広島地裁

 今年4月に三次市の82歳の女性が新型コロナウイルスに感染して死亡したのは、コロナ感染の兆候があったヘルパーの訪問を続けさせ安全配慮義務を怠ったためだとして、女性の遺族男性(広島市)が三次市の訪問介護事業所の運営会社に計4400万円の損害賠償を求めて広島地裁に提訴した訴訟で、男性と運営会社が12日、和解した。男性側は法廷での審理開始前に、訴訟を取り下げた。

【グラフ】中国地方の新型コロナウイルス感染確認者数

 和解書などによると、運営会社は女性の死亡について遺憾の意を表し、哀悼をささげるとし、運営会社に法的な賠償義務のないことを双方で確認した。

 訴訟取り下げの理由として男性側は、介護現場の安全管理体制についての問題提起は報道である程度達成された▽訴訟継続で介護現場が萎縮するのは本意ではない―などを挙げた。提訴時にはネット上で「損害賠償が認められると介護現場が持たない」などの声が上がっていた。

 男性はこの日、取材に対し「金銭の請求が目的ではなかった。運営会社にお悔やみと遺憾の意を表してもらい、和解という結果に満足している」と話した。運営会社は「早く解決に至り、ほっとしている。これまで以上に気を引き締めて感染対策に取り組んでいきたい」と話した。

 訴状などによると、ヘルパーは3月31日に発熱などの症状が出たが4月1日改善し、10日に感染が判明。3月23、27、30日と4月2、6日に女性宅を訪問していた。一方、女性は4月3日に発症。広島市内の病院に入院し、19日に新型コロナによる肺炎のため死亡した。→提訴時の記事はこちら

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