業界を揺るがした中国AI新興企業、「ディープシーク」とは
(CNN) 驚異的な効率性と性能を見せつけた中国製の人工知能(AI)が米ウォール街を揺るがした。「ディープシークR1」の発表を受け、27日の米株式市場はハイテク株を中心に急落に見舞われた。
ディープシークR1を開発したのは、1年前に創業したばかりの中国企業ディープシーク。米著名IT投資家のマーク・アンドリーセン氏は「スプートニク・モーメント(米国が他国に出し抜かれた瞬間)」と形容した。R1は、米オープンAIの「GTP―4」やグーグルの「ジェミニ」など、はるかに先行していたはずの米国製AIにほぼ匹敵する性能を、ごくわずかなコストで実現した。
ディープシークはR1のベースとなるAIモデルをわずか560万ドル(約8億7500万円)で開発したとしている。一方、米国企業はAI技術の開発に数億ドルを投じている。米国が国家安全保障上の懸念を理由に高性能AI半導体の中国への輸出を何年も前から規制してきたことを考えると、衝撃はさらに大きかった。つまりディープシークは比較的性能の低いAI半導体で、低コストモデルの開発に成功したことになる。
ディープシークとは
ディープシークは中国のヘッジファンドマネジャー、梁文峰氏が2023年に創業した。AIブームに乗ってここ数年で次々に登場したスタートアップの一つだった。
梁氏は中国のサム・アルトマン氏(オープンAI最高経営責任者)的存在とされ、自身のヘッジファンドを通じてAI開発に集中投資を行っている。
ディープシークのAIは業界である程度は注目されていた。「V3」で同社の知名度は多少上がったものの、中国政府や中国指導部に関するコンテンツ制限をめぐって業界での競争力は疑問視されていた。
ところがどこからともなく現れたR1は、昨年披露され、このほど米紙ウォールストリート・ジャーナルの報道で衝撃的な低コスト運用が明らかになると、一躍脚光を浴びた。しかも他社がこのモデルを元にしてテストや開発ができるオープンソース方式を採用していた。
ディープシークのアプリはアプリストアでランキングが急上昇。27日にはチャットGPTを抜き、200万回近くダウンロードされている。
これほど注目される理由
AIは大量の電力と巨額のコストを必要とする。米国の超大手はAIに必要な電力を確保するため原子力発電企業まで買収した。
米メタは先週、今年はAI開発に650億ドル以上を投じると発表。オープンAIのアルトマンCEOは昨年、AIを運用するデータセンター用の半導体開発を支えるために、AI業界は数兆ドル規模の投資が必要になると指摘した。
米国で最高の性能を誇るAIに匹敵する性能を、それに比べればごくわずかなコストで、しかも米国より性能の低い半導体で実現したことは、AIには巨額投資が必要だとする業界の認識を根底から覆した。
アンドリーセン氏(トランプ氏の支持者でシリコンバレーのベンチャーキャピタル共同創業者)はX(旧ツイッター)への投稿で、ディープシークを「私がこれまでに見た中で有数の驚異的かつ印象的な飛躍」と評した。
もしも世界を激変させ得る性能を、大幅に少ないコストで実現できるとすれば、世界にとって新たな可能性が開けると同時に、新たな脅威ともなり得る。
米国にとっての意味
米国は国家安全保障強化に役立つとみなした主要技術について、制裁を通じて独占状態を守ることができると考えていた。バイデン前大統領は退任の直前、中国のようなライバルによる先端技術の利用を阻止するため、AIコンピューター半導体の輸出規制を強化した。
しかしディープシークはこの考え方に疑問を突きつけた。米国は半導体の輸出規制で時間稼ぎはできたかもしれないが、それでもAI分野で先行していた米国のリードは大幅に縮小した。
たとえ主要技術の輸出を規制したとしても、米国が必ずしも勝てるとは限らない現実を、ディープシークは見せつけた。
本当に激変をもたらすのか
業界は、極めて低コストだったというディープシークの言葉をうのみにしている。その言葉に誰も反論はしていない。しかし比較的無名の一企業の言葉だけで、市場が動揺した。ディープシークはAIの学習にどれほどのコストがかかったかは明らかにしておらず、巨額の研究開発費を投じている可能性はある(それでも恐らくは、何十億ドルという規模ではなかった)。
「ディープシークのモデルの登場で、米国企業がリードする状況や、支出額およびその支出が利益(あるいは過剰支出)に結びつくかどうかを投資家が疑問視するようになった」と米トゥルーイストのアナリスト、キース・ラーナー氏は言う。その上で、「我々の見方では、こうしたAIでは最終的にデータへの支出がかさみ、米国企業はリーダーであり続けるだろう」と予想している。