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映画批評コレクティブ



ヤマガタ映画批評ワークショップ

映画祭というライブな環境に身を置きながら、ドキュメンタリー映画を通して世界について思考し、執筆し、読むことを奨励するプロジェクト。ワークショップ参加者がプロの映画批評家のアドバイスを受け、執筆した記事は、映画祭期間中に順次発表される(www.yidff-live.info)。3回目となる今回は、初の試みとして、国際交流基金アジアセンターと共催し、東南アジアからのワークショップ参加者を募る機会を設け、関連シンポジウムも開催する。ワークショップの使用言語は英語・日本語で、講師となる批評家はクリス・フジワラ、北小路隆志、金子遊の各氏。

 


映画批評コレクティブ

 映画批評コレクティブは、非英語圏でインディペンデントに制作された、最も重要かつオリジナリティを備えた作品群と連動しつつ、その価値を世に知らしめようとする国際的な映画批評を創造し、波及させていくためのプラットフォームである。われわれコレクティブは、カナダ=フィリピン人の映画批評家、故アレクシス・ティオセコの精神と情熱に倣い、東アジアと東南アジアを同時代の映画的思考と実作が生まれる場として特に重視し、さらにまた、かつてティオセコがそうしたように、批評家たちが国家による境界や文化による限定を乗り越える必要があることを訴えていく。

 コレクティブの始動となるYIDFF 2015では、ワークショップとシンポジウムが開催される。映画批評ワークショップでは、日本と東南アジアから映画批評を志して参加する若者たちが、現役で活躍する批評家の指導のもと、批評文を作成していく。シンポジウムでは、批評家・監督・プログラマーが一堂に会し、「実験的な映像としてのドキュメンタリー」をテーマに討論をおこなう。この主題の検討を通じて、ドキュメンタリー映画を批評する者が直面する問題や責任を、あまり認識されていなかったいくつかの見地から探求することが可能になるだろう。さらに映画祭後には、ワークショップ参加者の執筆したテキストとシンポジウムの採録に、ドキュメンタリー映画や映画批評に関するインタビューや論考を加えた日英併記の冊子も刊行する予定である。

 コレクティブの活動は2016年以降も継続され、各国の映画祭で毎年イベントを開催するほか、それと連動する形で、オンラインでの定期連載や印刷物を通じ、重要と思われる作品や作家、さらには映画ジャンルや同時代の映画を支えるインフラの条件を分析する論考を発表していく。こうした努力により、われわれコレクティブは、国を越えて活躍する若き批評家たちが、映画の作り手や映画祭プログラマー、また観客たちと密接に対話するなかで、感性やスキルに磨きをかけることができるような、グローバルな空間の連続性を確保することを目指している。

 批評の役割が経済的に周縁化され、映画文化がちりぢりに細分化されている現在、こうした空間の確保は急務となっている。映画文化の断片化が最も明瞭にみてとれるのは、西洋とアジアの映画批評の間にひろがる断絶をおいてほかにない。この分断の一因としては、グローバルな映画文化のなかで英語が支配的地位を得ていること、それによってそれ以外の言語で執筆活動をしている者たちが相対的に言語的孤立を強いられていることが挙げられる。われわれコレクティブは、アジアと西洋の批評家たちが相互交流する機会を提供し、またいくつかの批評的テキストを英語以外の言語でも閲覧可能にすることで、こうした状況を是正していく所存である。

 コレクティブの創設に際しアレクシス・ティオセコの記憶を呼び起こすのには、特定の目的がある。ティオセコは、映画についての深く広い知識とともに、自身の熱狂を他者に伝え、感染させるという特筆すべき能力を持ち合わせていた。彼が批評家として名を馳せた期間はあまりにも短かったが、その短い時間でティオセコは、東南アジアのインディペンデント映画にとって最も重要な批評的闘士となり、〈Criticine〉というオンラインのサイト*をはじめ、さまざまな場でその擁護の実践を行っていた。彼がこの世を去って6年が経つが、われわれコレクティブ主宰者一同は、インディペンデント映画に声を届け、異文化の媒介者となり、自分以外の書き手の活動を結集する力となってきたティオセコの仕事が、未来の批評家たちの範となることを願ってやまない。

クリス・フジワラ

* URL: www.criticine.com

 


- 特別上映 ストーム・チルドレン 第一章

Storm Children--Book One
Mga Anak ng Unos, Unang Aklat

フィリピン/2014/タガログ語/モノクロ/DCP/143分

監督、撮影、編集:ラヴ・ディアス
録音:ヘーゼル・オレンシオ
撮影補:スルタン・ディアス
製作会社:Sine Olivia Pilipinas, DMZ Docs
提供:Sine Olivia Pilipinas

2013年11月にフィリピンを直撃し、数千人の死者を出した台風ヨランダ。数ヶ月後、被害の大きかったレイテ島に入ったラヴ・ディアスらは、巨大な貨物船が地上へ打ちあげられ、その狭間のスラムで人びとが暮らす黙示録的な光景を撮影する。ほぼダイアローグなし。最小限のカメラワークとモノクロの映像によって、瓦礫と小屋からなる破壊された世界から、嵐を生き残った子どもたちが新しい世界を構築していくエネルギーを掬いあげる崇高なレポート。

- ラヴ・ディアス

1958年、フィリピン・ミンダナオ島生まれ。監督作品に『Batang West Side』(2001)、『Evolution of a Filipino Family』(2004)、『Heremias』(2006)など。『Death in the Land of Encantos』(2007)はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門のクロージングを飾り、金獅子賞スペシャル・メンションを受賞。『Melancholia』(2008)は同映画祭オリゾンティ部門グランプリを受賞。『(ノルテ)― 歴史の終わり』(2013、YIDFF 2013)はカンヌ映画祭「ある視点」部門で上映され、『From What is Before』(2014)はロカルノ映画祭の金豹賞(グランプリ)を受賞した。美しい長回しの映像と長尺の作品、フィリピンの社会的・政治的状況を映し出す作家として知られる。YIDFF 2013 インターナショナル・コンペティションで審査員を務めた。

 


シンポジウム 実験的な映像としてのドキュメンタリー

ペドロ・コスタ、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ワン・ビン、リティ・パン……。デジタルビデオ時代ならではの先鋭的な映像が、ドキュメンタリーの世界で次々に生まれている。このシンポジウムでは、ドキュメンタリーとアヴァンギャルドな映像表現の接点をさぐる。批評ワークショップの講師陣とシンガポール、フィリピン、インドネシアからの映画人がパネリストとして参加。ラヴ・ディアスがフィリピンの台風被害を撮った関連上映作『ストーム・チルドレン 第一章』を起点にして、白熱の議論が繰り広げられる。

パネリスト: 
クリス・フジワラ(映画批評家、プログラマー)
北小路隆志(映画批評家)
金子遊(批評家、ドキュメンタリーマガジンneoneo編集委員)
フィリップ・チア(映画批評家、編集者、Big O)
テン・マンガサカン(映画作家、サラミンダナオ国際映画祭ディレクター)
チャリダー・ウアバムルンジット(映画アーキヴィスト、サラヤ・ドキュメンタリー映画祭ディレクター)
ユキ・アディッティヤ(アルキペル・ジャカルタ国際ドキュメンタリー&実験映画祭ディレクター)