こんにちは、プロダクトマネージャーのたけまさです。
今回はプロダクトマネージャーの等級要件を作り直した話です。強力なマネジメントツールである等級要件の効果を紹介しつつ、今回の設計思想やアップデートの狙いを紹介します。
はじめに
今回の改定にあたり「他社のプロダクトマネージャー等級要件」を調べたところ、ほとんど公開事例がないことに気が付きました。
SmartHRのミッション「労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」的に解釈すれば、この情報不足は課題ということで事例公開します!
まだ私たちは30人くらいのPM組織です。マルチプロダクト戦略に挑戦中で、正解など持っていませんが模索の過程がお役に立てば幸いです。私たちもPM組織を強くすることに日々知恵を絞っているので、ぜひイベントや勉強会にもお声がけください。策定プロセスも後日公開予定です。
マネジメントツールとして、等級要件の効果
そもそも等級要件なんて必要なの?
そう疑問に思われる方もいるかもしれません。実は非常に強力なマネジメントツールです。
個人のマネジメント観点
- 社内における職種のあるべき姿(ToBe)を定義できる
- マネジメント対象メンバーの現在の姿(AsIs)の判断軸にできる
- あるべき姿と現在の姿を比較して、差分(Gap)を定義し、育成できる
組織のマネジメント観点
- 職種単位で個人の力を束ねて、組織力の方向性を揃える
- マネジメントや育成で上長の属人性を下げ、その品質を標準化する
- 事業ドメインや社内の勝ちパターンを定義し、ヒトの立ち上げを高速化する
職務能力のマネジメント観点
- 市場環境や事業フェーズによって「正しいとされるもの」は変わる
- 職種のあるべき姿も更新が遅れないよう、先手を打つ必要がある
また、職務の遂行に大きな変化を求められる場面でも、報酬に紐づく等級要件は強い変革能力を持ちます。 例えば、「変化を要求される場面」には次のような事例があります。
- 事業成長にヒトの成長や意識変化が追いつかない
- 事業のピボットやフェーズ変化で「勝ちパターン」が変わった
- M&A後の組織の基準を統合する
- 社会変化や技術革新で競争ルールが変わった
作り直しのきっかけ
きっかけは24年夏、全社バリューのアップデートです。私からCPOのadachiさんに「等級要件にも課題を感じているので、このタイミングで改善提案していいですか?」と気軽に相談したのが始まりです。
プロジェクトオーナーはadachiさんにしてもらい、私は主に企画とPjMを担当、人事やPMみんなに協力をしてもらいました。手前味噌ですが、個人の課題と組織の課題が一致していれば、制度に対してもボトムから提案ができるSmartHRは面白い会社です。Well Working !
SmartHR等級要件の前提
等級要件は【入学要件】で、すべて再現性があると認められて昇格します。 従業員の等級は7段階あり、7等級が最も高く等級が上がるほど、影響範囲の広さ、専門技能の深さ、そして変革が求められるようになります。
会社紹介資料にも等級制度の記載がありますので、ご興味があればご覧ください。
今回はニーズが高そうな3つの等級範囲をピックアップして紹介します。
では旧・等級要件から見ていきましょう。
旧・プロダクトマネージャー等級要件
旧要件は以下の通りです。
3等級:方針を理解して自律駆動できる人
- 他のPMの指導を受けながら、プロダクトマネジメント業務をひと通り遂行できる
4等級:周囲を巻き込んで成果を出せる人
- 下記すべてが継続されていること
- [成果] プロダクトマネジメント業務を自律的に遂行し、継続的に成果を出せる
- [協働] 開発チーム内でリーダーシップを発揮し、他職種のメンバーをまとめられる
- [影響力] レビュー、情報共有、外部発信などを通じてPM組織に貢献できる
5等級:周囲の模範となり専門領域を牽引できる人
- 下記のうち3点以上が継続されていること
- [統括] 複数のPMが関わる広範囲のプロダクトマネジメントを統括できる
- [熟練] 4等級と比較して明らかに1段上の成果が出せる、または4等級1.5名分相当の仕事を破綻なく回せる
- [実行] 部署やプロダクトを横断した取り組みを円滑かつ迅速に主導できる
- [更新] 仕組みや手法を改善したり、新しく取り入れたり、やめたりすることで自チーム以外にも良い影響を与えられる
- [育成] 3〜4等級のPMを指導して成果を伸ばせる
- [希少性] 特定領域において高い専門性を持ち、他のPMに対し技術的な支援ができる
以上
課題は「内容の抽象度が高い」
旧要件は内容の抽象度が高めでした。具体的にどのような課題があったかというと…
以下のような声がPMメンバーへの課題アンケートでも多く寄せられていました。
メンバーの観点
- 自分が成長するためのAsIs/ToBe/Gapが描きにくい
- 現在地と目指す場所が曖昧で、具体的な登り方が分からない
- そもそも等級要件をそれほど意識したことがない
マネジメントの観点
- 要件の抽象度が高いと解釈の幅が広がるため、メンバーの育成やフィードバックに上長自身の得意や成功体験によるバイアスが入りやすい
- 上長の交代でメンバーの育成方針やフィードバックに一貫性がなくなる可能性を防ぎたい
良い点は「5等級から選択性で自分の強みを活かせる」
4等級までは共通の登り方ですが、5等級からは自分の強みを活かした選択性のある登り方が可能でした。 これはPMメンバーからの評判が良く、「その人らしく」を大事にするSmartHRらしい特徴でした。引き続き活かしていきたいと思いました。
新・プロダクトマネージャー等級要件
新等級要件の改定コンセプト
- 旧等級要件をベースに、抽象度の課題を中心に改善すること
- 求める要件の軸を揃えて、等級間で期待の違いを明文化すること
- 現在のマルチプロダクト戦略推進で重要な要素を組み込むこと
新要件は以下の通りです。
3等級:方針を理解して自律駆動できる人
- 下記すべてが継続されていること
- 課題設定
- 担当プロダクトのPRDを作成できる
- ヒアリングやデータから情報を集め、改善策を提案できる
- 複数の課題を比較し、優先度を提案できる
- プロセス設計
- 他PMのサポートのもと、プロジェクトのゴールとマイルストンを設定して推進できる
- 実行推進
- 担当プロダクトの開発チームやPMMと自律的に連携できる
- 課題設定
4等級:周囲を巻き込んで成果を出せる人
- 下記すべてが継続されていること
- 課題設定
- 半年以上のプロダクトビジョン、ロードマップ、OKRを策定できる
- 高い顧客解像度を持ち、要件を幹枝葉に切り分けてスコープを調整できる
- 開発アイテムの投資対効果を説明できる
- プロセス設計
- プロジェクトのゴールとマイルストンを設定し、予実管理ができる
- 開発した機能の仮説検証・定量分析・振り返りができる
- 実行推進
- 部署やプロダクトを横断した取り組みを円滑かつ迅速に主導できる
- 与えられたテーマで新機能のディスカバリー(調査 / 企画 / 開発判断の社内調整)ができる
- 組織貢献
- 学びの共有、レビュー、外部発信などを通じてPM組織に貢献できる
- 課題設定
5等級:周囲の模範となり専門領域を牽引できる人
- 下記すべてが継続されていること
- 1年以上のプロダクトビジョン、ロードマップ、OKRを策定できる
- 与えられたテーマでプロダクトや領域、職能を越えた変革を推進できる
- マーケットや売上数値などのビジネス観点を持ち、Bizと適切に議論できる
- かつ以下3つのスキル類型のいずれかを満たしていること(各類型の要件はAND条件)
- [汎用スキル]
- 大規模フィーチャーや横断開発プロジェクトのゴールとマイルストンを設定し、予実管理ができる
- 新プロダクトや横断機能のディスカバリー(調査 / 企画 / 開発判断の社内調整)ができる
- 仕組みや型を作ることで、個人のスキルやハードワークへの依存を減らせる
- 全体最適やアウトカム向上のために、他職種に対して改善を提案・サポートできる
- [専門スキル]
- 技術的な専門性やドメイン知識など、社内で希少性の高いスキルを発揮することで、PM全体のケイパビリティを拡張できる
- [マネジメントスキル]
- メンバーを直接マネジメントできる
- メンバーの担当プロダクトの問題を解決し、成果を底上げできる
- 後任のチーフを育成できる
- [汎用スキル]
以上
改定にあたり大事にしたこと
旧等級要件と新等級要件で要求レベルは変えないよう注意しました。
内容の具体性を大きく向上させ、メンバーやマネジメントが共通認識を持ちやすい形に改善しました。
それによってこんな効果を期待しています。
- 等級要件がメンバーの成長と組織運営を支える基盤として活用可能になること
- 等級要件がPM組織の共通言語となり、マルチプロダクト戦略の加速に寄与すること
おわりに ~ 等級要件を超え続けたい ~
等級要件は、社内外の先人たちが切り開いてきた「活躍の足跡」だと考えています。
言い換えれば、未踏の活躍を成したPMの姿は、まだ記載されていません。
きっと1〜2年後には誰かの新しい活躍で要件は更新されるでしょう。
自らが先人となり、等級要件を超え続けたいですね!
SmartHRではプロダクトマネージャーを募集しています!
SmartHRでは引き続きPMの採用に注力しています。
PM職に関する情報をまとめた記事も公開中ですので、ぜひご一読ください。
カジュアル面談のリンクなども掲載しております!