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「生殖医療って、科学って、すごいなあ」
科学、とりわけ生殖医療の進化ぶりに感心しきりの庄司智春。
しかし論説委員の大牟田透は言った。
「庄司さん、科学には、まだそんな力はないんですよ」
「卵子凍結保存だって、卵子を解凍して受精させれば必ず子どもができる、
という保証はありません。
理想のデザイナーベビーをつくろうとしても、
思う通りに生まれてくるとは考えにくいのです」
「ちょっと話はそれるかもしれないけど、
例えば、庄司さんが50歳くらいで
若年性アルツハイマーになる可能性が高いと診断されたとします。
でも、アルツハイマーの根本的な治療法はないんです。
どうすることもできない運命を受け入れられますか」
「うーん……」
庄司は頭を抱えた。
「判定できるようになったからといって、
その後の対応ができるわけではない。
何でもかんでも判定すればいい、というわけではないと思うんです」
大牟田は言葉を継いだ。
「科学技術は、いつかもっと進化するでしょう。
でも、人間の欲望のままに進んでしまって大丈夫なのかどうか」
大牟田によると、米国には、次々と生まれる新しい科学技術をチェックして、
進めるべきか否かを判断する「生命倫理に関する大統領委員会」がある。
「そのあたり、日本はすごく弱いんです。
例えば、出生前診断や卵子凍結を
どこまで認めていいのか、
実施する時にどういう条件が必要なのか、
といったことを、継続的に深く考え、
タイムリーに判断する組織が必要です」
仮に、科学医療の進歩で
未来の可能性が広がったとしても、
その方向に突き進むことが、
その人や子ども、家族にとっての幸せにつながるかは別問題だと、大牟田は言う。
とくに女性にとって、心身ともに負担が大きい不妊治療をいつまでも続けることが、
本当にいいことなのか。
自身も、子どもがなかなか授からなかったという大牟田は、そう思えてならない。
「つい科学に寄りかかりすぎてしまうけれども、ほかにも道はあると思うんです」
今は、いろいろな「親子」が存在する。
「どうしてもふたりの子どもを育てたいなら、
ほかの男女のもとに望まない形で生まれてきた子を育てる、という
選択肢ももっと考えられていいんじゃないですかね。
いまはたまたま別の入れ物にはいっている、
庄司さんや僕の遺伝子も、
かつて、どこかでまじりあったことがある、親戚みたいなものなんですから」
人類の遺伝子は、ひとつに凝縮しては、また拡散していくことを繰り返す。
あるひとりに健康や才能、能力を集中させることは、本当に意味があるのか。
大牟田は疑問を投げかけた。
「遺伝子のプールから、病気や障害に結びつく可能性のあるものを除いていくと、
人類全体としては大事なものを失って、将来困ることになるかもしれません」
だれにも、遺伝的な弱点はあるが、
その弱点が、別の長所と結びついていることもありえるのだ。
なんだか、話のスケールが大きくなってきた。
「みんな知らないだけで、
知れば知るほど、深いところまで知りたくなる題材なのかもしれないなあ」
また感心しはじめた庄司を見て、大牟田はいたずらっぽく笑った。
「僕はね、生まれてきたのが今でよかったな、と思ってるんです。
科学技術がもっと進歩してから生まれたら、いろんなことに悩みまくって大変だったろうな、と。
でも、庄司さんは200歳まで生きたいんですよね」
「いやあ……、どんな世の中になっていくんだろう、っていうのを、この目で見たい、感じたいと漠然と思ってただけなんですけどねえ」
◇
このテーマについての庄司の「庄説」は、27日ごろ配信の予定です。
大学はお得に6年で2学部(理と文)を卒業し、1984年入社。科学・医療関係を主に取材する。ワシントン特派員で9・11、東京科学医療部長で3・11を経験した。2013年から論説委員。合理的なダイエット法で、7カ月で10キロ減量したのが最近の自慢。
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