「ルシュールクミオさまのお電話でしょうか?わたくし、○○不動産の××と申します。このたび突然のお電話、大変恐縮です。」
(とらなきゃよかった。やっぱりマンション投資だ!)
「マンション投資なら不要です。忙しいので切らせてもらいますね。」
「あ、ちょ、ちょっとまってください。営業ではありません!切らないで!」
「は?」
「実は、クミオさまが開発したシステムについて、ご相談したいことがございまして。」
(システム?私はただの事務屋でエンジニアじゃないし何か勘違いしてる?それとも新手のタイプの営業か?)
「当社のような小さな不動産会社では、服務管理システムを開発する費用はございません。ずっと紙で管理しているのが煩雑だということで、ご縁があった御社社員がもってきてくれた、PCログを表示できる勤務管理ソフトを利用していました。」
「先日、会社のPCを新たなものに交換したところ、今まで利用していたソフトが使えなくなりまして…。人づてに、ルシュールクミオさまが作られたと聞いて、失礼ながらお電話した次第です。もし人違いのようでしたらすみません。」
「あーっ!」
たしかに身に覚えがありました。ただ、システムというものではなく、単なるエクセルファイルでしたが…。
私がまだ若く、ブラック企業なんて言葉もなかった頃。当時の職場は毎日深夜までのサービス残業が当たり前とさていました。
「残業時間を任意申告にするからサービス残業ができるんだ。ひとり一台PCが配備されているんだから、勤務時間はPCのログという客観的事実で残業時間を適正評価すべき。」と、勤務表にPCのログを取り込まれるようにした、EXCELファイルを見よう見まねのマクロで作ったことがありました。
PCの起動、終了をエクセルシートに自動転記させることで、実質的にタイムカードを押しているのとと同じ効果が得られるわけですね。
結果して、服務管理を自己申告で曖昧にしたい人事部署からは睨まれることになりましたが、ログが取れるということでEXCELファイルは口コミで社内にひろがりました。
作ったのははるか昔。OSもWindows2000の時代です。
ずさんな労務管理だった私の会社には、その後、労働基準監督署のガサいれが入り、それをうけて人事システムを大改修。
非公式であったPCログはシステムで正式に取り込まれるようになり、私のEXCELファイルは役目を終えました。
さらにPCのOSがバージョンアップしてからは、ログファイルの場所と形式が変わり機能としても全く使用できないものに。
すっかり記憶のかなたに忘れてしまっていましたが、社外でまだ使われていたとは…。私が20代だったころの仕事をまだ使っている人がいる!なんだか感動してしまいました。
これまで使ってくれたことに気をよくした私は、すぐさまマクロを修正して、現行OSでも使えるようにしたことは、いうまでもありません。
技術屋の憧れる「地図に残る仕事」ってのはこんな感覚なんだろうな。
日頃はむしろ「形になってもそれでメシが食えないと意味がないよね」と、箱モノ計画を潰す方が仕事なので、自分の仕事が後々まで残っているというのは感慨深いものがあります。
次に仕事を変えることがあれば、自分の足跡が形として残る仕事というのもいいなと思いました。