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Tech Do | メディアドゥの技術ブログ 

株式会社メディアドゥのエンジニアによるブログです。

電子書籍の歴史を整理してみた

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はじめまして。MediaDoの末次(id:nullcat)です。ふだんは弊社が運営している電子書籍配信システムの統合*1に関わる開発を担当しています。

実は弊社はウェブの標準化団体、 W3C(World Wide Web Consortium) に加盟していて、W3C管理下の電子書籍フォーマット EPUB を今後どう発展させていくかという議論にも加わっています*2

去年の12月にMediaDoに入社した僕はこのEPUBについてまだあまり詳しくないので、このブログ記事を書きながら整理していきたいと思います。

そもそも電子書籍って何?

電子書籍の歴史を整理する前に、いったん 電子書籍 の定義を整理してみます。

電子書籍 - Wikipedia

電子書籍(でんししょせき)とは、紙とインクを利用した印刷物ではなく、電磁的に記録された情報のうち、従来の書籍(雑誌を含む)を置き換える目的で作成されたコンテンツをいう。

JEPA|日本電子出版協会 電子書籍とは?

紙に印刷された本ではなく、画面で読む本や雑誌を電子書籍という。電子本、電書、イーブックとも言う。

電子書籍とは何? Weblio辞書

電子書籍とは、書籍や出版物の情報をデジタル化し、印刷物の替わりに電子機器のディスプレイ上で閲覧可能なコンテンツの総称である。

ちなみに「書籍(図書)」の定義については、1964年のユネスコ総会で採択された基準*3では、以下のように定義されています。

図書とは、国内で出版され、かつ、公衆の利用に供される少なくとも49ページ(表紙を除く。)以上の印刷された非定期刊行物をいう。 小冊子とは、いずれかの一国で出版され、かつ、公衆の利用に供される少なくとも5ページ以上48ページ以下(表紙を除く。)の印刷された非定期刊行物をいう。

いったん上記を自分の言葉で整理してみると、以下のようになりました。

  • 約50ページぐらいの分量がある、既存の書籍を置き換える目的の電子データが電子書籍
  • つまり既存の書籍を置き換える目的ではないネットニュースや動画サイトやブログといったものは電子書籍ではない
  • データ形式の制限はない。EPUBかもしれないし、jpegなどの画像データだったりhtmlだったりPDFだったりただのテキストデータだったりするかもしれない

僕個人の意見なので正しくないかもしれません。もしご意見あればコメントなどで教えてください。

電子書籍の歴史をざっくりと

電子書籍の定義がなんとなく定まったところで、電子書籍の歴史を整理していこうと思います。

以下、個人的に重要だと思ったできごとの抜粋です。 辞書を電子化したものである「電子辞書」や、Webの標準技術も電子書籍の発展とは切り離せないと思うので、そのあたりも含めています。


1949年: アンジェラ・ルイズ・ローブルが電子百科事典を特許出願

スペイン語教師だったアンジェラさんが、教科書の持ち運びを楽にして、暗いところでも読めるようにと開発した電子百科事典が、人類初の電子書籍リーダーと言われています。実際の画像を検索してみましたが、あまり軽そうには見えませんでした。ボタンを押すと巻物が自動で巻かれていく仕組みのようです。


1962年: ダグラス・エンゲルバートハイパーテキストの研究開始

1962年にスタンフォード研究所の ダグラス・エンゲルバートらが、コンピュータをミサイルの弾道計算とか限られた用途だけでなく一般の知的労働者が知識を効率よく得たり活用するための手段として使えるようにすべく、 ハイパーテキスト(ハイパーリンク)」 というテキストデータ同士を相互に関連付ける仕組みの研究開発をはじめました。このブログにもめちゃくちゃ使われてる こういうリンク のことですね。電子書籍の中でも、目次からコンテンツへのリンクなどに使われているのを見たことある方は多いと思います。

だいたいのソフトウェアエンジニアは知っていると思いますが、HTMLは「HyperText Markup Language」の略ですし、WWW(ワールドワイドウェブ, 要はインターネット)はこのハイパーテキストを実装したものの代表例になります。また、テキストだけでなく、画像、音声、動画などいろいろなメディアが結びついたものを「ハイパーメディア」と言ったりもします。

余談になりますが、エンゲルバートはこのハイパーテキストだけでなく、マウスやGUI、文章のコピペ、メールソフト、ネット通話システム、プレゼンソフト(パワポみたいな)といったものを最初期に作った人でもあって、これらの発明品を1968年にデモンストレーションしたのですが、そのデモは2019年現在の僕たちがパソコンを使ってプレゼンするときとだいたい一緒のことを人類史上最初にやってみました、という内容であることから すべてのデモの母(The Mother of All Demos) と呼ばれていたりもします。


1968 “Mother of All Demos” by SRI’s Doug Engelbart and Team

なんとふつうにYouTubeで見ることができます。

アップルのスティーブ・ジョブズエンゲルバートが発明したマウスの特許を取得して、世界初のマウスが搭載されたパーソナルコンピュータ「Lisa」を開発しました。この辺の経緯はジョブズの伝記にも書いてあったので、ご存知の人も多いかと思います。

ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 1

ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 1

1971年: マイケル・S・ハートが「米国独立宣言」の文章をコンピュータに入力し、ネット上で入手可能な最初の電子書籍を作成

1971年にイリノイ大学のマイケル・S・ハートが、著作権切れ有名著作のデジタル図書館 プロジェクト・グーテンベルク を立ち上げて、その最初のコンテンツとして米国独立宣言をネット上にアップロードしました。これが世界初の電子書籍であり、プロジェクト・グーテンベルクは世界初の電子書店といえると思います。

プロジェクト・グーテンベルクは現在も存続していて、ハートがアップロードしたものかはわかりませんが米国独立宣言ももちろん読むことができます。

1990年: ソニーが「Data Discman DD-1」を発売

1990年、ソニー電子書籍専用リーダー、 Data Discman DD-1 を発売しました。 これが世界初の電子書籍専用リーダーで、当時はネットが普及してなかったことからコンテンツは8センチCD-ROMから読み込むようになっていたようです。

以下、そのData Discman DD-1の紹介記事です。

www.itmedia.co.jp

2007年: 国際電子出版フォーラムが電子書籍フォーマット「EPUB」を公開、Amazon Kindleも発売

2007年9月にアメリカの 国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum, IDPF)電子書籍フォーマット EPUB の規格を発表しました。

詳細は後述しますが、

などの理由で、現在では電子書籍の標準的なフォーマットとして定着しつつあります。 同じ年に、Amazon電子書籍リーダーKindleが発売されましたが、こちらは独自のデータ形式(.mobi)が使われています。

2010年: アップルがiPadを発売、電子書籍元年といわれる

2010年にアップルからiPadが発売されて、それまで徐々に普及しつつあったスマホに加えてタブレットという存在が一般的になり始めたのがこの頃です。

時を同じくして日本でも、Sony Reader、GALAPAGOSなどの電子書籍リーダーが多数発売され、またBOOKWALKER、TSUTAYA GALAPAGOSなど電子書籍ストアが多数開設されたことから、2010年は日本における電子書籍元年と言われたりしています。

まとめると、 電子書籍の要素技術は、Web技術の発展とともに発展し、スマホタブレットなど手軽に持ち運べるデバイスの普及をきっかけに電子書籍も普及しだした」 といえると思います。

EPUBの歴史

前の章では電子書籍フォーマットの歴史をざっくり見ていきましたが、ここでは電子書籍フォーマット EPUB に絞った歴史を整理していきます。

ちなみにEPUB「Electric Publication(電子出版物)」 の略で、「epub」「ePub」などと記載されることもありますが、正式名称は「EPUB」で拡張子は .epub となっています。

EPUB 2.0 発表

前述のとおり、2007年9月にアメリカの 国際電子出版フォーラム(International Digital Publishing Forum, IDPF)EPUBの規格を発表しました。

jpegなどの画像ファイルやPDFのように紙面をそのままデータとして再現できる方法は選ばず、ディスプレイサイズによってページを動的にレイアウトしなおす「リフロー」という技術を実現しつつ、HTML、CSSなどデバイス間の互換性の高いWeb標準技術を採用したいという意図から、XHTML, CSS, XMLをzip圧縮する」 という方向性がとられました。

EPUB 3.0 発表

2011年10月に発表。ベースとなっている技術はHTML5とCSS3です。EPUB2.0では縦書きやルビなど日本語独自の要求に対応していなかったため、シャープのXMDFや.bookといったフォーマットも存在感を持っていたらしいですが、EPUB 3が発表されたあとの現在ではあまり聞かなくなったように感じます。

EPUB 3.0の主な新機能は以下のとおりです。

  1. 国際化: ルビ、縦書き、縦中横(例えば縦書きの文中に、横書きの数字二桁を入れれるようにする)、右綴じの指定などが可能
  2. マルチメディア対応: HTML5がベースとなったので、videoやaudioタグを使用できる
  3. JavaScript対応: JavaScriptを埋め込める。ただし、開発者はJavaScriptが動作しない環境でも書籍が読めるようにケアする必要がある
  4. 固定レイアウト: リフロー形式を必要としない漫画や写真集、雑誌、絵本などは固定レイアウト型として作れる

より詳細なepub 2.0.1と3.0の違いについては以下を参考にしてください。

IDPFからW3Cに移管

2017年2月1日に、W3CとIDPFが統合され、EPUBW3C管理下に置かれることとなりました*4

もともとEPUBはHTMLやCSSなどWeb標準技術がベースになっていたので、そのWeb標準技術の仕様策定を進めるW3Cとはもともと協業関係にあったことから、組織を統合することによってEPUBの仕様策定を効率化することが目的となっているとのことです。

さいごに

記事の内容を3行にまとめると、

ということで、次回はEPUBの技術的な部分について深掘りしていこうと思います。長々と読んでいただきありがとうございました。

参考文献