「世界を舞台に働くときに必要なのは、まず語学力。でも本当に重視されるべきは、働き手それぞれが、必要とされる生産性を達成できるかということ。そして、そのためには現地の文化を知り、適応するための合理的な感覚が必要です」
これは、とあるヘッドハンターの言葉。国境を問わず活躍できる場が拡がっているいま、ぼくたちに必要なものが何かと問うたときに答えてくれた第一声でした。
日本のウェブメディア編集に日々取り組んでいるぼくが、なぜ"国を越えて働く"を考え始めたのか。きっかけは、IBMが現在展開しているブラウザゲーム「海外戦略ゲーム」でした。
いま「国境を問わず活躍できる」はむしろ、「国境を問わず活動しなければならない」ということなのかも。ゲームの詳細を、ヘッドハンター氏との対話とともに紹介します。
IBMはなぜ、ゲームをつくったのか
「真のグローバル企業を目指せ!」と銘打たれたこのゲームでプレーヤーに与えられる役割は「赤字事業を立て直すためのグローバル展開を任された、プロジェクトリーダー」。ルーレットを回しひとコマひとコマ進んだ先に待つゴールで"輝かしい成功"を勝ち取るのが目的です。
"赤字"発進というのが世知辛くも現実的ですが、毎回立ち止まるコマに待ち受けるのも「強敵あらわる!」「日本語ですか?」「駐在員も大変だ」などといった"海外事業あるある"。
もちろんポジティブなコマもあって、出世や成功を重ねながら利益を上げ、ゴール地点での最終損益を競うわけです。
3つに分けられたステージの要所要所では、「運命の分かれ道」と名付けられたコマが用意されています。そこで紹介されるのは、IBMが提供しているグローバル企業に対するコンサルティング内容(「海外展開での成功の秘訣」とでもたとえればいいでしょうか)。ゲーム時間は実質、ほんの3分程度。しかしながら、蓄積された知恵にふれることができるのが特長です。
そして、ぼくがそのゲームをともにプレイしてみたのが、冒頭に紹介したヘッドハンター氏。外資系のクリエイティブ企業を中心にクライアントにもつ小島幸代さんです。
小島さんは、ライフハッカーでもキャリア考の記事を執筆していただいていますが、自身、広く世界展開している人事コンサルティングファーム勤務の経験もお持ちで、ともに"グローバルな働き方"を考えるパートナーとして最適だと思ったわけです。
グローバルに働くために必要な3つの問いかけ
戦略ゲームで紹介される事例の数々は、企業としてグローバル化に向き合う姿勢を教えてくれます。では、働き手として世界市場に立ち向かうためには何が必要なのか。後者についても、実はゲームから気づかされることがありました。以下、ゲームのコマ内に記されたメッセージとともに、小島さんの声を紹介します。
(1)その英語力には実践があるか
英語には自信があったが、現地スタッフとの電話連絡ではなかなか意思疎通ができない。現地なまりの英語にも悩まされ、仕事の依頼をしてもスルーされる...もしかしてバカにされているのか!?
(STAGE 1:「自信があったのに」のコマより)
「英語でコミュニケーションを取れると、何がいいのか。それはひとえに、スピード感が増すということですね。大事なツールですが、同時に"道具"でしかない。要は、現場で通用する道具としてしっかり使いこなせなければ意味がありません。
人事コンサルティングの業務の中で直面する採用のフローでは、海外に本社を置く企業でも、1〜2度の日本人マネジャーによる面談後、本国の役員とのテレフォン・カンファレンスを経て、本国へ渡ってもらいインタビューを受けてもらうこともあります。その後、前職の人間に書いてもらう推薦文を提出するなど流れはさまざまですが、共通しているのは、その英語が実践的なものかどうか。仕事の生産性を上げられるかが問われるので、現場経験、肌感覚として理解していないと、採用されることは非常にまれです。ゲームのコマにあるように"バカにされている"かどうかはともかく、しっかり伝えられる能力があるかどうかは必ず問われますね」
(2)カルチャーを理解できているか
採用した現地スタッフがなかなか会社に留まってくれない。離職率が高く、採用の度に研修コストがかさんでしまう...。
(STAGE 1:「簡単に辞めてしまう...」のコマより)
「こういう声を、私自身もよく耳にします。たしかに離職率を日本と比較すると、驚くほど高い国もあります。ですが、それも"そういうものだ"と理解することが大切です。戦略についても同様で、グローバル展開を考える日本企業はときに"攻めていく"という考えにとらわれがちですが、"入り込む・溶け込む"という方法論が必要なこともあるわけです。
20世紀オランダの人類学者ヘールト・ホフステードによる研究で、人のもつ職業に対する価値観がその国の文化と大いに関連していることが明らかにされていますが、仕事の捉え方は世界各国それぞれ違っています。それはまた、赴任先となった現地のニーズをいかに汲み取るかにもかかわってくる問題です。言葉の向こう側にある"意図"を理解しなければならないのですね」
(3)細かなことを気にしない強さを持っているか
これまで順調に売り上げを伸ばしてきていた国で、政治クーデターが勃発! 新政府においてもなかなか安定せず、撤退を視野に入れなければならない深刻な状況に。
(STAGE 3:「クーデター勃発!」のコマより)
「これ(突然の政変)、決して笑い事ではないと思います。日本以外の国においては、何が起こるか本当に分かりません。だから"強くあれ"、というわけではないのですが、ある種のしたたかさが必要とされるのが、グローバルな働き方だと思います。
それは、どういうことか。例えば、不退転の気持ちで海外事業に乗り出した先で退去をやむなくされたとき、帰国して何も残っていないのでは、どうしようもないですよね。大胆に動くとともに合理的に考え、蛮勇をふるわない姿勢が求められるわけです」
稼ぐ手段はこれでいいのか、自分たちは何がしたいのか
最後に。ともすれば「効率」と「生産性」が重視されるグローバル企業であっても、働き手が見逃してはいけないものがもうひとつあるという話を教えてもらいました。
「特に優れたグローバル企業では、世界中で通用する共通言語としてのルールづくりが徹底されていることがほとんどです。その最たる例が"数字"です。ひとりひとりに求められる利益水準と、その集合としての会社の利益が明確に数字になって共有される(数字は誤解を生みませんし、個人の"タレント"も公正に判断される。これも"合理的"ですよね)。
同時に、"価値を生み出す"ことが命題として掲げられるのです。数字ばかりを追求しては、必ず見失うものが出てきます。そのときに『自分たちが金を稼ぐための手段はこれでいいのか』『自分たちは何をすべきなのか』という問いかけを行えば、短期的な視野に陥ることはないということですね」
きっかけは、ゲームだった。そして、グローバルな働き方には合理性と生産性と、視野の持ち方に考えが至った。これからぼく自身が"グローバル企業"を目指すかどうかは分からないのですが、少なくとも思いをめぐらすツールになったことは、確かです。
(ライフハッカー[日本版]編集部)