単細胞生物から人間、鯨、樹高世界一のセコイアに至るまで、生けるものすべての生死を司る計算式というものが自然界には存在するのだそうです。
NPR司会者で科学記者のロバート・クラルヴィッチ(Robert Krulwich)氏がブログで紹介してました。
万物を生かし、死の時を告げる数式。
興味深いことに、これと同じ体系は、社会、経済など他の事象にも当てはまるんだそうな。しかも全部ひとつのマジックナンバーとも言うべき数で縛られているんです。面白いですね。
物理学者のジェフリー・ウェスト(Geoffrey West)博士はEdgeの必見動画(削除されてます)でこう解説しています。
[...] 例えばY軸に代謝率、X軸にサイズを落としていくとしよう。個々のシステムの多様性・複雑性、歴史的偶発性も作用するから当然、歴史・地理などに応じて点は座標上にバラバラに散ると思うよね。
ところが逆なんだな。点はとてもシンプルなカーブを描く。そしてこのカーブはとてもシンプルな数式で導き出せる。とてもシンプルな、べき乗則でね。このべき乗則はそれ自体も数学的にシンプルだが、それだけじゃなく指数も異様にシンプルで、4分の3にとても近い数なのだ。
こういうスケーリング(比例関係)が現れること自体も驚きだが、もっと重要なのはスケーリングが生態系の全生物、細胞内に至るまであらゆる生命に共通で現れていること。これがこのスケーリング則の実に衝撃なところで、細胞内から含めると生態系の全生物のサイズには30桁近い差がある、なのにそれが全部同じ現象を辿っているのである。
さらに生命体の生理に影響を与える生理的変数(肺全体に酸素が行き渡る速度、大動脈の長さなど)で調べてみても、人生史の出来事(寿命、成長までにかかる時間、成長率など)で調べてみても、非常によく似たスケールの仕方をするのだ。
つまりシンプルなべき乗則でスケールしている。
驚くべきことに、このべき乗則の指数は決まって¼乗というシンプルな数なのだ。データだけから導き出した結論だが、この異様にシンプルな数(4)がミクロからマクロまであらゆる生命体とあらゆる分類群を支配していることになる。
ウェスト博士は1930年代のUCデイヴィスの生物学者マックス・クライバー(Max Kleiber)博士が発見した「動物の代謝率は体重の3/4乗に比例する」法則に着目し、あらゆる生物や事象で裏とりをした名物学者です。
全生物の出生率・死亡率がサイズの−¼乗で寿命が¼乗なことを発見した「Allometric scaling of plant life history[植物の生命史におけるアロメトリー(べき乗則)式スケーリング]」などの研究とウェスト博士の話を総合すると、この数式はどんな生命体でも寿命をほぼ完璧に予想できるのだといいます。
特定のキリン1頭の死ぬ時期まではわからないけど、全キリンの死ぬ時期はわかるのです。個々のキリンは干ばつ、肉食動物との遭遇、DNAのランダムな突然変異などから様々な影響を受けますが、キリン全体で見れば寿命は決まってて、こればかりは避けようがないんですね。唯一この寿命を医療技術で克服した動物が人類、というわけ。
なんとも驚くべき世界観ですね。我々はみな見えざる手に支配されている、あらゆるサイズの生命体の命をクロックする数式に―。
ウェスト博士は「そういう数式があるのはわかったが、ひとつだけわからないことがある、それは『この数字が一体どこから来たものなのか?』ということだ」と話しています。
こういうことがただの偶然で起こるとは到底思えない。あるスケーリングに歴史や地理を超越した何かが現れていて、それは僕にも全哺乳類にもそこら辺に生えてる木にも、すべて適用できるのだ、外見はまるで違うのに...ということは生命体の進化後の構造までそこに映しだされている、という言い方もできるからね。
となると湧いてくる大きな疑問は、「この数が一体どこから来たものなのか? ある生体の構造について、これが示唆するところは何なのか? 進化が起こる際の制約について、その示唆するところは何なのか? 」という2つの点だ。この研究は、そこからすべて始まった。
上図は大小様々な植物の寿命予想値。
第2のポイント(これも同じデータから導き出したもので、同じ概念的枠組みで説明がつく) は、サイズが大きくなればなるほど万事遅くなる、ということだ。大きければ大きいほど長生きになり、酸素が様々な薄膜に行き渡るスピードも遅くなる。大人になるまでにかかる時間も長くかかり、成長が遅くなるが、それもこれも全て系統立てて数式化したり予測することができる。人生のペースは¼のべき乗則の通り体系的に失速していく。ここでまた社会生活、経済活動といった人生はどうなんだろう、という疑問に立ち戻ってしまうわけだが...。
僕はこうしたスケーリング則を解明する研究に関わったわけだが、横道の発見もあった。思いっきり短く言ってしまうと「これは万物の法則だ」ということだ。生命体の外見(デザイン)に関係なく通用する。虫でも魚でも哺乳類でも鳥でも同じスケーリング則が適用されるのだ。外見に縛られず。ということは、この法則は物事が振り分けられる構造と関係のある何か、ということになる。
仮に君が問題の所在を理解していたとしよう。君にはセルが10ある。問題もある。乱暴な言い方だけど民主的・効率的にセルを支えていかないといけないよね。いかに自然淘汰で解消されたとしても、それも結局は階層的ネットワーク形成による解決なのである。
もちろん生物学者からは「あの動物はどうなんだ!」「この動物はどうなんだ!」「単純化しすぎ」と非難轟々ですが、NPRのクラルヴィッチ氏は追記で「大枠で物事考えるのが物理学者だからね。ウェスト博士の¼乗則の研究は発表以来、科学者に1500回引用されている。大変な数だ。NYタイムズは『現代生物学で最も影響力のある論文』とまで呼んだ。イラッとくるかもしれないが、重みはあるのだ」と断ってますよ。
全学問を統べ、万物を司る、たったひとつの法則―考えるだけで胸熱。ワープドライブもいいけど死ぬ前に真相が知りたいものです...。
人生、宇宙、すべての答えが「42」というダグラス・アダムス(Douglas Adams)のジョークもあながち外れてないのかも。
Image by Yunfan Tan
Jesus Diaz(原文/satomi)