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「庄説」第4ラウンドは1月半ば、東京・築地の朝日新聞東京本社で行われた。
今回、庄司智春の相手を務めるのは、科学医療分野のベテラン記者、大牟田透論説委員。
これまで登場した4人の記者の最年長だ。
この対戦、どんな化学反応を起こすのか。
庄司が、遺伝子を分析して親の希望通りにつくる「デザイナーベビー」の記事に仰天したのは、
数カ月前のことだった。
「子どもが生まれてから、いままで考えたこともなかった妊娠や出産について考えるようになったんですけど、まさか、こんなことまでできるようになってたとは」
健康な卵子を採取して凍結保存しておき、時期を選んで受精させて子宮に戻す、卵子凍結保存についての記事にも引きつけられた。
「自分はすごく子どもに助けられてるし、
子どもっていいなあ、って思う。
仕事がんばってる女性をみると、
余計なことだけど、
子どももいいよ、
と言いたくなるんですよ。
だから自分の好きな時に妊娠・出産できたら、
いいっすよね」
熱く語る庄司。しかし大牟田の第一声は、思いもよらないものだった。
「息子さんは、普通のセックスで作られたんですか」
一瞬ぎょっとした庄司が「はい」と答えると、大牟田は言った。
「今はまだ少数派ですけど、生殖医療で子供をつくる人も増えてるんですよ。
でも、その多くは不妊治療なんです」
排卵の時期と性行為のタイミングを合わせるところから始まり、不妊の原因を調べ、それに応じた治療をしていくのだ、と大牟田が説明すると、
「うちも、体温は測りましたね」と庄司。
結婚前は、女性の体温と妊娠しやすさが関係あることを全然知らなかった、と言う庄司に、大牟田は苦笑いした。
「みんな知らなすぎるんですよね。子どものつくり方も、どうやって生まれてくるかということも。
人生で最も大事かもしれない肝心なことを、なぜ学校で教えないんだろう、と思うんです」
大牟田は、生殖医療、とりわけ不妊治療の基礎知識を説明した。
精子と卵子を採取して受精させて子宮に戻す、体外受精の技術が確立したことで、
不妊の原因によって、他人の精子や卵子を使うなど様々な治療ができるようになった。この技術はノーベル賞も受賞した。
遺伝をつかさどるDNAが、どんな情報をもっているかも少しずつわかってきた。
ダウン症などにつながる胎児の染色体異常の有無を、
母親の血液で調べる出生前診断は、昨春始まったばかりだ。
髪や瞳の色などを決めるDNAの存在も、次第にわかってきた。
「DNAの分析が目指す先は、病気を防ぐという方向と、
望む遺伝子をもつという方向の二つあるんです」
じっと聴いていた庄司が口を開いた。
「僕は、200歳ぐらいまで生きたいんで、遺伝子診断は受けてみたいんですけど、どのくらいのことまでわかるんですか?」
「例えば、短距離走と長距離走のどちらに向いているかは、筋肉の質で決まりますが、
これはDNAを見れば、ある程度わかります。
でも、トレーニングや栄養のとり方で変わる部分もある。
遺伝がすべてを決めるわけではないんです。
DNAだけ見れば、庄司さんより僕の方が芸人に向いてた、なんてこともあるかもしれません」
うなずく庄司。
「実は、芸人になってよかったのかな、ってまだ迷ってるんです。
でもたまに、これでよかったんだって思えると、生きている心地がするので、DNAを調べなくてよかった」
「でも」と大牟田は続けた。
「たくさんある病気のうち、原因がはっきりわかっているものは実はごくわずか。さらに、その原因がDNAと直接結びついているのは一部の遺伝性の病気だけなんです」
「アルツハイマーは?」
「全然わかっていないといっていいです。
庄司さん、科学には、まだそんな力はないんですよ」
ん? そんなんで、本当にデザイナーベビーができるようになるのか?
卵子の凍結保存は、本当に頼りになるのだろうか?
◇
次回は、20日ごろ配信します。
大学はお得に6年で2学部(理と文)を卒業し、1984年入社。科学・医療関係を主に取材する。ワシントン特派員で9・11、東京科学医療部長で3・11を経験した。2013年から論説委員。合理的なダイエット法で、7カ月で10キロ減量したのが最近の自慢。
妊娠中(にんしんちゅう)のお母さんの血液(けつえき)を採(と)って、おなかの赤ちゃんに染色体(せんしょくたい)の異常(いじょう)があるかどうかを調べる新しい出生前診断が…
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