生活をエンジョイしている日々の描写が楽しそうだ。深刻な喧嘩など無縁でひたすらいい時間を過ごしている。見ているこちらも気分よく読める。
夢見た華やかな都会生活と刺激に満ちためくるめく夜を楽しませてくれる最高の恋人。望んだ暮らしがあった。
田舎と都会のギャップを描くのは使い古されたテーマと思っていたら、考えてみると私はHQの現代物では読んだことはこれ迄なかった。最近「やさしい闇」で訛りのほうには触れているが。
ヒロインの実家である農家の日々と、クライマックスのオフィスのシーンは、互いにいいところしか見ていない間柄の、まだ出会って新鮮味のあるタイミングなればこそ、と思う。実際、彼の友人達にまだ入る可能性を残した流れを乗り越えた時間の幅がまだない。
これは、ただ、所謂異文化接触のハネムーン期なだけじゃ?という疑いを晴らせてくれてない。
それでも、ヒロインがいいところだけ評価して真っ向からそこで楽しもうとしているのは、さっぱりしていて爽快。実は何故か大変嬉しい。都会に対する失望シーンがないところが。
東京生まれの東京育ちの私には、子供の頃から、東京は冷たい、という「田舎者」の批判が愉快でなかったから。反論材料いくらでもあるのに、東京外からの絶対多数の膨大な人数の流入者が、見知らぬ土地で鎧着込んで来て初めからガチガチに身構えて孤立し、勝手に撒き散らす東京評の勢いは留まらなかった。じゃぁ、なんで来たの?、何らかを期待したんじゃなかったの?、嫌なら帰ればいいじゃない、と思っていた。
誰も自分の町の好きでないところあるとは思うが、郷土愛も持つだろう。同じなのに。
それはさておき、ヒロイン、イヤだイヤだと言いつつ、実家はホントは好きなのだから、彼が楽しんだカンザスライフの場面は良かった。
また、憧れをクライマックス含めてコンプリートする筋立ても、出来すぎのところがむしろ楽しませてくれた。
小越先生の描く女性は目が大きいのが私には読み辛い。夜や休日のNYや、カンザスの屋外などをもう少しビジュアルにして欲しかった。
NYの企業の警備はどうなってるんだ、とは思うのだが。
何度読んでも、ずっと聞きたかった、の電話の場面に胸がキュンと来る。
71頁の汗をかいたリンクは良い。93頁の嘘でしょ、のヒロインの崩し顔が大きすぎて、受け入れがたい。
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