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理事長からのメッセージ

わが校の「建学の精神」

私学はそれぞれの建学の精神を持ち、その具現化を行い、公立学校とは異なる存在価値を示しています。しかし、建学の精神を具現化することは、「言うは易し、行うが難し」です。それでも、その志をしっかり持って学校経営に携わることが私学経営者の使命と考えています。

創立者である大多和音吉(1887〜1957)は、若き時代に一介の海軍兵としてアメリカに遠洋航海し、日本でも洋装の時代が来ると予感しました。退役し、ミシン会社に就職し、ここ松江の地に赴任しました。ミシン販売には、その使い方も指導しなければ買い手は増えません。妻であるタカ(1893〜1989)はミシンの技術指導を行い、夫婦二人三脚で営業に尽力しました。大正初期、日本中でまだ洋装が普及していない時代に、地方都市において、ミシン販売を行うことは至難なことでした。

そもそも、音吉が海軍に入隊し、アメリカに行ったのは、若くして未亡人になり女手一つで農業をしながら五人の子ども育ててくれていた母への思いがありました。母のような女性が自立できる時代になるために自分のできることを考え、近所の人から「貧しくても海軍に入れば、海外に行く機会が得られる。そこで見聞を広め、次の時代を予見しろ。」と言われたことに起因します。

女性が自立できる社会を夢見て働いていた音吉は、ミシン販売では限界を感じ、会社を辞め、妻と学校を開校します。それがわが校の前身「松江ミシン裁縫女学院」で、今から99年前の大正13(1924)年のことです。

開校したものの、ミシンや洋裁の需要は増えません。ただし、女子教育の需要は、少しずつ増えてきたようです。いわゆる「良妻賢母」を育成する人間教育にも価値を見出した音吉は、その柱を探しました。たどり着いたのが「モラロジー」です。この学問は、法学博士・廣池千九郎が大正15(1926)年に創建した総合人間学です。音吉は、倫理道徳の研究を推進し、人間としてのよりよい生き方と住みよい社会の実現をめざすモラロジーの目的に共感し、道徳教育の推進を考えました。

こうしてわが校は、二つの教育の柱が確立しました。一本は、次の時代を見据え、先んじて行う教育、わが校では「先見・先行教育」と呼んでいます。もう一本が、人間としてよりよい生き方をめざすモラロジーによる道徳教育です。

大正、昭和、平成、そして令和、時代の変遷の中で一世紀近いわが校の歴史は、不易(変えるべきでないもの)と流行(変えるべきもの)を見極めながら歩んで、今日に至っています。これからも建学の精神こそが判断基準と考え、わが校の校名の由来である「社会の発展に役立つ有望な人材の育成」に尽力します。

理事長 大多和 聡宏