夢は夢のままで...
先週末のことでした。自分が開発を続けてきた飛行機に乗って、多くの人々が見守る中、上空から一気に墜落して帰らぬ人となってしまった事故がありました。地面へ激突後、勢いよく炎に包まれてしまい、壮絶な最期を遂げていったその一部始終を、地上からこの勇敢きわまりない飛行発明家のマイケル・ロバート・ダクレさんの挑戦を見守っていた相棒が、涙ながらに語ってくれましたよ。
まるで自家用車に乗る感覚で、ちょっと近距離にでも手軽に飛べる空中タクシーを!
そんな夢を描いて、プロトタイプの「Jetpod」の研究開発に半生を捧げてきたダクレさん。早ければ来年にも実用配備が目指されていたという、その期待のJetpodの未来生活イメージを、今となっては貴重な動画で偲びつつ紹介してみたいと思います。この夢は今後も受け継がれていくのでしょうか? どうぞ続きにてご覧ください。
53歳で実験飛行中に生涯を終えたダクレさんは、早くも1998年にイギリスでAvcenという会社を創設。巨大な空港施設を必要とするジェット機とは一線を画し、まるでヘリコプターのような感覚で、ほとんど滑走路を必要とせずに離着陸が可能なSTOL(Short TakeOff and Landing)スタイルの小型飛行機の開発に全精力を傾けるのでした。
「毎日、都会に向かう車の大渋滞にうんざりする人々を眺めていて、その頭上には自由な空間が広がっているというのに、なんとかこの空を手軽に飛んで移動できる、もっと近代的な乗り物はないものだろうか...と思いを巡らし続けてきました。そして、その現実的な答えとして、STOLを基本とする小型ジェット機の考案に至ったのです」
そう元気に話していたダクレさんは、Jetpodの初プロトタイプでの飛行に成功! その後も改良に改良を重ねつつ、わずか125メートルという短い滑走路でも、安全に離着陸できる仕様に完成させて、2010年には都市交通としての就航を果たしたいとのアグレッシブな目標を掲げてきました。
より自由度の高い研究開発環境を求めて、Avcenは、マレーシアの首都クアラルンプール郊外のテクノロジーパークに、Avcen Limited Malaysiaを設立。実際の飛行実験には、さらに奥地へと開発機を移動させて、地方空港から飛び立つテストを繰り返してきたそうです。
「ほぼ完成に近づいたJetpodの新開発双発エンジンのテストを行うため、今回も飛行実験に向かったのですが、あまり調子が良くなく、3度も滑走路から飛び立つことができませんでした。心配だったので、私も同乗してテスト飛行に臨みたいと言い張ったのですが、あくまでも操縦桿を離さず、私には地上に残っているようにと要請がありました」
そう事故当時の様子を振り返る相棒は、ペラ州タイピン地方での墜落事故に至るまでの経緯ついて、4度目のテストでは、勢いよく新エンジンが点火して、一気に200メートルほど上空へと舞い上がったのですが、そこで急に異変が起きて、実験現場で愛機もろとも粉々になり、ダクレさんが無念の死を遂げていったことを、悲しそうに思い出しながら語ってくれたのでした。
ちょっとしたショッピングモールの駐車場のような場所でも、わずか125メートルの長さの滑走路スペースさえ用意できれば、最高時速550kmで飛行する性能を持つとされた8人乗り仕様のJetpod! そのうえすぐ頭上を飛んでいたとしても、それほど騒音が気にならないという、驚きの静穏設計まで採用されてたんだそうですよ。今回の墜落死亡事故を受けて、その開発は大幅に遅れを取る見込みが示され、そもそもの発明を手がけたダクレさんがこの世を去ったことで、もはや実用化すらおぼつかなくなってきましたが、でも、なんとか残った人たちで、ダクレさんの遺志を継ぐ意味でも、Jetpodの完成販売にまでこぎつけてほしいものですよね。
亡くなったダクレさんを偲びつつ、ぜひこれからもAvcenを応援していきたいと思います...
Joanna Stern(原文/湯木進悟)