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はてな、百度、DeNAで経験を積んだ水野貴明氏が始めた「技術版のエンジェル投資家」って何だ!?

働き方

    エンジニア 水野貴明氏

    エンジニア 水野貴明氏

    東京大学大学院を卒業後、数理計画、はてなを経て、バイドゥに入社。日本人開発者第一号としてWeb・モバイル検索の開発に従事。上海開発センター代表として百度人(年間賞)を受賞。その後、DeNAに入社し、スマホ向けソーシャルゲーム開発に従事。昨年は同社シンガポール拠点のTech Leadに勤め、現在は独立。執筆、翻訳した書籍は20冊以上。

    バイドゥに日本人開発者第一号として入社し、年間賞を受賞するなど、エンジニアとして華々しい経歴を持つ水野貴明氏。彼が次のステップとして選んだのが、海外を渡り歩きながら複数社の「リモートCTO」を務めるというキャリアだ。

    “技術版のエンジェル投資家”としてスタートアップ企業の支援を行っている同氏は、どのようにこの役割をこなしているのか? 滞在中のシンガポールで、水野氏本人と、彼にリモートCTOを依頼しているIROYA代表取締役社長の大野敬氏に話を聞いた。

    「もう日本国内だけでベストなチームを作るのは難しい」

    ―― 水野さんは、エンジニアtypeの姉妹誌だった雑誌『type』(※編集部注:現在は休刊)の企画「キャリアデザイン大賞」にノミネートさせていただくなど(当時の記事はこちら)、以前からその「働き方」に注目しておりました。現在は?

    昨年DeNAを退職し、現在は独立して仕事をしていますが、単純に開発作業やコンサルティングに対して対価をいただく業務委託は少なく、スタートアップの技術支援を株式やストック・オプションでいただいて行う「リモートCTO」とでも言うような働き方をしています。

    この働き方の特徴は2つ。1つは、企業に常駐するのではなく、文字通り遠隔で働くこと。もう一つは、作業に対する報酬を抑え、代わりにストック・オプションで報酬を受け取ったり、株式を所有して株主として参画していることです。スタートアップに対して、お金ではなく技術を投資する、“技術版のエンジェル投資家”だと考えています。

    現在は数社のお手伝いをしています。その中で、スタートアップではないのは1社だけで、この会社は今の働き方を見つけるに至る助言をしてくれた西田貴一さんがCTOを務めるアライドアーキテクツさんです。

    その他の4社は、いずれもシードラウンドの資金調達を行う前後から携わり始めたスタートアップ企業です。どの企業もSkypeやSlack、HipChatといったチャットソフトや、GitHub、Backlogなどのツールを利用することで、リモートであっても密なコミュニケーションが取れる状態にしてあります。

    もちろん、対面のコミュニケーションも大事なので、いくつかの企業は定期的に訪問して技術的な相談に乗ったり、経営者の意思決定のお手伝いをしています。特に、「色」をテーマにしたセレクトオンラインショップ『IROYA』は立ち上げ当初から携わっているため、開発の観点からの経営参画にも携わっております。

    ―― なぜ、リモートCTOという立場での仕事を選ばれたのですか?

    狙いは2つあります。

    1つは、1つの企業、1つのプロジェクトに縛られないことで、自分の時間をより有効に活用できるようにすることです。時間の調整がかなり自由にできるようになりますから、さまざまな開発者、特に海外の優秀なエンジニアにいつでもリーチできる環境を作っておくこともできます。

    私は日本国内だけでベストな開発チームを作るという理想をあきらめました。今はどこも開発者不足であり、優秀な人を探し出すのがとても難しいからです。優秀な人はみんな忙しいし、自分の生き方や自分が今やりたいことをすでに見つけている。

    これは日本だけではなく、世界的にそうだとは思いますが、海外にも目を向けて、よりたくさんのエンジニアとつながっておく方がいいと断言できる時代です。遠隔でも、質の高い仕事ができるネットワークの構築に時間を割くことができれば、どこかのプロジェクトでエンジニアリソースが必要になっても人手不足でつらい思いをすることが減ります。

    2つめの狙いは、株主としても参画することで自分と経営者双方のコミットメントを高めること。スタートアップはお金がないからといって、それを理由にエンジニアに対して値下げ交渉して業務を委託・受託するのは、お互いコミットメントが高まりません。エンジニアを雇う方法として間違っていると思います。

    自分は複数のプロジェクトを掛け持ちしていますが、株式やストック・オプションによってその企業、プロジェクトに対してオーナーシップを感じて取り組むことができます。そうやっていくつかの企業にパラレルにかかわることで、短期間で多くの経験を積むことができますしね。自分にとっても、自分が関わるすべての企業にとっても、良い結果を生むと信じています。

    著名エンジニアを口説き落とすスタートアップ3つの条件

    ―― そういう働き方をしている水野さんが、特定のスタートアップに惹かれるポイントを教えてください。逆に言うと、経営者はどのように水野さんを口説いてきたのかと。ここからは、実際に水野さんに仕事を依頼しているIROYA大野さんにも一緒に話を聞かせてください。
    プロフィール画像

    株式会社IROYA 代表取締役社長
    大野 敬氏

    大学在籍中、アパレル小売店店長及びバイヤー、EC事業を立ち上げ、その後博報堂に入社。クライアントのプロモーション戦略からマーケティング、CRM領域に注力。その後、Baidu japan、アイスタイルへ転職し、事業会社でのマーケティング、新規事業開発・事業戦略などを担当。KLabVenturesでのベンチャーキャピタリスト業務を経て、IROYAを設立

    大野 僕らが展開しているのは、eコマースサイトと実店舗のオムニチャネルです。一見、エンジニアの目には魅力的でない領域のように映るかもしれませんが、実はWeb完結型のビジネスを行う企業よりも広範囲の実力が求められる仕事だと思っています。

    水野氏が参画する『IROYA』のWebサイト

    水野氏が参画する『IROYA』のWebサイト

    今回の企画中、岩手の陸前高田市ほか複数の都道府県に「遠征」しながら仕事していた西小倉氏

    仕入れ先から当社の倉庫、倉庫から顧客までの物流、またeコマースサイトと実店舗での販売に至るまで、あらゆるビジネスオペレーション上の課題を、テクノロジーを総動員して解決、創出しなければならないからです。

    オムニチャネルの事業では、バグやエラーといった問題が絶えません。ですから、水野さんのこれまでに培われてきた幅広い経験やノウハウ、トラブルを面白がることができる素質がどうしても必要で、またCTOでありながら現場での適応力を重視するスタンスの持ち主である水野さんが当社のようなスタートアップには欠かせないとずっと思っていました。

    水野 今エンジニアはものすごい売り手市場で、どの企業も開発者が足りなくて困っている状態のように感じます。中でもスタートアップなんて、お金はない、具体的なサービスもまだない、もう「ない物づくし」なので、エンジニアを見つけて口説き落とすのは死ぬほど大変だと思います。

    私もそうしたスタートアップの経営者から声をかけてもらったりしますが、一緒にやってもいいなと思える場合と、申し訳ないけれど思うことができない場合があります。その違いは、報酬や待遇などの現実的な事象ももちろんありますが、それよりも大きな違いが3つあります。

    1つは「経営者がどれだけその事業を信じていて熱弁できるか」。例えば大野さんは以前アパレル店員として働いていた経験から、業界の課題と取り組まなければならない解決策をすでに知っていましたし、具体的にやりたいことを熱く語ってくれました。

    2つ目は、「経営者が私の力をどれくらい買ってくれていて、心から説得してくれるか」。経営者自身がこの人だと思うエンジニアを、本気で自分の言葉で口説けば、やはり心が動きます。

    最後が、経営者がビジネスを理解しており、行動力と意思決定力が備わっていて、さらに「チームをまとめる力を持っているか」。スタートアップのチームなんてちょっとした人間関係の問題であっけなく崩壊してしまうので、経営者がしっかりとまとめ上げて引っ張っていく力がないと、走り続けることはできません。

    また、これは偶然かもしれませんが、「タイミング」もあります。大野さんと出会ったのは、『IROYA』のローンチ予定日の3カ月前だったのですが、話を聞いて「今のままではローンチは難しそうだけど、手伝えばローンチさせることができそう」と思ったんですね。言い換えれば、自分の強みを活かして手伝うことができそうだと思ったのです。

    エンジニアにはいろいろな適性があります。これまでにない発想で技術を進化させる人、ものすごく効率的な開発手法を編み出す人、最新技術を常にキャッチアップしている人など、です。私は火消し役や傭兵のように、火事場や戦場に乗り込んでいって何とかするのが得意(笑)。ローンチ予定日に間に合わない状況から間に合わせたりするのが向いているのです。

    当時のチームはまさにその状況でしたので、自分の価値が発揮できるだろうというやり甲斐も感じていました。

    事業の将来を見据え、ボトルネックを特定せよ

    ―― 水野さんがスタートアップをどのようにHackしているのかを教えてください。まず何から手を付けていけばよいのでしょうか。

    水野 まずは、技術的に解決可能なビジネスモデル上のボトルネックを特定するようにしています。

    例えば『IROYA』では、eコマースサイトでも実店舗でも一点モノの商品を多く扱っています。ですから、サイトで行われた購入行動と、実店舗で行われた購入行動と、在庫状況がオムニチャネルで同期されている必要があります。

    もし同期されている仕組みがなければ、購入行動が行われるたび、月末に棚卸しするたびに人力で在庫状況を確認しなければなりませんし、実際、経営層がこうした細かな作業に時間をとられているような実態がありました。『IROYA』にとってのボトルネックは「eコマースサイトと実店舗の連動」だったのです。

    そこで、サイトと実店舗を連動させるための作業を簡素化する仕組みを作ることにしました。ロボットを導入して無人で行えるような仕組みを作って解決できるのであればそれに越したことはありませんが、スタートアップにとっては現実的ではありません。

    ですから、アルバイトなど初めて運営に携わる人でも行えるような仕組みをソフトウエアで作ろうということになりました。

    店舗での決済にアプリを活用することでオペレーションを効率化

    店舗での決済にアプリを活用することでオペレーションを効率化

    まず、商品のデータベースと、個別の情報を読み取ることができるバーコードを店舗と倉庫にある商品に貼付するようにしました。続いて、実店舗の決済は備え付け型のレジではなく、専用のスマートフォンアプリを開発し、それで行うことにしました。

    店員さんがアプリでバーコードを読み取り、決済すると、自動で商品のデータベース上の在庫が減るような設計にしました。

    この仕組みは、『IROYA』が取り扱う商品や運営する実店舗が増えるほど、人件費の大きな削減につながるような事業のスケーラビリティーを促進するものです。

    大野 これによって、実務経験や趣味・嗜好等に左右されがちなアパレル・ファッションなどの感性型商材の管理と販売、運営運用を、未経験者でも着手することができるようになりました。専門性が高いこの分野へのエントリーラインを、ギュッと下げることができたのです。

    属人的であり、職人技でもあり、その人が抜けることでなくなっていたものが、シームレスかつサスティナブルに蓄積され続けることでイールドマネジメントなどにも役立てることができると考えています。

    水野 実はこの発想、大野さんが仕入れ先の方や店員さんと連携している時に取る行動を見て気付いたのです。大野さんとは、今後は店舗での商品のお取り置きサービスなども実現できるような改良を加えていこうと話しています。

    水野氏が「弟子」を募集中

    渋谷にあるIROYAの店舗内。毎月一色に絞ってアイテムを販売するのが特徴

    渋谷にあるIROYAの店舗内。毎月一色に絞ってアイテムを販売するのが特徴

    水野 ボトルネックは今の通りですが、「開発体制」にも課題を抱えています。

    大野さんも私も実現したいことが多いのですが、今は開発速度が思うように上げられません。それはひとえにエンジニアが足りていないからです。

    今もベトナムのエンジニアなどにも手伝ってもらいながら何とかすすめてはいますが、まだまだリソースが足りていません。

    現在のサイトでは、私の参画前から採用されていた歴史あるECサイト構築パッケージが使用されているのですが、パッケージの性格上カスタマイズが複雑になりやすく、ECサイトにエッジを効かせようとすると途端に開発に時間がかかるようになってしまいます。

    しかも、今風の直感的に理解しやすいコード構造になっていないので、新たな開発者が入るたびに開発をスムーズに進めるまでに時間がかかります。ですから、将来開発チームが大きくなった時のことを見越して、今のうちに暗黙知を減らす努力をし、同時にサイトをより分かりやすくカスタマイズしやすいコードベースにするための大改修に着手しています。

    同時に、開発チームに参加するエンジニアを探しています。このエンジニアは、高い技術力をすでに身に付けた人ではなくてもよく、私にとっては弟子のような存在になってもらえるとありがたいなと。自分の知っていることはすべて伝え、阿吽の呼吸で一緒に動ける人を育てたいと思っています。

    冒頭で述べた通り、日本人だけで開発チームを作ることは考えていませんので、ベトナムやパキスタン、チュニジアをはじめ海外のエンジニアと仕事をすることにもなります。技術もさることながら、異なる文化圏の人と一緒に働く方法なども培った、「個」として強いエンジニアを目指す人にはぜひ手を挙げてもらいたいです。

    ―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。

    取材・文/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo)

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