iPhoneを使う拡張現実(AR,augmented reality)アプリケーションとして話題を呼んだ「セカイカメラ」のクローズドβ版が2月に公開された。開発を進める頓智・(とんちどっと)の井口尊仁社長は,春から夏ころには「App Store」での無償公開を,夏までには海外向けの公開を予定しているとする。
セカイカメラはこれまでビデオでの紹介だけだったが,2月に東京都内で開催されたファッション展示会で,実機によるデモが初めて公開された。
クローズドβ版では,「エアタグ」をiPhoneのライブビュー映像に重ね合わせて表示する(写真1)。エアタグは,緯度・経度・高さの位置情報と共にサーバーに蓄積される。画面上では,iPhoneの現在位置の近くに登録されているエアタグがライブビュー内を浮遊する。ユーザーはそのタグをクリックすることで,詳細情報を閲覧したりコメントを書き込める(写真2)。
2月の公開時点ではエアタグに含まれる情報は文字と画像だけだが「App Storeでの公開時にはMP3の音声ファイルにも対応したい。MPEG-4動画も対応可能だが,回線の帯域幅の問題があるので検討中」(井口社長)とする。
今回のデモでは,位置情報の取得にクウジットの「PlaceEngine」を利用した。PlaceEngineは無線LANを使う位置情報取得サービスである。会場では,25カ所に無線LANの基地局を設置した。位置情報の取得には,iPhoneが内蔵するGPS(global positioning system)なども利用できる。位置情報の取得手段は,将来的には可視光通信なども検討しているという。
ソフトバンクも商用化を支援
ビジネスモデルについては,広告のエアタグを表示する“エア看板”や,バーチャル・ペットなどを販売・表示する“エア・キャラクタ”が候補になる。
国内でiPhoneを販売するソフトバンク・グループも乗り気だ。「旅行会社や不動産デベロッパなどにセカイカメラを使うソリューションを提案中だ。具体的な話も数件進んでいる」(ソフトバンクテレコムの石田雄太モバイルSE統括部サービス企画部担当部長)と明かす。観光地やビル,イベント会場などの利用を見込んでいる。「ユーザーが投稿する様々なエアタグが溢れるだろうが,一方で信頼性のある情報のエアタグも用意したい」(石田担当部長)。
Android版も開発中だ。「実はiPhone版よりも開発が進んでいる」(井口社長)。Android端末には電子コンパス(地磁気センサー)が内蔵されるので,カメラが向く方角を自動取得でき,向いている方向にあるエアタグだけを表示できるようになる。
海外でも携帯電話で動く商用ARアプリケーションが登場している。1月には,オランダのING銀行がATM(現金自動預け払い機)を検索できるARアプリを発表した。Android端末で動作する。ARのビジネス利用が急速に現実味を帯びてきた。