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「現実の創造的劇化」:戦時期日本ドキュメンタリー再考

言葉・響き・リズム



ドキュメンタリーの試みには、トーキー技術の進展に支えられた、音響をめぐる豊かな実験と新たなリズム感の追求がともなっていた。詩歌と映像のコラボレーション、個性的な歌声や楽器の相乗効果、そして音響に即した編集がもたらす心地よい調子。主題は多岐にわたる5作品の多層的な表現に光をあてる。


石炭の顔

Coal Face

イギリス/1935/英語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/11分

監督、音響監督:アルベルト・カヴァルカンティ
脚本:アルベルト・カヴァルカンティ、モンタギュー・スレイター
詩:W・H・オーデン
追加撮影:ハリー・ワット、ハンフリー・ジェニングスほか
編集:ウィリアム・コールドストリーム
録音:E・A・ポーリー
音楽:ベンジャミン・ブリテン
コメンタリー:W・H・オーデン、モンタギュー・スレイター
製作:ジョン・グリアスン
製作会社:EMPO(中央郵便局[GPO]映画班の変名)
協力:コミュニティシネマセンター

フランスでアヴァンギャルド映画を手がけていたカヴァルカンティがイギリス・ドキュメンタリー映画運動に加わり、当地の石炭産業を紹介した短篇。既存の撮影フッテージを多用し、そこに若き日の作曲家ベンジャミン・ブリテンによる音楽、新進詩人W・H・オーデンが筆をとった詩文の朗読が組み合わされる。リズミカルな詩・ピアノ・歌声と映像のモンタージュとが折り重なり、炭鉱夫たちの働きぶりや重機のメカニズムが重厚に表現される。



夜行郵便

Night Mail

イギリス/1936/英語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/24分

監督:ハリー・ワット、バジル・ライト
脚本、製作:バジル・ライト、ハリー・ワット、ジョン・グリアスン
詩:W・H・オーデン
撮影:ジョナ・ジョーンズ、H・E・ファウル
編集:バジル・ライト、リチャード・Q・マクノートン
音響監督:アルベルト・カヴァルカンティ
録音:E・A・ポーリー、C・サリヴァン
音楽:ベンジャミン・ブリテン
製作会社:中央郵便局(GPO)映画班
提供:コミュニティシネマセンター

ロンドンとグラスゴーを行き来して郵便物を運ぶ夜行列車と、それに従事する人々を描いたイギリス・ドキュメンタリー映画運動の代表作の一つ。緻密な構成をもとにカット割りがなされ、セット撮影まで含まれているように、劇映画の手法が多く取り入れられているが、出演しているのは実際の郵便局員たちである。走行中の列車から郵便荷物を落下させる仕組みに焦点を当てつつ、最後はテンポよく朗読されるオーデンの詩で締めくくられる。『石炭の顔』のブリテンとカヴァルカンティが本作の音楽・音響にも携わる。



信濃風土記より 小林一茶

Kobayashi Issa

日本/1941/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/27分

演出:亀井文夫
撮影:白井茂
録音:酒井栄三
音楽:大木正夫
解説:徳川夢声
製作会社:東宝映画文化映画部
提供:日本ドキュメントフィルム

ご当地出身の俳人・小林一茶の句を巧みに織り込みながら、厳しい自然環境におかれた庶民の暮らしの実態をあぶり出す。演出の亀井文夫が前作『戦ふ兵隊』(1939)の上映禁止を経て、長野県の観光事業を紹介する「信濃風土記三部作」の一篇として手がけた。風光明媚な棚田、人で賑う善光寺、富裕層の集まる軽井沢といった光景の内実を、一茶のわびしい句、夢声の諧謔味あるナレーション、そして入念なモンタージュによって変転させている。その批判性の強さが問題となり、文部省から「文化映画」に認定されなかった。



石の村

Village of Stone

日本/1940/日本語/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:35mm)/10分

監督、構成:京極高映(京極高英)
撮影:星嶋一郎
録音:阿武義信
音楽:萬澤恒
製作会社:朝日映画
提供:神戸映画資料館

栃木県城山村(現在の宇都宮市)の特産品である大谷石を採掘する人々を描く。ダイナミックな現場に合わせた臨機応変なカメラワークと、石に打ちつけるツルハシの乾いた響きや、軽快に流れるピアノの音色とが調和している。巨大な地下採掘場では撮影用ライトの電源が使用できず、発炎筒を照明代わりにしたため、苦心を重ねたという。戦後にわたって長らく活躍した京極が、家族総出で勤しむ地場産業のありようを浮かび上がらせた初期作品。



土に生きる

Living by the Earth

日本/1941/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/9分 ※不完全版

演出、撮影:三木茂
録音:酒井栄三
音楽:深井史郎
解説:徳川夢声
製作:村治夫
製作会社:東宝映画文化映画部
提供:国立映画アーカイブ

劇映画のキャリアを経て東宝文化映画部の名カメラマンとして知られた三木が、初めて演出まで担った一作。民俗学者・柳田國男に指南を仰ぎ、1年ほどかけて秋田県下の農村の生活風俗を記録した。完成時の長篇6巻(60分前後)のうち現存するのはわずかな部分だが、盆踊りや民謡の豊かな音色が響き、農民たちの米作りの手さばきが丁寧にとらえられ、広大な田園風景が空撮をまじえて収められている。三木は最晩年にも柳田民俗学をテーマとした作品に取り組んだ。