古着などを専用の回収袋に入れて送るだけで、古着が途上国で再利用されるだけでなく、途上国の子どもたちへのワクチン寄付など社会貢献ができるサービス「古着deワクチン」。回収された古着はどのようなプロセスを経て途上国に送られるの? 本当に途上国で役立っているの? Reライフ読者会議メンバーが回収センターを実際に見学し、古着deワクチンの仕組みや意義についての理解を深めました。
(根本理香)
◆古着deワクチン
古着を途上国で再利用するとともに、ポリオワクチンの寄付や国内外の雇用創出など社会貢献にもつながるサービス。日本リユースシステム(NRS)が2010年から運営。専用の回収袋などが入った回収キットは、通信販売各社で買うことができる。朝日新聞社の公式通販サイト朝日新聞SHOPでもこの取り組みに賛同し2024年3月1日よりオリジナル商品「古着deつながる支援キット」として3500円(税込み)で販売。価格には回収袋代のほかに集荷・輸送の費用、5人分のポリオワクチンの寄付金も含まれる。
「ボロボロの服は送られてこない?」 利用できないものはない、その理由は……
古着などがたくさん詰まった古着deワクチン専用の回収袋は、千葉県木更津市にある「古着deワクチンセンター」に全国から集められてきます。今回、読者会議メンバーの参加者4人はこのセンターを訪れ、回収袋の荷ほどきから古着の出荷までの流れを見学しました。
センターは工業団地の一角にあります。大きな倉庫の扉を開けると、鮮やかなピンク色の作業着姿のスタッフが「こんにちは!」と明るい声で迎えてくれました。作業場となっている倉庫内には音楽が流れ、みんな楽しそうに作業を進めていました。1日に約30人のスタッフが働いています。
センターには回収袋が1日平均800個届きます。このセンターでは、衣服と衣服以外(アクセサリーや靴、タオルなど)におおまかな選別をします。スタッフは回収袋を開けて、中身を一つ一つ確認しながらベルトコンベヤーに載せて選別を進めます。
「使えないようなボロボロのものもここで選別するんですか」と読者会議メンバーから質問がありました。NRSの輸出部長・竹内卓さんは「捨てられないものを『誰かの役に立つのなら』と、回収袋のお金を払って送ってくださる利用者の方々なので、その袋の中にボロボロで使えないようなものが入ってくることはほとんどありません」と説明します。
古着を床につけない 思いが込められた「商品を」丁寧に扱う
この作業場では、送られてきた古着が床に直接つかないように徹底していました。「みなさんが思いを込めて送ってくださった服なので、作業効率は悪くても、ゆっくり丁寧に、古着としてではなく大切な商品として扱うことを心がけています」と竹内さん。
作業しているスタッフのほとんどは日本に住むフィリピン出身の女性です。以前は日本人を採用していたこともありましたが、古着deワクチンという商品の意図を理解し、丁寧に一生懸命働くフィリピン女性たちが残り、口コミで紹介の輪が広がって今の形になったそうです。結果的に、言葉の壁などがあって仕事が見つけにくかった外国籍の人々の雇用を生み出しています。
荷ほどきされた衣服は100キロまたは200キロごとに専用のシートに包んで圧縮し、運びやすい形にてまとめます。装飾品など衣服以外のものは、形が崩れないように圧縮はせずにまとめます。その後、24トンまで入るコンテナに積み込み、NRSの直営店があるカンボジアに向けて、輸出されます。
フィリピン人女性のスタッフも交えて座談会 「送り主からの手紙や絵がパワーに」
倉庫を見学した後、読者会議メンバーはフィリピン人のスタッフも交えて座談会で意見交換をしました。
「みなさんいい雰囲気で作業をしていましたが、日本での他の仕事と比べてどうですか」との質問に対して、日本在住23年になるマリアさんは「仲間が楽しいし、毎日にぎやかで、ここがいいです。フォークリフトの免許もとらせてもらえて、みんな免許をもっています」。NRSでは国籍や年齢によって給与に差をつけることはなく、「日本のお客様が利用してくださるおかげで仕事ができて、たくさん稼がせていただいています」と笑顔いっぱいでした。
また、「仕事のやりがいはどんなときに感じますか」ときかれると、「手紙や絵がうれしい」と日本在住31年のエルサさん。回収袋に送り主からの手紙や絵が入っていたり、回収袋に絵が描かれていたりすることが頻繁にあるといいます。「私も子どもがいるので、特に子どもの絵はすごくうれしい。パワーになります」。作業場の壁にも、送られてきたたくさんの手紙が掲示されていました。
保育園や幼稚園などから古着が送られてくることもあるそうです。「自分の子どもたちがやれることで途上国の子どもたちの命を助けられる、という教育の一環で保護者の方々に利用していただいているようです」とNRSの営業本部長・辻本真子さんが説明をすると、読者会議メンバー全員が「そういうのすごくいいですね」と大きくうなずいていました。
取引先の企業などのセンター見学は日常的にあるものの、一般の人の見学を受け入れるのは、今回の読者会議メンバーが初めて。「小学生の社会科見学などができると、古着deワクチンがもっと広まるのでは」との質問に、竹内さんは「見学の要望はすでにたくさんいただいています。倉庫をもう少し整えたら、実施していきたいと思っています」と話していました。
カンボジアの直営店で細かく選別、再輸出 現地販売でもワクチン寄付
木更津のセンターからカンボジアの直営店に送られた古着類は、約170種類に細かく選別され、防虫・防カビ・抗菌加工が施されます。現地販売のほか、約30カ国に再輸出する拠点にもなっています。現地販売はどれでもすべて一律5ドル。1日で800着以上が売れるそうです。
直営店では常時50人ほどが働いています。ポリオの後遺症が残る障がい者やストリートチルドレンだった若者など、それまで働く機会があまりなかった人々を積極的に採用。継続的に働くことで経済的自立を支援します。
また、現地販売では1着売るごとにワクチン1回分が寄付される仕組みで、スタッフは「自分たちと同じ障がいの苦しみを味わう子が一人でも少なくなるように」との思いで働いているといいます。「支援されていた側から支援する側にまわる」が店が掲げるコンセプトです。
見学会後の座談会には直営店スタッフのホットさんもオンラインで参加していました。「カンボジアでは長袖が人気。なぜなら日焼けがとても怖いから」と教えてくれました。特に若い人たちの間で日焼け対策への意識が最近は高くなっているといいます。
1着5ドルは現地ではそれほど安いわけではなく、「ラーメン1杯が1ドルくらい」とホットさん。でも、日本で着られていた服ということが「日本ブランド」として魅力になるといいます。質も良いと評判が高く、カンボジア国内のアパレル業者が大量購入することも珍しくないそうです。
寄付したワクチンは600万人分以上 国内外の雇用創出も
古着deワクチンがこれまでに再利用した衣類は4981万5950着分、寄付したワクチンは628万5648人分になります(いずれも2024年1月末現在)。ワクチンは、認定NPO法人「世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)」を通じて、ラオス、ミャンマー、ブータン、バヌアツの4カ国の子どもたちへの接種に結びついています。カンボジアの直営店で1着売るごとに1回分ワクチンとして集められた寄付は、カンボジア人のスタッフが半年に1回来日し、JCVに手渡しします。
古着deワクチンは、カンボジアの直営店で障がいのある人の雇用を生み出しているだけでなく、国内でも専用の回収袋と印刷物を箱詰めした回収キットの製造を福祉作業所に依頼することで、障がいのある人の仕事につながっています。
古着deワクチンが始まった10年以上前は、「お金を払って衣服を手放すということに共感する人は、今よりも少なかった」と辻本さんは言います。最近はSDGsの考え方が世の中に広まってきたこともあり、月間2万から2万5千人が古着deワクチンを利用しているそうです。
無理をせず手の届く範囲で運営 信頼が何より大切
古着deワクチンを運営するにあたっては、「自分たちの手の届く範囲でやる。無理はしない」ということも心がけているといいます。回収キットの販路や宣伝を増やすにあたっては、古着が多く集まってもきちんと選別ができるように人員や施設を整備したり、古着の販路を拡大したりして、「まず出口を広げてから入り口を広げる」と竹内さん。
こうすることで、せっかく送ってもらった古着がどこかでたまってごみのように扱われたりすることなく、すべて有効活用できるのだといいます。「気持ちを込めて送ってきてくれたお客様を裏切ることはできない。お客様の信頼のためにも、一つ一つの場面で誠意をもって品質向上させることを、常に追求していきたい」
NRSの企業理念は「三方義(よ)し」。自分たち売り手やお客様である買い手だけでなく、世の中にとっても良いビジネスです。古着deワクチンという仕組みを通じて、国内外で障がい者の雇用創出したりポリオワクチンの寄付したりすることにとどまらず、カンボジア直営店のスタッフなど途上国の人々がお金を稼いで学校に行くことによって、「教育で途上国を豊かにすることを目指しています」と辻本さんは説明します。
NRSでは、一般的な古着や装飾品にとどまらず、着物や和装小物をヨーロッパやアメリカで生かす「着物deお針子」という商品も売り出しています。今後はキッチン用品やベビーカー、おもちゃなど「思いが詰まっていて手放せない、もったいなくて手放せない」というものをシリーズ化して商品として打ち出していく計画です。
古着を実際に詰めてみる……どの程度の古さまでOK?
見学会に先立って、読者会議メンバーの参加者の一人、田中由美さん(68)が自宅で実際に古着deワクチンの回収袋に古着などを詰める体験をしました。
回収袋のキットの箱を開けると、袋が折りたたまれて入っています。一緒に入っている注意書きには「重くなるので、詰める作業は玄関でするのをおすすめします」と書いてあります。言われた通りに玄関に移動して袋を広げてみると、想像以上の大きさです。縦49センチ、横50センチ、高さ75センチで、「子どもだったら余裕で入ってしまいますね」と田中さん。
田中さんが回収袋に入れるために用意していたのは古着20着ほどと靴、さらに「回収袋に入るものであれば、スーツケースもいいそうですよ」と、小型のキャリーケース。それだけ入れてもまだまだ空きがあります。重さ30キロまで入れることが可能で、薄手の衣類であれば約120着が入るそうです。「アクセサリーはつい先日あげちゃったばかり。実家にも古着などがあると思うので、それも加えて送ることにします」
すべてが詰め終わったら、指定の宅配業者に集荷を依頼します。
古着deワクチンセンターの見学会当日は、実際に田中さんが送った回収袋が開けられ、中身がベルトコンベヤーに載せられました。後から詰めたたくさんのハンドバッグなどの服飾品や古着、キャリーバッグなどが一つ一つ選別される様子に、「これだけ丁寧に扱ってもらえるなら、出してよかったって思いますね。バイバーイ」と別れを告げていました。
「よれよれになったり色落ちしていたりする古着は、どの程度のものまで送っていいのか」と田中さんは古着を回収袋に詰める際に少し悩んでいましたが、NRSの辻本さんによると「海を越えて次の方が着用できる、と判断していただいたものは送っていただいてOKです」。個人の判断に任せているものの、ほぼすべてが仕分けされてきれいな状態で送られてくるそうです。
「和気あいあいと働いている」「仕組みがよくわかった」 参加者の感想
【城戸しほみさん】
古着としてではなく商品として丁寧に扱っていて、これなら回収キットを買って古着を出すことも抵抗がないし、他の人にもすすめたいという気持ちが強くなった。センターのスタッフが和気あいあいと働いている雰囲気を見て、心が温かくなった。
【田中由美さん】
古着deワクチンセンターを見学することで、日本リユースシステムのコンセプトが伝わりました。「入り口と出口」を考えながら、できる範囲内のことをするという無理のなさや、スタッフの笑顔が印象に残りました。
【山田裕子さん】
古着をリユースしてワクチンを寄付するだけでなく、外国人労働者や現地障がい者の雇用創出、労働環境改善の取り組みを知ることができた。今後は、再輸出の先の行方にも責任を持ち、放置ごみにならないようにしてほしい。
【古海徹さん】
古着deワクチンの仕組みがよくわかった。作業場の中で一番感心したのが、古着を床に直接置かないことが徹底されていること。置いてはダメといっても、なかなかできるものではない。会社としてすばらしいと感じた。
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