社会貢献するのがミッション。