有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。
2025年になっちゃいましたね。年度末まで恐ろしい日々が続きます。
今月号のキーワードは、「完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing」です。
今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
今月号の巻頭言は、九州大学先導物質化学研究所 新藤 充 教授による寄稿記事です。大学人として、とても首肯させられる内容でした。自身の教育活動を振り返ってみたいと思います。
2023年度有機合成化学協会企業冠賞 カネカ・生命科学賞受賞
*名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻生物有機化学研究室
mRNAは新型コロナウイルス感染症対策におけるゲームチェンジャーとなった分子です。mRNAがワクチンとして大変有効であることを、私達は身をもって知りました。今後、未知のパンデミックの到来を見据えて、より汎用性と純度の高いmRNAの作製技術が必要となります。本論文ではこれを実現する画期的な有機合成化学が紹介されています。
釣谷孝之*、木嶋昭仁、福井伸明、柳澤周一、安倉和志、笠松幸司
2023年度有機合成化学協会賞(技術的なもの)
*塩野義製薬株式会社製薬技術研究本部製薬研究所
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬のEnsitrelvir 原薬のプロセス開発に関する論文になります。研究着手から1年以内という驚異的なスピードで商用生産に向けたプロセス開発を実施されています。製法改良や実生産の中で起こったトラブル対応事例など、実際に製薬企業で行われているプロセス研究に関して詳細が記述されており、非常に読み応えのある内容となっています。ぜひご一読下さい。
2023年度有機合成化学奨励賞
*横浜国立大学大学院工学研究院
本総合論文では、機械的刺激により発光色が可逆に変化するメカノクロミック発光(MCL)を示す一連の化合物の合成と光特性に関する研究について紹介されています。前半では、ドナー・アクセプターを直接結合した分子、後半では、ピレン部位を導入した発光材料の合成と光特性が示されています。機械的刺激付与後に発光色が自己回復する分子や、円偏光発光(CPL)をスイッチング可能な分子など、特異的な光機能を示す材料が、それらの設計指針とともに示されており、読み応えのある総合論文です。
*東京工業大学理学院化学系
これまでに数多くの刺激応答性色素が開発されてきましたが、筆者らは60年間見過ごされてきた「圧力」を外部刺激として利用しています。先駆的な研究でありながら実験データから丁寧に考察を行っており、読み応えのある論文になっています。新分野開拓を目指している若手から中堅研究者への助言もあり、必見です。
剛直で三次元構造を有するキュバンは、ベンゼンの生物学的等価体として注目を集めている。筆者らは、キュバンおよびその誘導体であるカゴ型化合物のキラリティー発現に着目し、「キュバン足場編集(cubane scaffold editing)」という戦略を提示した。本論文では、キュバンを含むカゴ型化合物のキラリティー発現に関する過去の研究と筆者らの最近の「キュバン足場編集」の研究結果が紹介されている。
今月号のReview de Debutは1件です。オープンアクセスですのでぜひ!
・デジタルマイクロ流体技術を用いた微小スケールでの有機合成化学(北海道大学大学院理学研究院化学部門)宮岸拓路
今月号はMyPRがあります!東京科学大学理学院化学系の近藤美欧教授の登場です。非常にキャッチーなタイトルに惹かれます。近藤先生のこれまでの経歴、経験が詳細に述べられています。ぜひご覧ください!
今月号の感動の瞬間は、慶應義塾大学理工学部化学科 垣内史敏 教授による寄稿記事です。リスクを取ることは勇気が要りますが、やはり感動も大きい。このことを改めて感じさせられました。必読です。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。