VR写真 仮想空間でリアルしのぐ美 追求
2022年1月29日 05時00分 (1月29日 05時00分更新)
土門拳やマン・レイといった写真の大家らが手掛け、美的な感動を与えることを目的とした芸術写真。十九世紀にカメラが誕生してから、被写体は現実空間の人や物だった。ところが最近は、インターネット上のVR(仮想現実)空間の出来事を撮る「VR写真家」が相次いで登場。作品のコンテストも開かれ始めた。現実の写真と同様、VR写真もアートとして評価されていくのか。(林啓太)
◇リアルと同じ
カメラを手に街に繰り出す代わりに、VR写真家はVRゴーグルを身に着ける。首を振ると上下左右に広がる仮想空間で、「アバター(分身)」と呼ばれるキャラクター姿で活動する。
撮影場所は、ワールドと呼ばれる数多くの仮想空間からなる「VRChat」。目当てのワールドで被写体を決めたら、VRカメラを起動。目の前に浮かび出たCGのVRカメラを被写体に向けて構図を決めたら、一眼レフカメラのように明るさやボケ具合などを調整してシャッターを切る。国内外の人々がアバター姿で動き回り、自由に交流を深めているVRChatの世界。荒波が寄せる海岸や星月夜の山、雪の積もった日本庭園など現実世界と同じように被写体は多様だ。
◇仮想世界は理想郷
金髪の美少女のアバターが踊る。後ろで束ねた髪は宙になびき、ドレスの裾が舞い上がる―。躍動する瞬間を切り取ったのは、VR写真家の「えこちん」。VRChat内のダンスクラブの一こまだ。身体の動きを読み取るセンサーを身に着けて踊る友人のアバターを撮影した。交錯する光をバックに踊るアバターからは、現実のクラブで踊る若者のような高揚感も伝わってくる。他のVR写真家も個性を発揮している。風景写真が得意な「すま」は、ビルに挟まれた夕暮れの路地で、哀愁に満ちた一枚を撮った。自撮り作品に熱中する「maido39」は、霧に包まれた森のワールドで、池の水面に美少女が爪先立ちする幻想的な情景を捉えた。
VR写真はリアルの写真と比べどこに魅力があるのか。すまはプロカメラマンの経験から、写真で重要なのは「光」だとしたうえで、VRChatでは草花などに降り注ぐ光が理想的だと指摘する。「現実空間では難しい表現を追求していける」という。
なぜかといえば、それぞれのワールドは、制作者が理想の仮想世界にしようと趣向を凝らしているから。当然、美しく見えるように光の当たり方でも理想を追求する。現実世界とは違い、多くのワールドは太陽や月のような光源が動くことはない。常に理想の「光」が降り注いでいるわけだ。
VR写真の撮影は、ワールドの制作者の創作物を基にして、別の作品を創りあげる新たなアートともいえる。maido39は「ファンタジーの世界を作った人に敬意を示しながら、自分の目で解釈して切り取るのが面白い」。
◇VR写真家が職業に...
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