現在Appleの留守を守るクック氏は口数の少ない人ですから、サプライチェーン総括の手腕を吹聴するでもなし、ましてや自分の性的指向については口を閉ざしたままです。
が、ボスの不在が長引き、復帰目処が曖昧になるにつれ世間の注目は否が応にもNo.2に集まっています。今のAppleは世間に隔離された1980年代式のコンピュータ会社ではなく、出版・音楽・映画・インターネットサービス・広告・モバイル通信・コンピュータ機器・ソフトウェアの分野における最強プレーヤーのひとつ。企業もそのトップもカルチャーのアイコンですからね。
無口で冷静沈着なことで知られるクック氏も、これからは公私両面に渡りテック業界の語り草になっていきそうです。でもまあ、恐ろしいぐらい良い人と評判のクック氏なら、注目が高まれば高まるほどプラスに働きそうですけどね。
クックCOOの知られざる素顔に迫ります。
基礎データ
年齢50歳
職務Appleにおける肩書きは最高執行責任者(COO)。名目上のCEOスティーブ・ジョブズ氏が療養中は日々の業務を執行する事実上のCEOです。もちろんジョブズ氏はトップの肩書き・権限を保持していますから、これからも遠くから強い影響を及ぼしていくことが予想されます。
生い立ちクックはアラバマ州ロバーツデール出身、父親は造船所作業員。1982年同州オーバーン大学で工業エンジニアリングの学位をとり、1988年デューク大学でMBA取得。「Intelligent Electronics」というコンピュータ再販業者で働いた後、IBMのPCロジスティックス部門12年勤務、コンパック企業コーポレートマテリアルズ部門VPを経て、1998年Apple入社。事業部上級VPとしてコンピュータ製造を管理します。後に国際営業部とMacintosh部のチーフに昇進。
資産Apple株で1億3600万ドル相当の資産価値。
仕事
アップル入社の経緯入社は1998年。復帰間もないジョブズ氏の鞭打ち刑のごとき面接を無事耐え抜きました。
クック氏に会うまでジョブズ氏は事業マネジャ候補を立て続けに落とし、クック氏と同じコンパックからきた別の幹部の面接の時は5分で席を立っていったと伝えられます。クック氏の「動じない」態度が気に入ったのかもしれませんね。その場に立ち会ったリクルーターは後にこうWSJに話しています。「スティーブはとにかく自分と気持ちが通じる相手を探していましたね」
業績アップルの製造は効率が悪いので有名でした。早速クック氏はその合理化を進め最初のお手柄を立てます。まずサプライヤをAppleの工場に隣接する場所に配し、(「根本的に悪」だとクック氏が言う)インベントリーを31日から6日に減らしました。さらに、拡散したAppleの工場・倉庫は閉鎖し、メーカーへの委託にシフト。未発売の製品の需要も正確に予想できるよう、会社をサポートしたのです。
例えば2005年発売のNanoが大変な需要になると見るや、将来Apple製品に重要不可欠となる特定タイプのフラッシュメモリーを2010年末まで独占に近いかたちで仕入れられるよう、サムスン、Hynixなどサプライヤ各社に計12.5億ドル前払いしたのもクック氏のチーム。こうした事業改善努力のお影でAppleには機動力が備わり、2006年に全コンピュータをインテル製に変えた時のような抜本改革も迅速にできる素地ができたのです。
ジョブズ氏が2004年に2ヶ月、2009年に6ヶ月病気休暇を取った時にもクック氏が臨時のリーダーとなり、iPhone 4、iPadの開発を予定通り進め、Macintoshの販売を伸ばし、株価を回復しました。
性格死んでるように、静かで、穏やか。南部訛りで「へりくだる態度」なので、面と向かって逆らう部下もいません。大声張り上げたり絶対しない人。ですが、あのデフォルトのしかめ面でジッと黙ったまま相手を射すくめるように長く見つめる辺りに、押しの強いリーダーの資質が見え隠れします。
聞くところによると、Apple事業運営の細かい話は全部残らず頭に入っており、人にもそれを要求するそうな...。フォーチュンが2008年に特集した長文の横顔紹介で元同僚はこう言ってます。「人をズタズタにするところは自分も見たことありますね」、「相手が絶対答えられないのが分かってて、わざわざそういう質問を投げるんです。で、それを延々やるわけ。堪んないですよ。全く笑い事じゃないです」
習慣貪欲。仕事中毒。毎朝4時半には部下にメールを送り始めます。グルメで有名な社内カフェ(握りも中トロも!)には近寄らず、代わりにエナジーバーをエンドレスに買い込んで、会議中によくガツガツ貪り食ってるそうです。誰よりも早く出社し誰よりも遅く退社するのが自らの誇り。IBMにいた頃もクリスマスと大晦日に工場で働くのを自分から買って出たらしいです。
もちろん人にも自分と同じことを求めます。一度クパティーノのApple本社から部下を空港に直行させ、そのまま中国に飛ばした逸話は有名ですよね。その時は着替えを詰める時間も与えず、帰りの日付けも告げず、会議中「なんで君まだここにいるの?」とクックCOOが言ったそのひと言でグッバイ再見、でした。
短所製品の将来ビジョンを描くことが苦手。Appleの厳格な開発パイプラインを通過するよう事業のお世話をするのも苦手。そっちはやはりiMac、iPod、iPhone、iPadのトップデザイナー、ジョナサン・アイヴ氏がジョブズ氏の後継人でしょう。人の心を掴む講演も苦手。前にジョブズ不在中、Apple新製品の発表を切り盛りしたのが営業チーフのフィル・シラー氏だったのは、そのせいかもね。
未来Apple勤続13年。今の地位を考えると、当分は辞めないでしょうね。モトローラ、デル、もしかしてHPからもトップ起用の声がかかったやに聞きますが...。
プライベート
興味範囲仕事の鬼クックは運動の鬼でもあります。朝5時にはジムに行き、ハイキング道に頻繁に出没、自転車漕いでるクック氏はもっと頻繁に目撃されています。自転車野郎が神と崇めるのは、ツール・ド・フランスを7回制覇したランス・アームストロング。Appleの会議中もしょっちゅう彼の言葉を引用するし、CNNによるよ、なんとあの短い刈り上げの髪も実はアームストロングの真似なんだそうですよ? そ、そう言えば...。
ジョブズ同様、クック氏もボブ・ディランは大好きで、執務室のロバート・ケネディの写真の隣にボブ・ディランの写真を貼ってたことも(最低1度)あります。好きなフットボールチームはAuburn Tigers。家もオフィスも記念グッズで溢れ返っており、その忠誠心はApple以上かも!?
お付き合いのスタイルどちらかというと内にこもるタイプ。「あんまり人付き合いが得意な人じゃないです...他人には関心無い感じ。自分はすぐ人にハグしてキスしちゃうタイプなんだけど、ティムにはハグとかキスしてもギクシャクして終わっちゃう気がしますね」(大学の元クラスメート)
恋愛「生涯独身」、「プライベートは絶対明かさない人」という横顔を他媒体が紹介した時、僕らもなんとなくゲイじゃないかな...とは思ったんです。そのあと信頼筋の2人に聞いたら、やっぱりそうらしいですよ。クックCOOの性的指向については社内でも少し話題になっているようです。あるハイテク業界のエグゼキュティブがAppleの上の人から聞いた話では、カミングアウトしても経営陣はクック氏を応援するし、会社のリーダーになるんならむしろ公にするよう薦めていく姿勢らしいですけど、カミングアウトしてAppleのブランドイメージに影響が出るかどうかについては神経尖らせている、というお話でした。
オープンにゲイと認知されている人の中では、クックCOOはこれまでのところハイテク業界で最も影響力のあるエグゼキュティブです。次に有名なのがMicrosoft人事トップのLisa Brummel女史、PlanetOut元CEOで現Google新事業開発VPのMegan Smith女史(訳註:妻はウォール・ストリート・ジャーナルのAllThingsDのKara Swisher女史。因みにこのゴーカーの社主もゲイ公認です)といったところでしょうか。
交際相手不詳。長く付き合ってる相手がいるなら、かなり慎重に隠していることになります。でも あの殺人的スケジュールじゃ恋愛する暇どう見つけるの? という感じですよね。編集部に情報をくれたハイテク業界エグゼキュティブが言うにはアジア系男性が好み...とか。それをハイテク業界のオブザーバーの人に話したら、だったらGoogleのYouTubeのBen Ling氏と戦略的にくっつけたら両社の溝が一気に埋まるね...と言ってました。
人生最悪の思い出1996年に多発性硬化症と誤診断されたこと。結局間違いで良かったけど、あれで「世界を違った目で見るようになった」とクック氏は後に話しています。今はこの病気で闘う人たちのために義援金集めのお手伝いをしていますよ。
定番ルックナイキ役員兼務なので会社でもジーンズの下はナイキシューズ。
*ゲイ:レズビアンを含めた同性愛者の総称Ryan Tate(原文/satomi)