2024年10月31日、高田馬場経済新聞が発信する「馬場経ラジオ」ライブ配信100回記念スペシャルのゲストスピーカーとして、戸山公園野外演劇祭スタートに関わる4人のキーパーソンを招き、戸山公園野外演劇祭にはせる思いや「馬場×演劇」について話を聞きました。
※記事は、このライブ配信の音声を元に再編しました。
【ゲストスピーカー】
杉山俊司さん(東京都立戸山公園サービスセンター センター長)
太田英里さん(演劇ユニット「カンタロウ」)
松本一歩さん(演劇カンパニー 平泳ぎ本店 主宰)
吉田恭大さん(舞台制作者)
【聞き手】
伊藤白馬(放映新社)
森下ことみ(高田馬場経済新聞)
森下:この4人がいなければ、戸山公園野外演劇祭は今、ここまでにはなっていなかったという方々に話を伺います。まずは自己紹介から。
杉山:戸山公園サービスセンターでセンター長をしている杉山です。
松本:早稲田のまちに暮らして17年、長く早稲田のまちに世話になっていています。杉山センター長が出された戸山公園で野外演劇祭参加者募集の情報を目ざとく見つけて一番乗りで申し込んだ者です。
太田:演劇ユニット「カンタロウ」の太田英里です。早稲田大学在学時に演劇活動をしていて、戸山公園にも通っていました。今、野外演劇祭が行われている場所で公演がしたいと公園に問い合わせたところ、杉山センター長に親身に相談に乗っていただき最終的に共催というかたちで野外演劇を上演させていただきました。
吉田:昨年10月から早稲田小劇場どらま館で制作をしています。着任して間もない頃、戸山公園野外演劇祭が開催されるという高田馬場経済新聞の記事を見て、何か手伝えることがあればと戸山公園さんに連絡しました。見学会のセッティングのほか、後方で協力したりしています。もともと早稲田大学で演劇をやっていて、当時ゲリラ的に野外劇を上演したりもしていました。関わらせていただいて良かったなと思っています。
森下:杉山センター長から、戸山公園野外演劇祭開催に至った経緯を。
杉山:2021年、コロナ禍で飲食も演劇もコンサートも何もかも自粛という時に、太田さんからセンターに電話があったんです。「あの場所で演劇公演をやりたい」と。それがきっかけでした。
太田:当時、私は大学4年生でした。コロナ禍で演劇サークルの公演が全然できなくて、卒業という年も、まだまだ劇場での上演は難しい状況でした。でも野外だったらできるんじゃないか、稽古をしたり遊んだりしていた「あの場所」ならと思いつきました。それで、どうしたら使えるのか、まずウェブで調べてみたのですが、都立公園でイベントを行うには申請や利用料が必要だということで…。どうしていいか分からなくなり、思い切って電話しました。
その電話に杉山センター長が対応してくださって、「一度、事務所に来てください。話をうかがいますよ」と言ってくださった。今、考えると断られても当然の問い合わせだったと思います。
杉山:断ることは簡単だったんです。でも話を聞いて「これはむげにはできない」と。それで東京都の担当者に掛け合い、協議をして、「万全な感染対策をするなら」ということで共催の許可を得ました。
そうして実現した上演の日、演者も観客もみんながすごく楽しんでいらした。それだけでなく、たまたま通りかかった人が興味深そうにご覧になったり、立ち止まって最後まで見てくださったりする方もいらっしゃった。もう目からうろこが落ちる思いでした。
早稲田大学のサークル「演劇ユニットカンタロウ」公演の様子(提供=戸山公園サービスセンター)
杉山:実は、そこは公園の端にあって、なかなか人が行かない場所だったんです。ですが陸軍戸山学校の演奏場であったり、状況劇場の唐十郎さんが「腰巻お仙」を電撃的に上演したり、さらに350年前には尾張徳川家の下屋敷であったりという歴史のある場所なんです。そこが歴史的資産であるにもかかわらず公園として有効に活用できていなかった。
その場所をこんな使い方をすることで、こんなに良い影響があるのかと。これがヒントになりました。皆さんの資産資源としてこの場を活用して、もっとみんなが、この街が、元気になるようなことをしたいと思ったんです。
森下:太田さんたちの活動が戸山公園野外演劇祭の始まりのきっかけになったそうですよ。
太田:誇らしいです。誇らしいのですが…遊び場だったあの場所でやりたいなという軽い気持ちでし、場所を貸してもらうだけのつもりでした。そこまで親身になって一緒にやっていただけるとは思っていませんでした。
そして私はやりたいことをやって大学を卒業して、やりっぱなしだったわけですが、演劇祭が始まったことを知って感動しました。
森下:杉山センター長は、とにかくきっかけは「カンタロウさんなんだ」と繰り返し繰り返しおっしゃっていて、今日はどうしてもカンタロウの太田さんに来ていただかなくてはならないと。
杉山:本当にカンタロウさんの演劇にヒントを得ました。これは良いチャレンジになるぞと思いました。今日は、お会いできてうれしいです。
杉山:こうした経緯で、令和5年度の事業として企画して募集を開始したんです。ところが秋になっても全く反応がなかった。正直「これはやばい」と。本当に困り果てて…「そうだ高田馬場経済新聞さんがあるじゃないか」とひらめいた。もうわらをもつかむ気持ちで(いやわらにしてはいけないですね)相談に行きました。そこで編集長に僕らの気持ちや心意気を理解いただけた。これが1つ目の節目になりました。
森下:センター長の心意気が私にも伝わり、「わらはわらなり」に、できることは何かと考え、とにかく記事にさせていいただいた。それが吉田さんの目にとまったということですよね。
野外演劇祭参加を呼びかける杉山俊司センター長
「戸山公園野外演奏場跡地で演劇祭 地域から参加団体を募集」(2023年10月16日配信)
吉田:はい。正直、あまり集まっていないんじゃないかという気がして…。実際、連絡して聞いてみたらその通りだった。それで合同見学会をやりましょうと提案をしたのが12月でした。演劇の好きな人たちの間であの記事が拡散されていたことで私も情報をキャッチできたので、興味を持つ人はたくさんいるだろうと思いました。
杉山:この見学会に11人が参加し、3団体に上演を決めていただきました。これが怒濤(どとう)の変化につながりました。
「戸山公園野外演劇祭」合同見学会の様子(2023年12月3日)(提供=都立戸山公園サービスセンター)
松本:すごい巡り合わせですよね。太田さんがいて、杉山さんがいて、折よく吉田さんが早稲田での仕事に着任されて。おかげで私は野外劇を実施することができた。今日も会場に演劇関係の人がたくさんいらっしゃっていて、私が想像している以上に早稲田や高田馬場の街を演劇という文脈で盛り上げている方がたくさんいらっしゃるのだと。このことをすごいなと感じます。
吉田:杉山さんが打ち合わせの時に、平泳ぎ本店とルサンチカの2劇団からアプローチがあるとおっしゃっていて、それで確信を得ました。「さすがは、平泳ぎ本店! ちゃんと目を付けている」と思いました(笑)
松本:ルサンチカを主宰する河井朗(ほがら)さんはロンドンでも活躍されている方ですしね。意欲のある若い人や次世代の担う才能ある人たちが集まる場所にして、下北沢から演劇の街というイメージを横取りしていこうという話ですよ。次の演劇のまちをつくっていく既成事実を今積み重ねているわけです。
伊藤:いいですね! 言葉に出せば本当にそうなっていきますから。
杉山:徐々に定着しつつあると思います。松本さんには平泳ぎ本店の公演のために制作した所作台や客席の無料貸し出しなど他の参加者への協力もいただいています。
平泳ぎ本店がクラウドファンディングで呼びかけて制作した所作台
(戸山公園野外演劇祭第6弾「若き日の詩人たちの肖像」より)
伊藤:整えた男ですね。
松本:そう言われると、もっと整えたい(笑)
所作台や客席の製作には、クラウドファンディングで演劇界の心ある方たちからたくさんの応援を頂きました。戸山公園がそういう広場を作ろうとしている、そこに人が集まっている。そのことを知ってもらうきっかけにもなりました。若い人にぜひ、野外演劇をやってほしいんですよね。そのために私たちはありとあらゆる手伝いがしたいと思っています。
太田さんもあの場所に帰ってきてください。次の野外演劇をあそこから発表してください。
森下:松本さんはもともと野外演劇というものに魅力を感じていると。野外演劇の魅力とは?
松本:野外演劇の魅力? 雨が降ったり風が吹いたりしますよ。何しろ相手が自然ですからままならない。ゾクゾクしますよ。お客さまには申し訳ないと思いますが…どうですか吉田さん?
吉田:いや野外公演はアクシデント込みですから、それはむしろご褒美ですよね。
伊藤:変わった人しかいない(笑)
吉田:そういうアクシデント込みで楽しめる。
松本:やっぱり、野外演劇の何が良いって、四季があることですよ。
伊藤:俳優はそういうのが大好きですよね。雨が降ってぬれてアドレナリンが出てきて叫ぶとか大好きな、訳が分からない種族なんですよ。
松本:そうですよ、舞台上で本水を降らせるって大変なことですから。その点、野外は本水、使い放題ですよ。
吉田:制作と舞台監督の胃が痛くなりますけどね。「え、本水使うんですか…」と。
森下:平泳ぎ本店さんは日没を挟む時間に上演された。あの演出も素晴らしかった。
平泳ぎ本店「若き日の詩人たちの肖像」の日暮れ時のワンシーン
松本:1日に1回しかない、たそがれ時、マジックアワーを使ってね。
伊藤:しゃべり口はレッドブルを5本くらい飲んでる感じだけど、演出は繊細なんですね(笑)
松本:どういうこと(笑)
吉田:これまでの上演作品はほとんど見ているんですけど、だんだんセンター長の前説がうまくなっている(笑)。箱根山の由来や演劇祭について説明されるんですけど、やる度にうまくなっている。これは本当にすごい。
杉山:ありがとうございます。それは僕自身も感じていました(笑)
戸山公園野外演劇祭第9弾 茉白創社「この六尺が、消えるまで」での杉山センター長の前説
伊藤:継続は力なりって言いますからね。
杉山:続けることは大事です。
松本:私の公演では上演後、バックステージツアーと合わせて観客の方々と箱根山登山をしていたんですが、杉山センター長が頂上でその由来をうなってくれるんですよ。「ここは元はと言えば尾張藩の下屋敷だったところで、なぜ箱根山と呼ばれるようになったかと言うと…」って。それが毎回良くなるんですよ。「あー見事だなー」と思って。
平泳ぎ本店「若き日の詩人たちの肖像」終演後の箱根山登山
吉田:話芸ですよね。
松本:話芸! 話芸! われわれ俳優が見習わなくてはいけない。
伊藤:なるほど。戸山漫談だ。
松本:天候やお客さまのコンディションを見ながら毎回、話を変えるんですよ。
伊藤:プロじゃないですか。
松本:はなし家ですよ。ぜひ、観劇に来た方には、センター長の前説と箱根山由来を聞いてもらいたいですね。
伊藤:じゃあ、2演目だ。
吉田:箱根山由来縁起という演目があって。
伊藤:そのあとに公演があると。べた褒めですね、センター長。
杉山:松本さん、何かお願い事でもあるんじゃないですか?
松本:いや、そう簡単にははしごは外させないっていう気持ちは強くありますけど(笑)
でも、杉山さん存在がなかったら、こんな風に戸山公園や高田馬場のまちを中心にして「演劇文化の醸成を」なんてことはできないですからね。そのきっかけを作ったのは若者の力ですよ。太田さんであり、第1回公演も学生でしたよね。戸山公園が解放区ですよ。解放区っていうのは新宿区の伝統ですから。
杉山:おかげさまで、1月から6月までで8団体23公演で800人を動員できました。しかも、20代から70代までの方が来てくださっている。さらに、戸山公園に来たのは「初めて」「月に1回以下」という方が95%でした。これは新しい層の方に高田馬場の街や戸山公園に来ていただいたことになります。
夏の間はお休みしていましたが秋に再開します。既に8団体から問い合わせがあります。吉田さんに企画していただいた2回目の現地見学会でもいろいろな方に来ていただきました。この演劇祭が定着してきたなと感じています。松本さんの思いがつながってきたなという感じがします。そして次回公演では舞台の裏方として松本さんが手伝ってくださることになっています。
松本:もちろんやりますよ! インパクトドライバーさえあれば所作台は敷けますからね。
伊藤:舞台俳優はインパクトドライバーが使えますからね。
第2回「戸山公園野外演劇祭」合同見学会でインパクトドライバーで所作台を敷く松本さん(2024年9月29日)
松本:太田さん、これは太田さんがまいた種ですよ。それが広がってつながっていっている。ものすごくうれしいです。感謝してます。
太田:私もすごくうれしいです。すごいと思います。
森下:吉田さんは「早稲田演劇」という言葉を使ってらっしゃる。これは伝統的に使われてる言葉ですか?
吉田:あってないようなものというか…。早稲田大学には歴史あるサークルがいろいろあって、いろんな人がいて、有名な俳優さんも出ています。そういう歴史はあるんですけど、今、活動をしている学生さんたちと、当時のレジェンドみたいなところは直接的には結びつかない。結びつかないんだけれども、世代ごとに面白い人たちがたくさん出てきている。そういう人たちが有機的につながって見えるようなアプローチができたらいいなと思っています。
松本、今、吉田さんは、そういうネットワーク化みたいなことにも尽力してくださっていると感じています。吉田さんが「どらま館」の制作として着任されたことは本当に明るい材料なんですよ。
森下:戸山公園の軍楽隊演奏場跡地という無料で使える歴史的な舞台がある。早稲田大学関係者に限らず演劇人にとって大きなメリットだと思います。実は白馬さんもやってみたいと思っていらっしゃるらしいんですよ。
杉山:ぜひ、やってくださいよ。
伊藤:やりますよ! 実は頭の中にプランはあるんですよ。
森下:あっという間に、時間になってしまいました。最後に一言ずつお願いします。
杉山:1月から6月までで、おかげさまで800人の方を動員できました。この秋から来年6月ごろにかけて、第2弾をやっていきます。今何となく定着しつつあって、申し込みも頂いていますが、もっともっといろいろな方々にチャレンジの場として使っていただきたい。老若男女問わず、演劇以外のエンターテインメント、何でもいいと思います。近隣の方、公園利用者、街の人たちみんながハッピーになるような形でやっていけたらいいなと思っていますので、ぜひお問い合わせください。
太田:上演したのは沖縄をテーマにした話だったんですけど、劇場では自然を表現するのはなかなか難しい。でも戸山公園は自然がそのままそこにある。空も高いし風が吹いて風の音がする。それがとっても良いと思います。ぜひ、続けてください。お願いします。
松本:戦後からアングラの時期を通じて新宿区の解放区の気風というものが残るとすれば、戸山公園野外演劇祭だと思うんですよね、そこで若い人たちが、思うように自分たちの表現を試す場所になることが、すごくうれしいことですし応援したいです。
先日、野外演劇祭の特集記事に軍楽隊が演奏している野外演奏場の写真がアップロードされていて、それを見てびっくりしたんですよ。想像の4~5倍くらい多い人が、あの場所に集まって軍楽隊の音楽を楽しんでいる。あの場所のポテンシャルはもっと高いんだなと思ったんですよ。だからここをもっとたくさんの人に知ってほしいですし、もっとたくさんの人に活用してほしい。そこに場所があって、人が集まって、活気が生まれる。これはすごく大切なことです。
陸軍戸山学校軍楽隊 演奏の様子(提供=新宿歴史博物館)
もちろん自分たちの公演もさせていただきますけど、ほかの方たちの力にもなりたいと思っています。これからもっともっと戸山公園野外演劇祭というものが盛り上がっていくことを心から望んでいます。
吉田:半年やってみて、キャリアのある団体のチャレンジの場としての可能性が見えてきた。一方で、友達とちょっとした発表ができる場、気軽に上演ができる場でもある。小屋代かかりませんからね。そういうポテンシャルがあるんじゃないかなという気がしています。
杉山:それ、ありです。
吉田:だから演劇に限らなくても、リーディングとか、もっとパフォーマンス寄りのことでも、気軽な発表の場所として、あの場所が使えるという可能性がある。そんな実績を増やすことも大事だと。
杉山:はい。スタッフだけでは対応できなくなりますので、よろしくお願いします。
吉田:大丈夫ですよ、戸山公園で、こういうことができるよっていうことを、いろいろな人が見て知っていけるようになれば良いんじゃないかなと思っています。
伊藤:太田さんやセンター長の思いから始まって、こうやってあの場所で何か作りたいという人たちが集まってきた。僕は平泳ぎ本店の公演を見にいったときに、「こんなにお客さんがいるんだ」とびっくりしたんですよ。「すごいな」って。演劇はお客さんが入って完成するもの。お客さまを集めることがいかに大変かということは日頃から痛感しているので。こうやって馬場経ラジオで配信ができるようになったこともそうだし、そういうことも劇場に足を運んでもらえるきっかけになったら良いなと思っていますので、みんなで盛り上げていってほしいなと思ってます。
松本:駄目です。白馬さんも一緒にやるんです。やりましょうよ!
伊藤:僕も頑張るから、みんなで頑張ろうよという呼びかけです。皆さんのことは「馬場×演劇」の同士だと思ってるので、みんなで頑張っていきましょうよ。みんな友達なんで。
松本:頑張っていきましょう!
森下:コードネームは「ともだち」、ポテンシャルとしては「下北には負けないぞ」ということで、これから、みんなで頑張っていきましょう。ありがとうございました。