午前3時をまわった頃だっただろうか。
夢見心地で目覚めた僕はトイレに起きた。
なぜ自分が起きたのか分かっていた。
幼い日のことを夢に見たせいで起きたのだ。
そこから僕は眠れなくなってしまい、どうにもこうにも眠れず、
しばらくの間まんじりともせずに一人で悶々としていた。
夜はそこかしこに形の無い幻想を想起させては闇にそれを溶かし、
あらたな幻想を想起させる。
夢の中で母は若かった。
僕は小さな子供だった。
家族で住んでいた社宅があった。
夢で見た僕は満面の笑みをたたえていた。
夢の中で小さいころの僕が写った写真を見たときに
その写真の背景に映った建物の窓に何故か
もう一人の幼い僕と若い母を見つけたのだ。
懐かしさに気持ちが浮き立ってしまい、
目を凝らしてそれを見ようとすればするほどに
僕と母の顔はうっすらとぼやけてしまう。
見れば見るほどに輪郭さえもぼやけてそれがもはや
僕なのか母なのか分からなくなってしまう。
そんな夢だった。
手にできるものこそが良いとは限らないが、
出来るならば手に入れておきたい。
そう思えば思うほどそれらは輪郭を失い、
僕の記憶のなかから滑り落ちていった。
僕は隣に眠る5歳の息子を見ながら涙ぐんでしまう。
おそらく僕は君に嫉妬しているのだろう。
小さな僕の満面の笑みを見た時に
どうしようもないやるせなさを感じてしまう僕は
理想の大人なんかじゃない。
戻せない時間の残酷さ。
人生を折り返してしまった男の後悔の多い日々を思うと
それだけで胸が痛くなる。
小さな頃、僕は幸せだったのだと思う。
サラリーマンの父がいて、専業主婦の母がいた。
家はそれほど裕福ではなかったが、
父と母の愛情を受けて育った。
まだ幸いなことに父も母も健在でいてくれる。
僕はこういう幸せを享受できていることは非常に嬉しいことだ。
父も母も僕も、齢をとっていくという状態をどう向き合えば良いのか分からなくなる。
二度とは帰らない日々を苦々しくも憧憬をもって思い返す日が来ると思うと
それに耐えられるか分からなくなる。
だから眠れない夜には幾ばかりのアルコールが必要なんだと思う。