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「現実の創造的劇化」:戦時期日本ドキュメンタリー再考

現場の呼吸



1930年代以降のドキュメンタリーは、生々しいリアリティをいかに獲得するかを模索した。その要となったのは、機動性を備えつつあったカメラと、まだ大がかりな装置だった同時録音機であった。近代産業のメカニズムから労働者たちの鼻歌まで、現場の息づかいを映し出そうとした3作品。


造船所

Shipyard

イギリス/1935/英語/モノクロ/35mm/24分

監督:ポール・ローサ
撮影:ジョージ・ポックナール、フランク・バンディ、フランク・グッドリフ、ハリー・リグノルド
録音:W・エリオット
音楽:ジャック・ビーヴァー
出資:オリエント海運、ヴィッカース・アームストロング
製作会社:ゴーモン・ブリティッシュ・インストラクショナル
提供:BFI National Archive

1930−50年代を通じて日本の記録映画業界で広く読まれ論じられた書籍『ドキュメンタリー映画』(当初の邦題は『文化映画論』、厚木たか訳)の著者であるポール・ローサが、客船・造船会社の出資で手がけた監督作。イギリス北部の造船の町を舞台に、巨大客船が造られるまでの9ヶ月の工程を追う。ソ連アヴァンギャルドの影響を感じさせるモンタージュと全篇にわたって響くドリルや旋盤などの機械音が、近代産業のスペクタクル性と労働者階級の地道な現場、その双方の描写を両立させている。



機関車C57

Train C57

日本/1940/日本語/モノクロ/16mm(原版:35mm)/45分

監督:今泉善珠
構成:杉本重臣
撮影:大小島嘉一
音楽:早坂文雄
製作会社:芸術映画社
提供:京都文化博物館

当時の旅客用蒸気機関車の代表格「C57型」にフォーカスを当て、堂々たる躯体そのものと機関士たちの仕事ぶりを4部構成でとらえる。車庫内での定期車体検査、投炭練習を中心とした機関士養成訓練、運行前後の念入りな整備作業、そして鉄路をひたすら驀進する機関車。最終部では、車体の上にも横にも据えられたカメラが現地録音とあいまって、迫力ある臨場感を生み出している。水戸・高崎機関区に半年ほど通って行われた撮影には、現場の機関士たちも積極的に協力したという。



知られざる人々

Unknown People

日本/1940/日本語/モノクロ/デジタル・ファイル(原版:35mm)/12分

監督:浅野辰雄
脚本:栗原有蔵
撮影:坪内英二
録音:宮森俊三ほか
音楽:渋谷修
製作:本田延三郎
製作会社:芸術映画社
提供:日映映像(国立映画アーカイブ所蔵35mmプリントをデジタル化)

東京中心部の下水設備で働く人々にカメラを向け、ナレーションを加えずに現場音と合唱の歌声で語らせた異色短篇。困難な撮影条件のなか、下水道内部に映える陰影や、労働者の表情を切り取ったクロースアップ、生々しく響く作業音など、実験的な技法が盛り込まれている。地面の下の「知られざる」労働に携わる人間を凝視する姿勢に、左翼運動出身の浅野の信条が垣間見られる。