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成長する世界の漁業 Archive
成長する米国漁業~自由競争を諦めたところがスタート地点
漁業の現状(漁獲量は増えずに生産金額が増える)
最近の米国漁業がどうなっているかというと、漁獲量(重量)はほぼ横ばいです。緑の線が貝類で、青の線が魚類です。1990年代よりも、最近の方が水産資源は回復しているのですが、漁獲規制はどんどん強化されているので、漁獲量を増やすことが出来ないのです。
金額ベースで見ると2002年までは減少傾向で推移していたのが、2003年から増加傾向に転じています。米国人は貝が大好きなので、漁獲量としては少なくても金額ベースでは魚と良い勝負なのです。
これらの図は、Fisheries of the United States 2014(FUS2014)からの引用です。
漁業制度の変遷
なぜ、漁業の生産金額がV字回復したかというと、漁獲規制のやり方を変えたからです。それでは、自由競争の早い者勝ちだったところを、漁獲枠を個別配分して早獲り競争を抑制する政策をとったからです。
こちらに米国の個別漁獲枠制度(米国ではIndividual Fishing Quota もしくは Catch Shareと呼ばれています)の歴史について簡単にまとめられています。
1990年代に、アラスカのスケトウダラなど、一部の漁業に個別漁獲枠が導入されました。これが米国内で大きな論争となりました。自由競争が国是の米国では、野生生物の利用に既得権を設けることに強い感情的な反発がありました。また、個別漁獲枠を導入することは、天然資源の私有化や不公平な利用に繋がるという懸念、漁村コミュニティーに悪影響があるのではないかという懸念がありました。
一部の関係者から、個別漁獲枠の禁止を要求する声が上がり、米国の議会は1996年に、2000年まで新しい個別漁獲枠プログラムの導入を禁止しました。そして、米国科学アカデミーに、個別漁獲枠制度について検証して、議会に提言するように依頼しました。アカデミーはモラトリアムを解除して、新しい個別漁獲枠プログラムを開発するように提言しました。
アカデミーが個別漁獲枠制度についてまとめたレポートがこちらです。
十分な時間を使って、国内外の事例について丹念に調べて、それを元に、米国の漁業がどうあるべきかが論じられています。古い本ですが、今日でも通用する内容が多く含まれています。2002年に個別漁獲枠プログラムのモラトリアムが解除され、Catch Shareプログラムの策定に向かいます。議会は個別漁獲枠プログラムを推進するために、2007年に米国における漁業法であるMagnuson-Stevens Actの改正を行いました。自由競争の国、米国ですら、国を挙げて漁獲枠の既得権化を進めているのです。
Catch Shareプログラムは、個々の現実の漁業の現実に合うような形で徐々に導入されています。多くのプログラムに共通する目的は、資源の保全、経済効率の改善、過剰な漁獲能力の削減、早獲り競争の抑制、海難事故の防止などです。アラスカでは、先住民の漁業権を保障するために、特別な漁獲枠が設定されています。独占を防ぐために、個々の漁業者が持てる枠には上限が決められています。米国は漁獲枠で全てを規制するつもりはなく、従来のライセンス制度、最小サイズ規制、漁期や漁場の規制などを併用しています。
成長する米国の漁業
米国の漁業の経済指標のレポートはこちらにあります。
雇用(Jobs)は2010年から2013年の間に、12%増加しました。売り上げなど全ての経済指標が順調に増えていることがわかります。このように米国の漁業は今も成長を続けています。米国漁業の復活についてはこちらの記事にも書きました。
米国漁業の再生に果たした政府の役割について、経済学者のクルーグマンは次のように述べてます。。
ポール・クルーグマン「漁場再生:政府介入が役に立ちましてよ」
気候変動と戦うのだって,漁場を救うのとそれほどかけはなれたことじゃない.やるべきとわかりきってることをちゃんとやりさえすれば,いまどんな人が予想してるのよりも,首尾よくかんたんにやれるんだ
米国の個別漁獲枠制度の本格導入は、ノルウェーやニュージーランドよりも20年遅れてしまった。しかし、後追いならではのメリットをいかして、先行者の失敗から学び、良い仕組みをつくったと思います。米国の歩みはゆっくりかもしれないが、一つ一つ議論をしながら、改善を続けている。これからも時間をかけて、Catch Shareプログラムを増やしていくだろうし、既存のプログラムについても社会・経済的な指標を精査しながら、改善を重ねていくだろう。基本に忠実に、データに基づいて、政策決定できるところにアメリカという国の強みがあると思います。
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ノルウェーの小規模漁村の高齢化の話
先週、19歳の若者から、手紙が届いた。漁村で生まれ育った彼は、子供の頃から祖父・父の後を継いで漁業をするのが夢だったという。高校を出たら漁業を継ぐつもりだったが、「漁業には先が無いから」と両親に反対され、大学に通っているそうだ。漁業の夢を捨てきれずに、自分でいろいろ調べた結果、俺の本に出会い、「資源管理をすれば、自分も漁業で生活できるようになるかを知りたい」という手紙を書いたのである。この手紙を読んで、俺は申し訳ない気持ちで一杯になった。我々日本の大人たちが、構造的な問題から逃避してきた結果として、若者の夢が奪われているのである。もし、彼がノルウェーに生まれていたら、何も悩むこと無く、漁業を継いで豊かな生活を送ることができたはずだ。日本とノルウェーで、なぜこのような差が生じるのだろうか。
ノルウェーの小規模漁村の現状
先週、ノルウェーの漁業副大臣が来日したのに併せて、日本・ノルウェーマリンセミナー2014というイベントが開催された。ノルウェー大使館から「ノルウェーの研究者が俺とディスカッションしたがっているので、セミナーに参加して欲しい」という依頼があって、参加した。俺と話をしたがっていたのは、ノルウェー北部のロフォーテンに本拠地をおくSALTという研究機関のKjerstiさん。こちらのサイトのセンターポジションの女性です。午前中の全体のセッションでの彼女の講演がとてもおもしろかった。
ノルウェーの北部には無数のフィヨルドがあり、そこには小規模な沿岸コミュニティーが多数存在する。
基幹産業は漁業。6人ぐらいの小さな漁船でタラを獲る漁業が主流。養殖業も大切なビジネスであり、観光業も伸びている。
漁業生産は延びているが、漁師の数は減っている。高齢化が進んでいる。その原因は、高等教育がひろまったことである。大学で学んだ専門的な知識を活かせる職場が、漁村には無い。そこで、研究者や政策決定に関わりたい若者は、都市に移動してしまう。「漁村から都市へ」というの人の流れを逆転したい。若くて教育を受けた人たちに魅力がある職を漁村につくりたい。ということで、ノルウェー政府は、国の多くの機関を都市の外に出した。補助金では無く、仕事を造るためである。
彼女がつとめている(というか創立者みたいだけど)SALTという機関では、海洋資源の価値を産むような利用法を作り出して、沿岸コミュニティーの活性化を目指しているそうだ。
「日本と共通する話題かもしれない」と途中まで思っていたのだけど、Kjerstiさんが出した図をみて、ずっこけてしまった。
この図はノルウェーの小規模漁村の漁業者の年齢組成だそうだ。10代から70代まで10歳ごとに棒グラフで示してある。1990年代には20代、30代が一番多かったけど、最近は40代が一番多くなっているんだって。これで高齢化ですか・・・
日本の漁業全体の年齢組成はこんな感じ(漁業センサス2008)。
ノルウェーよ!!これが本当の高齢化だ(ドヤ!
ノルウェー政府は、現状を打開するために、沿岸地域に若者にとって魅力的な職業を作るべく努力をしているそうだ。ノルウェーの小規模漁業の人たちの収入はどれぐらいなのか、Kjerstiさんに直接聞いてみた。そうしたら、「小規模漁業者の収入を調べてみたら、私たち研究者よりも高かった」だって。漁業を継げば生活は十分に成り立つんだけど、それでも都会を目指す若者がいるから、徐々に若者が減っているということだ。
一方、日本は新規就業者が無い状態を何十年も放置した結果、高齢化も行き着くところまでいってしまった。「50代が若手」というのが日本の漁村の現状だ。漁村には跡継ぎがいない高齢者ばかりになって、限界集落化が進行している。日本の場合は、ノルウェーと違って、沿岸漁業の生産性が低すぎて、生計が成り立たないという根本的な問題がある。沿岸漁業が補助金で支えられている状況では、新規就業者が増えるはずが無い。
日本とノルウェーの小規模漁村の違い
日本とノルウェーの小規模漁村の現状を整理すると次のようになる。
まず、漁業で生活が出来るかどうかが大きな違い。ノルウェーでは漁業で生活できるので、漁業への新規加入がある。ノルウェー政府は、都市部にある必要が無い政府機関をどんどん地方に移転しているそうである。問題が顕在化する前に、対策を講じているのだ。一方、日本の漁村には、漁業で生計が成り立たないし、漁業以外の雇用がない。漁村は縮小再生産どころか、限界集落化→消滅へとむかっている。日本の置かれている状況はノルウェーとは根本的に違う。
両国の政府の対応の違いも興味深い。ノルウェーでも、今の状態が何十年か続けば、漁村の活力が失われていくだろう。ノルウェー政府は、高齢化の悪影響が顕在化する前に、魅力的な雇用の創出という根本的な対策を打ち出した。雇用政策は一朝一夕で結果がでるものではないので、取り組むなら早いほうが良い。一方、日本は何十年も漁村に雇用が無い状態を放置したままだ。高齢化が進むのは、「厳しい仕事を嫌がる軟弱な若者が悪い」と責任転嫁をして、補助金で高齢漁業者を保護する対処療法を続けてきた。当然の結果として、超高齢化が進み、方向転換をする体力も残っていない。日本という国は、どうして構造的な問題に取り組むのがこうも苦手なのだろうか。
日本の小規模漁村が存続するには、普通に生活できるような水準まで、小規模漁業の生産性を改善するのが急務である。そうすれば、小規模漁業にも新しい人が参入できる。「漁業の生産性を上げるには、資源管理以外の選択肢は無い」というのがノルウェー人の共通認識である。日本も、ノルウェーを手本にして、資源管理を導入すべきである。漁業以外に魅力的な雇用をどう作るかを考えるのは、そこから先の課題だろう。「早くノルウェーに追いついて、共通する問題に対して,一緒に取り組めるようになると良いな」と思ったよ。
Kjerstiさんから、北部の小規模漁村地域のロフォーテンに来るようにお誘いを受けた。ノルウェーの小規模漁村をじっくりと見てこようと思う。タラの資源はものすごい豊富で、港から200mぐらい行った湾の中が漁場なんだって。でもって、釣り糸を垂らすと2秒ぐらいで、40cmぐらいのタラが入れ食いで獲れるそうだ。そりゃ、利益も出るだろう。いやはや、日本では信じられないような話なのだけど、実際にこの目で見てこようとおもう。
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米国の持続的水産物普及の取り組み(環境NGOとスーパーマーケット)
前回は、政治主導の政策の変化が、米国漁業の成長をもたらしたことを紹介した。今回は、米国の消費者の側で起きている変化について紹介しよう。米国では、環境NGOが力をもっている。環境NGOは乱獲漁業を批判して、資源管理のスタンダードを高めてきた。日本の漁業も良くも悪くもその余波をかぶってきた。米国の海洋の環境NGOの中でも、消費者活動で成果をあげているのが、モントレーベイ水族館のSeafood Watchだ。
Seafood watchの歴史
カリフォルニア州のモントレーは、かつてはイワシの缶詰工場で栄えた町である。スタインベックの小説「缶詰横町」の舞台でもある。イワシの激減により、漁業が成り立たなくなったことで、観光都市へと変貌を遂げた。缶詰工場を改装し、当時の雰囲気を残しつつも、おしゃれなホテルやレストランが立ち並んでいる。環境観光都市モントレーの中心的な存在がモントレーベイ水族館だ。モントレーベイ水族館が行っている、持続的な水産物促進プログラムがSeafood Watchである。
モントレーベイ水族館では、入場者への教育の一環として、持続性の観点から食べて良い魚と、避けるべき魚のリストをつくり、レストランのテーブルに展示した。持続的な水産物のリストを持ち帰る客が多かったことから、潜在的な需要があると考えて、ポケットに入れられるような持続的な水産物のリストをつくって、1999年から無料で配布している。
Seafood watchでは8人の研究者が、1)漁獲対象種の資源状態、2)混獲種の資源状態、3)資源管理の実効性、4)生態系・環境への影響の4つの観点から漁業の持続性を評価し、お勧め(緑)、悪くない(黄色)、避けるべき(赤)の3段階に分類している。漁業の持続性の評価は、専門的で、複雑なプロセスなのだけど、消費者にわかりやすく伝えるために、シンプルに表現を心がけているのだ。
最近は、iphoneアプリもあって、無料でダウンロードできます。
こんな風にいろんな魚の持続性が一目瞭然です。
現在は、102魚種がリストされている。一つの魚種でも米国の国内漁業だけで無く、輸入されてくる主要な魚種の評価も行っている。
日本の養殖ハマチは残念ながら、Avoidでした。非持続的な天然魚を餌に使っているのが問題なんだって。
スーパーマーケットとの連携
Seafood Watchはリストを消費者に配布するだけでなく、レストランやスーパーマーケットと提携をして、持続的な水産物を消費者が選べるように工夫をしているらしい。実際に、スーパーマーケット(whole foods market)に視察に行きました。
ありました!! 鮮魚コーナーの下の方に、ちゃんと表示されていますよ!!
鮮魚コーナーでは各製品には、エコラベルの有無が表示されていました。天然魚は、Seafood Watchの評価とMSCのエコラベルの有無が一目でわかります。養殖は持続的な養殖認証の有無が表示されています。
より詳しく知りたいひとのために、情報冊子が棚の脇に並べられていました。でも、店員さんは余り詳しくないみたい。
「欧米では持続性認証の無い魚は売りづらい」と聞いていたのですが、鮮魚コーナーには何の認証も無い魚もありました。「持続性に関心がある消費者はそういう製品を選べるし、そうで無い消費者は好きなものを買ってね」というスタンスのようです。これぐらいだったら、日本でもすぐに出来るんじゃ無いかな。こういう展示をすることで、「水産物にも持続的な物とそうでないものがあり、消費者は持続的な水産物を選ぶことで持続的漁業を応援できる」というメッセージが日々の買い物を通じて、消費者に伝わるのが良いと思いました。
消費者を巻き込んだ持続的水産物を応援する動きは、欧米では、1990年代から徐々に広まってきた。米国人の一人あたりの水産物消費量は日本の半分ぐらい。食事に占める水産物のウェイトはそれほど大きくない米国でこれだけの取り組みが出来ている。魚食民族と言いつつ、日本の小売りで水産物の持続性に関する情報を目にする機会は皆無と言って良い。魚をたくさん食べている日本人こそ、水産資源の持続性についてしっかりと考えて、責任ある行動をとる必要があります。この分野でも世界をリードしたいものです。
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世界銀行レポート FISH TO 2030:世界の漁業は成長し、日本漁業のみが縮小する
世界銀行が、「2030年までの漁業と養殖業の見通し」についてのレポートを公開しました(プレスリリース)。この102ページからなるレポートは、IMPACTというモデルを使って、2030年までの世界の天然魚・養殖魚の生産・消費・貿易を予測したものです。世界の漁業と日本の漁業の未来を考える上でなかなかおもしろい資料なので、キーとなる図表を引用しながら、読み解いていきます。このエントリの図は、ことわりがないかぎり、このレポートからの引用です。
PDFをこちらからダウンロードできます。
世界と日本の漁業生産の動向(過去から現在まで)
下のFIGURE 1.2は、1984-2009年の世界の食用水産物の生産量を示した図です。一番下から上がってきている線が養殖魚(Farmed)、真ん中の横ばいの線が天然魚(Wild)、一番上の濃い線がそれらの合計(Total)です。天然の生産は横ばいだけれども、養殖の生産の増加することで、水産物全体の生産量は増加を続けています。
多くの水産資源が持続性の限界近くまで利用されている現状では、今後も天然魚の生産に大幅な伸びは期待でき無いでしょう。一方、養殖はコンスタントに成長を続けています。養殖魚の餌として、天然魚由来の魚粉が利用されるケースが多いのですが、なぜ天然魚の漁獲が増えないのに、養殖魚の生産が伸びているのでしょうか。一つの理由は餌をやらないでよい粗放的な養殖の存在です。たとえば、海藻は光合成をするし、牡蠣などは餌をやらなくても水中のプランクトンをこしとって成長します。また、餌をやる魚にしても、より少ない餌で魚を成長させることが出来るようになってきました。そういったわけで、2000-2008年の間に、魚粉の生産が12%減少したにも関わらず、世界の養殖生産は63%増加しました。
下の図は、日本の漁獲統計を使って、上と同じものを作ったものです。日本の養殖生産は低空飛行で横ばい。天然魚の生産は激減です。こちらの記事でも書いたように、世界のトレンドと日本のトレンドはリンクしておらず、「養殖生産が急激に伸びている」というの世界全体の傾向は、日本には当てはまりません。
国と地域別の漁業生産と貿易収支
国と地域で見ていきましょう。Figure2.8が天然の生産量、Figure 2.10が養殖の生産量です。上の薄い棒線が2008年の実測データ。下の濃い棒線がIMPACTモデルの予測値です。誤差はあるものの、IMPACTモデルの値は現実とそれほど乖離が無いことがわかります。
実測データ(2008 Data)に着目しましょう。天然の漁獲量は中国がトップ。ラテンアメリカ(LAC)、東南アジア(SEA)、欧州中央アジア(ECA)が続きます。日本は、1980年代には、現在の東南アジアと同じぐらいの漁獲量があったのですが、今は見る影もありません。
養殖生産は、中国がダントツの一位です。まさに桁違いと言って良いでしょう。中国の養殖生産を牽引しているのが淡水魚の養殖です。中国では草食性の淡水魚を大量に生産しています。池に自生する藻を食べて成長するので、人間が餌をやる必要が無く、環境への負荷が少ないことから、エコな養殖業として注目されています。
水産物の貿易
Figure 2.14は、輸出と輸入の差を表したものです。プラスが輸出超過の国と地域、マイナスが輸入超過の国と地域を示しています。上の薄い緑の棒が2006年の実測データ。濃い緑がIMPACTモデルの予測値です。先ほど同様に薄い緑の実測値に注目します。
ざっとまとめると、以下の2つのグループに分けることができます。
輸出超過の国と地域: ラテンアメリカ(LAC)、中国(CHN)、東南アジア(SEA)
輸入超過の国と地域: 欧州中央アジア(ECA)、北米(NAM)、日本(JAP)
ここから、途上国の水産物を、先進国が消費しているという図式を見て取ることができます。日本では、「中国が世界の魚を食べ尽くしている」と広く信じられているのだけど、中国は最大の輸出超過国です。自らが生産する以上の水産物を消費しているのは、欧州、北米、日本です。
2030年の漁業生産はどうなるのか?(2030までの将来予測)
このレポートの核心部分である将来予測について見てみよう。figure 3.1は漁業生産の実測値(実線)およびIMPACTモデルの予測値(点線)を示しています。天然魚の生産は今後も横ばい、養殖は順調に増加して、天然の生産を凌駕するというのが、IMPACTモデルの予測です。ちょっと楽観的という気もしますが、現在の世界の水産業の成長具合を考えるとこんなものかもしれません。
国と地域別の生産量と成長率の予測
こちらの表には、国と地域べつの生産量の予測があります。注目して欲しいのは一番右の%CHANGEです。これは2010年から2030年の間に、漁業生産が何パーセント変化するかという予測値です。世界平均では23.6%の増加で、増加の割合は、国や地域によって異なっています。マイナス成長の国と地域は日本(-9.0%)のみです。このことからも、日本漁業の衰退は,世界の中でも特異的であるかと言うことがわかります。
まとめ(日本漁業に明日はあるか?)
日本では、以下のように広く信じられてきました。
「日本の漁業は世界の最先端」
「日本の養殖技術は世界一」
「先進国では漁業の衰退は当たり前」
「世界の魚を中国が食べ尽くしている」
これらはどれも誤りであり、データを見ればそうで無いことは一目瞭然です。正しくは、以下の通りなのです。
「日本の漁業は一人負け」
「日本の養殖業は世界でも希な衰退産業」
「漁業が衰退しているのは日本ぐらい」
「中国は最大の水産物輸出国」
当ブログでは、「世界では漁業は成長産業。日本の一人負け」と言い続けてきました。客観的に見るとそう言わざるを得ないのです。では「日本の漁業に未来は無いか」というと、そうではありません。日本の漁業が衰退しているのは、漁業のやり方が悪いのです。もちろん、今の延長線上には明るい未来は無いのですが、漁業のやり方を変えることで未来を変えていくことは可能です。最も成功している漁業国の一つであるノルウェーの政策を参考に、日本漁業の問題点を一つずつ潰していけば、日本の漁業が成長する余地はまだまだあります。具体的にいうと、「資源管理」と「マーケティング」の2つを徹底することです。次世代を産む魚をちゃんと残した上で、限られた漁獲の価値を伸ばすことです。当たり前のような話ですが、日本の漁業はこれらができていないのです。
日本は、これまで自国の漁業の構造的な問題に向き合ってきませんでした。その代わりに、「クジラが悪い」、「中国が悪い」と外部に責任転嫁してきたのです。日本人は、中国の漁業に対して非常に悪い印象を持っています。 「中国漁船は、魚がいれば根こそぎ獲ってしまう」 「中国人は、持続性を無視して、世界中の水産物を食べ尽くす」 と言うのが一般的なイメージでしょう。前者に関しては、その通りだと思います。しかし、それは日本の漁師も全く同じです(参考)。中国漁船の乱獲を他人事のように非難するだけでは無く、自国の問題としても認識する必要があります。後者に関しては、的外れもいいところです。水産物に関して言うと、中国は輸入よりも輸出の方が多いのです。つまり自給率が100%を超えているのです。このレポートのベースケースでは、2030年になっても、中国は水産物の輸出国のままです。近年、中国人の水産物の消費量が増加しているとはいえ、一人あたりの消費量は日本の半分程度です(Figure 2.12)。「世界中の水産物を食べ尽くす」という非難は、一人あたりの水産物輸入量が一番多い日本にこそ当てはまるのでは無いでしょうか。
「中国を非難して、自国の問題について思考停止する」という態度をとり続ければ、日本の漁業はますます衰退し、中国を含む海外の漁業への依存度が高まることになります。この流れを断ち切るには、「日本の漁業が一人負けである」という厳しい現実を認めた上で、「日本の漁業が衰退しているのは、日本の国内問題である」という認識を持たなければなりません。
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